TAとも略記する。科学技術の開発や適用に際して,それが経済,人間・社会,自然環境などに及ぼす影響を多面的な観点から事前に把握し,その利害得失を総合的に評価して,対応策の設定や開発方向の明確化等を行う分析評価の方法を指す。〈技術の事前評価〉〈技術再点検〉などと訳されることもあるが,定訳はない。
テクノロジー・アセスメントという概念の発祥は,1960年代のアメリカである。60年代後半から70年代にかけて,アメリカのみならず世界の先進国では,環境汚染の深刻化,都市の過密化,人間疎外などの諸問題が噴出し,科学技術は,それがもたらす便宜や利益などプラス面だけではなく,環境汚染などマイナス面にも注目すべき必要が生じてきた。こうした社会的な背景から生まれたのがテクノロジー・アセスメントである。
テクノロジー・アセスメントの目的は,科学技術を,人間・社会,自然環境などとの調和を保ちつつ経済の発展に貢献できるように誘導することによって,その効用を最大のものとすることにある。
テクノロジー・アセスメントをどのような手順で実施するかについては,とくに確立されたものはなく,その対象技術などによって異なってくる。アメリカのマイター社MITRE Corp.(マサチューセッツ工科大学の研究者を主体とする非営利的なシンクタンク)で開発された7段階法をはじめ,種々のものがあるが,いずれも一連の手順の中に次のような内容を含んでいる。(1)その技術が適用される物理的・社会的諸条件の設定,(2)技術の概要把握,(3)技術の社会等に与える影響(インパクト)の摘出・整理・分析,(4)インパクトの評価。
テクノロジー・アセスメントに用いられる手法は,デルファイ法やシステム・ダイナミックス,クロスインパクト・マトリックスなど多くの予測手法がある。これらは対象技術などによって選択,組合せが行われる。
テクノロジー・アセスメントはもともとアメリカで提唱され発展してきたもので,1960年,下院科学宇宙委員会科学研究開発小委員会は,技術革新の直接・間接の影響を調査した報告書を発表したが,テクノロジー・アセスメントという用語が最初に使われたのは,この報告書においてである。その後,同小委員会議長ダダリオE.Daddarioらによってテクノロジー・アセスメント法案が数次にわたって提出され,72年同法は可決成立した。
本法によって設立されたテクノロジー・アセスメント局は,議会の付属機関として,約200人のスタッフと年間約1000万ドルの予算により,毎年約30件のテーマについてテクノロジー・アセスメントを実施している。これとは別にNSF(アメリカ科学財団)も独自の活動を行っている。
日本にテクノロジー・アセスメントが紹介されたのは1969年末である。70年から71年にかけては,科学技術会議,産業構造審議会などの政府審議機関の答申において,その重要性が強調され,72年には科学技術庁から農薬,住宅用高層建築,コンピューター利用教育システムの3種の事例研究が発表された。その後,産業技術審議会には部会が設置され,基本事項についての検討が行われている。テクノロジー・アセスメントの内容・手法等は政府部内でも各所で吸収・実施されているとみられるが,民間においてもシンクタンク,大企業などで取組みが行われはじめている。
OECD(経済協力開発機構)が71年に検討を開始し,セミナーの開催,ガイドラインの作成などが行われてきた。現在は,加盟各国で個別に実施する段階にあるが,随時,会議の議題とされ,共同作業等の検討が行われている。
執筆者:並木 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
急速に進歩・発展する技術が周りの自然環境・人類社会にどのような影響を与えるかを事前に検討評価し、とくにマイナス要因については事前の予測に基づき、まえもって対処する考え方、技術をいう。
テクノロジー・アセスメントは、1967年にアメリカ議会下院にこのことばを冠した法案が提出されてから注目されるようになった。日本でテクノロジー・アセスメントがしきりといわれるようになるのは1970年代に入ってからであるが、これは公害の問題と非常に深く関連している。1960年代からの高度経済成長政策の下であらゆる産業分野は技術革新を推進し、生産性向上を追求したが、その激しい矛盾の一つとして公害という事態が生じた。水俣(みなまた)病、イタイイタイ病、大気汚染による喘息(ぜんそく)などの被害が大都市・工業都市などを中心に広がり、全国的な規模で公害反対の運動が強まった。こうした状況のなかで行政の責任も追及されるようになり、政府・企業の対応として科学技術庁(現、文部科学省)・通商産業省(現、経済産業省)が中心になって「テクノロジー・アセスメント」を提案するようになった。1969年(昭和44)に日本からアメリカに派遣された環境問題についての調査団がテクノロジー・アセスメントの考え方を仕入れてきたのである。そして1970年に科学技術会議(現、総合科学技術会議)が「1970年代における科学技術政策」を提案、このなかにテクノロジー・アセスメントということばと考え方が取り入れられた。
本来、テクノロジー・アセスメントというのは、いかなる社会であろうとも人類全体が健全な生活を送り社会的にも発展していく、という点が評価の中心でなければならず、企業や一部の人にとってのものであってはならない。その場限りのものでなく、長期的な展望を含めて、真に科学的な根拠に裏づけられたものでなければならず、具体的な事例研究も進められている。また住みやすい環境の維持・発展のためには、いかに政策が出されようとも、国民全体の生活・環境に対する絶えざる関心が重要であり、公害に対する厳しい監視の目ももち続けなければならない。たとえば、自動車の排気ガス規制は一定の規制がされたもののその後は進展せず、運動が弱まると自動車にとどまらず、公害全体に関する研究体制までも弱体化するという現実は、そのことを物語っている。
[雀部 晶]
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…しかるに現代技術は時とともに,自然および社会にますます大きなインパクトを与えており,後追いの対策だけでその悪影響を断つことはできない。そこで登場したのが,テクノロジー・アセスメント(略称TA)の考え方である。 テクノロジー・アセスメントの考え方を提唱したのは,アメリカの政治家エミリオ・ダダリオである。…
※「テクノロジーアセスメント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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