指物(読み)サシモノ

デジタル大辞泉 「指物」の意味・読み・例文・類語

さし‐もの【指物/差物/挿物】

戦国時代以降、戦場武士が自分や自分の隊の目印として、よろい受筒うけづつに立てたり部下に持たせたりした小旗や飾りの作り物。旗指物背旗
板をさしあわせて作った家具器具。たんす・箱・机の類。
髪にさす飾り物かんざしくしこうがいの類。
[類語](1軍旗旗指し物/(2家具家財什器什物

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改訂新版 世界大百科事典 「指物」の意味・わかりやすい解説

指物 (さしもの)

板材を組み立てて木製品をつくることの総称であるが,古くは家具,調度類をつくることをいい,地方によっては建具製作のことをいった。また指物をつくる工人を指物師と称した。指物は木工を構造的にするもので,木工芸のうちもっとも多用される手法であり,日本において極度の発達をみた。その構造の適否は作品の耐久性,美的効果に直接関係するから,それらの目的用途に合致するよう応用されねばならない。指物の基礎的手法は,すでに正倉院の木工においておおむね行われており,その伝統は現在にも引き継がれている。指物における基本的手法には,矧手(はぎて),端喰(はしばみ)(端嵌(はしばめ)),留(とめ),組手(くみて)などがある。矧手は主として所要の幅をうるための板材のはぎ合せ法で,芋付(いもつけ)(胴付矧(どうづけはぎ))と斜付(ななめつけ)は,ともに補強のために太枘(だぼ)あるいは空木(うつぎ),竹釘を挿入し,千切(ちぎり)を嵌入することもある。さらに2枚の板を上下半分ずつ相欠きとし,接合膠着する相欠(あいがき)(合決矧あいじやくりはぎ),違矧),雇実矧(やといざねはぎ),実矧(さねはぎ)(本核(ほんざね)),薬研矧(やげんはぎ)などがある。端喰はこうしてはぎ合わせた板の離脱,反張を防ぎ,また木口(こぐち)を隠すため両木口へ桟をはめる工作で,棒端喰,留端喰,端燕(はしつばめ)などがある。留は箱組み,枠組みなどにおいて,二つの材が直角または他の角度で出合うとき,その角度を折半して接合したもので,これを強化するために種々の工作が行われる。大留(おおとめ),半留(はんどめ)などがあり,相欠付,留形相欠枘(ほぞ),留形三枚付,隠留(かくしどめ)蟻形三枚組,雛留などがみられる。組手には,2枚の板の端を等分し,それぞれの反対側を欠き取った相欠組,このを3枚,5枚,7枚とした三枚組,五枚組,七枚組などがある。また,石畳または霰枘(あられほぞ),地獄枘といった入念な仕口,さらに縄組,捻組(ねじぐみ),蟻組,天秤差(てんびんさし)などもある。これら木口を両端に表す外枘組に対し,包蟻(つつみあり)のように平面が木口を包むもの,まったく枘を包み隠した隠蟻のごとく内枘組のものがある。なお,旗指物の意味の〈指物〉については〈旗指物〉の項を参照されたい。
継手
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「指物」の意味・わかりやすい解説

指物
さしもの

中世末期、戦国時代以降、軍陣で、自己の存在あるいはその所属などを明示するために身体につけた竿(さお)のある小旗。一般には背に負ったものを称するが、腰にさした腰指(こしざし)もある。天文(てんぶん)(1532~1555)ごろの風俗を写す『洛中洛外図屏風(らくちゅうらくがいずびょうぶ)』(上杉家本)では、鎧武者(よろいむしゃ)が後世の旗指物と同じものをすべて腰にさしているので、腰指から発達したものと思われる。当世具足の背の部分には、たいてい指物を立てるための「受筒(うけづつ)」、それをさす「合当理(がったり)」「待受(まちうけ)」があるように、近世に至って背に立てる形式で定着したと思われる。戦国時代には、甲冑(かっちゅう)は簡略化し、威毛(おどしげ)の色彩の効果も薄れたため、また集団戦法の採用から、軍団の進退に伴う自己の明示、所属・職階の区別のために発達した標識である。したがって戦国大名の陣触れ状や着到状、軍法には指物についての規定がしばしば示される。

 形状は、幟(のぼり)状の旗が基本と思われるが、正方形の四方(しほう)、その半切である四半(しはん)、幟の端を切り裂いた切裂(きっさき)、撓(しない)、靡(なびき)、折掛(おりかけ)などの小旗、それらの小旗の組合せである三本撓、二本靡、各種の柄蔓(えづる)、あるいは、提灯(ちょうちん)、団扇(うちわ)、御幣(ごへい)、金扇(きんせん)、吹貫(ふきぬき)、酒林(さかばやし)などのさまざまの道具をかたどったものがある。旗は色彩だけのものもあるが、模様、紋章、文字などをも記し、人目をひく意匠を凝らした。『北条五代記』の三好孫太郎の七つ提灯、武田信玄(しんげん)の使番の士の百足(むかで)を描いた指物などが名高い。またしだいに長大になって、背負うことなく、指物持(もち)として従者に持たせる例もあった。

[齋藤愼一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「指物」の意味・わかりやすい解説

指物
さしもの

差物,捺物,挿物とも書き,背旗ともいう。戦国時代,武士が自己の存在,所属を誇示するために,具足の胴の背に差しかざしたり,従者に持たせた小旗の類。旗は無地,または書画を染め出し,形は輪貫,馬藺 (ばりん) ,吹流し,うちわなどいろいろあった。

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「指物」の解説

さしもの【指物】

木材を組み合わせて作った箱・家具・建具など。特に、金釘(かなくぎ)を使わずほぞなどの技法を用いて組み立てるものをいうことが多い。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「指物」の解説

指物[木工]
さしもの

関東地方、栃木県の地域ブランド。
大田原市・小山市・日光市・宇都宮市などで製作されている。欅・柿・栃などの板や角材を組み合わせ、矧合・相欠・ほぞ組などの技法が駆使される。栃木県伝統工芸品。

指物[木工]
さしもの

九州・沖縄地方、熊本県の地域ブランド。
熊本市で製作されている。桑・欅を材料に使用。文箱・八角茶筒などがつくられる。最近は小物入れに螺鈿を組み込んだものもある。熊本県伝統工芸品。

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百科事典マイペディア 「指物」の意味・わかりやすい解説

指物【さしもの】

旗指物

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世界大百科事典(旧版)内の指物の言及

【纏】より

…戦場での集団中に目につきやすい標具として,16世紀になって盛んに用いられた纏は幟(のぼり)の大型なもので,《大坂軍記》にも〈大纏は朱の大四半,大幅掛に白き葵(あおい)の丸なり〉とか〈井桁(いげた)の紋の茜(あかね)の四半のまとひ〉と見えている。しかし他と紛れぬように,幟のほかにも作り物を用い,ときには当世具足の背に着けた指物(さしもの)を纏としたので,《甲陽軍鑑》には〈北条家の大道寺九ッ挑灯(ちようちん)のさし物をそえにしてもたする,是によってまとひは北条家よりはじまる〉と伝えている(旗指物)。また竿の先端に趣向をこらした作り物を施し,さらに馬簾(ばれん)といって輪形に切裂(きつさき)を長くたらしたのを加え,これを馬脇の標識とした馬印を纏と呼ぶようになった。…

【家具】より

…(2)フランス 18世紀のルイ15世からルイ16世,さらにナポレオンの時代にかけて,宮廷や貴族階級の生活様式を反映した華麗で豪華なロココ様式や古典主義様式の家具が流行した。彫刻や寄木の精巧な装飾技術,指物技術,綴織や絹織物の技術などが最高水準に達したのもこの時代である。この高度に洗練された家具製作の技術の伝統を背景に,19世紀末には有機的な曲線をもつアール・ヌーボー様式の家具,さらに1920‐30年代にはキュビスムに影響をうけたアール・デコ様式の家具が展開し,世界の家具デザインに大きな影響を与えた。…

※「指物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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