翻訳|tent
天幕ともいう。移動式の家屋で解体して持ち運びのできる簡易なものを指す。獲物や家畜を追って移動する狩猟民,牧畜民の住居として,北アジアの狩猟民や北米インディアンの用いた3本の木を組み合わせた形や2本ずつ組み合わせた上に1本を渡し,さらにその上に皮や草で編んだマットを覆ったものやモンゴル,キルギスの遊牧民のユルタやゲルのような柳の枝などで組んだ笠状の屋根にフェルトをかぶせたもの,西南アジアの遊牧民の長方形のブラックテントなど,現在も用いられているものもあるが,一般的には日常的住居としてではなく,臨時の露営,キャンプ用として軍事,探検,登山などで用いられる布製のテントを指すと考えてよかろう。運動会用や工事用に用いる野外の日よけ,雨よけに用いるものもテントと呼んでいる。軍事用,野外音楽,演劇やサーカスなどに用いる特殊な大規模なテントもあり,これらも仮設的な移動可能施設として用いられている。
テントの形には三角型,ウィンパー型,片流れ型,かまぼこ型,ドーム型などもあるが,普及しているのは屋根型,家型である。目的によって重量,居住性,耐風性などが問題とされるが,夏季に用いるものは軽量で居住性の良いものが好まれ,日本では1人分の広さの基準を180cm×45cmとしている。冬季は耐風・耐雪性が問題となり,広さも衣類などが多いので20%増しとする。材料は古くは厚手の平織りの麻や綿であったが,現在ではナイロン,ビニロン,テトロンなどが多く用いられている。
まず,しわなく張ることで,どんな良いテントも,しわがあれば漏水する。長期間の場合にはフライシート(覆い)を用いる。キャンピングには高さの高い居住性の良いものが適している。テントの設営は,洪水,雪崩などの危険がなく,できるだけ平たんな乾燥した草地を選び,次の順序で張る。(1)テントの部品,とくに張り綱やペグ(杭)の数などを確かめる。(2)敷地をならし,石などを取り除いて平らにし,できれば草などを敷く。(3)4隅を固定する。(4)ポールを立てる。(5)腰綱を張り,しわの寄らないように固定する。(6)グランドシートを張り,湿気の遮断につとめる(これは最初にしてもよい)。(7)テントの周囲に排水溝を掘る。(8)炊事設備,便所の設備がないときには,風下に設置する。(9)撤収のときには,ペグ,張り綱の数を確かめ,泥などをよく落とす。(10)下山後,テントは1度干してからしまう。冬季はテントの周囲に雪で防風垣をつくる。テント内では整理を十分にし,換気と火の元に留意する。
→キャンプ
執筆者:徳久 球雄
アラビア語でテントはハイマkhaymaと呼ばれ,定住家屋でも,遊牧民のテントが基層構造となっている。テントの屋根と壁は,多くは動物の毛で織った30~50cm幅の帯を張り合わせてつくられている。形は,中央アジアの丸型のものとは異なり,西アジアでは総じて長方形で,東または南向きに張られる。支柱は,側面からみて主柱,前柱,後柱の3種類が3列に並ぶ。中央に垂直に高く主柱を立て,その前後に,前幕を支える前柱と,後幕を支える後柱を置く。前幕は,ハレム(女部屋)を除いては日中は開けておき,後幕は,下部を土に埋め込んだり,石を置いてまくれあがらないようにして後壁とする。前・後柱は垂直ではなく少し倒す形になっている。
テントの規模は,中央の主柱の数で決まる。正面からみて両端の側壁を支える柱を除いた主柱の数で,〈2本柱テント〉〈3本柱テント〉などと呼ぶ。通常は前者で,その場合3部屋構成となる。向かって右の部屋が客間兼男部屋で,左の2部屋がハレムと台所となる。客間とハレムの間には,以前は色彩豊かで上質な仕切り幕がつるされていたが,今日では簾(すだれ)に薄絹を張った簡便なもので代用されている。客間では,ラクダの鞍が据えられた場所が主座であり,その鞍のできばえ,およびハレム内にあるハウダジュ(女性用担いかご)のできばえが,その家の地位,豊かさの尺度とされた。テントの幕を織ることやその設営は,女,子どもの役割である。主柱には家宝が掛けられ,また前柱に付けられる旗やロープは,プライドの高い遊牧民同士の間で,テントを通過する者への無言の信号・意思表示となっている。
執筆者:堀内 勝 おおくの遊牧民にとって,固い壁に囲われた家で寝ることは恐怖の種である。壁や天井が崩れおちてこないかと心配なのも一つの理由であるが,外界と絶ち切られた状態が彼らの不安感をかきたてるようだ。テントは,居住空間の外皮の機能をになっている。外皮は,外界との境界でありながら,そのいぶきを微妙に伝える役目ももつ。大地を直接の床とするテント生活は,自然との一体感に根ざした一種の安心感を遊牧民たちにもたらす。
遊牧民のテントを,素材と形態に基づいて大別すると,(1)織布-ブラックテント,(2)フェルト-ユルタ(ゲル),(3)その他,の3種類になるだろう。織布-ブラックテント型の分布はもっとも広い。東はチベットから西は北アフリカまで,乾燥地域に広くみられる。チベットでヤクの毛を素材として用いる以外,ほとんどの地域では黒ヤギの毛で織った織布をテント地として使用している。北アフリカなど一部の地域では,ヤギの毛にヒツジやラクダの毛をまぜて使うこともある。ブラックテントの形態は多様だが,一定の幅で織りあげた織布を数枚から十数枚縫い合わせる手法は共通している。形態の差異は,おもに支柱,張り綱,側壁などの形に基づく。アラブ,ペルシアのブラックテントは数本の支柱(中央の支柱と2本の側柱が基本形)で支持されるが,張力帯の有無という点で相違点がある。アラブ遊牧民のブラックテントには,長方形の短辺に並行して数本の弾力帯が縫い合わされていて,張り綱はこの先端にとりつけられた索具に結ばれる。こうしたくふうは,強風に対する弾力的な対応力を生んでいる。フェルト-ユルタ(ゲル)型のテントは,モンゴル高原から中央アジアにかけて分布する。おもにトルコ系およびモンゴル系の遊牧民が使用している。チベット,アフガニスタン,イラン,トルコを結ぶ地域の周辺では,ブラックテントとユルタ(ゲル)型のテントが混交してみられる。ユルタ(ゲル)型のテントは円形で,蛇腹式になった側壁で天蓋を支え,全体をフェルトで覆った形になっている。防寒性と気密性という点では,ブラックテントにまさる。第3の類型にはいるテントは,獣皮製や木皮製などのものである。北アフリカの一部やシベリアなどにおいてみられる。北アフリカのトゥアレグ族では,なめしたヤギ皮やヒツジ皮を地上に固定した支持棒や支持枠の上に張りめぐらせてテントにする。
遊牧民のテントは,いずれも移動生活を前提としてつくられている。ブラックテントやユルタ(ゲル)型テントは,ラクダやヤクの背,牛車など運搬手段を確保してから初めて実用化されたものであろう。こうした運搬手段を欠いたながい前史が,遊牧生活にはあったはずだ。その時代,まったくの野営から獣皮や木皮,枝,草などを用いたテントの原形まで多様な生活形態がみられたにちがいない。
→住居
執筆者:松原 正毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…キャンピングcamping,野営または露営ともいい,野外における一時的な生活をすること。テント利用のほか,バンガロー,コテージ,ヒュッテなどを利用するものや岩小屋など自然の地物を利用するものがあり,また登山の場合,簡単なツェルトザックなどでビバークするもの,積雪期に雪洞やイグルー(雪や氷のブロックを積み上げてつくったドーム型の住居)を利用するもの,宿泊設備を何も持たない野営なども広義には含んでいる。軍隊の一時的居住などを称することもある。…
…農耕社会でも焼畑を経営する人々の住居は多少なりとも移動性を伴う。遊牧民ベドウィンのテントやモンゴルのゲルに代表されるような移動式住居は,われわれにもう一つの住居観を教えている。それは一ヵ所に定住しない世界であり,家船(えぶね)を住居とする漂海民にも通じていく。…
…遊牧民はこれらの動物とともに,夏の居住地(夏営地)と冬の居住地(冬営地)の間を,定期的・周期的に季節移動する。移動を容易にするために,彼らは普通固定家屋をもたず,組立て式の,羊毛を圧縮して作ったフェルト製のテントに暮らす。食生活も,主としてドライ・ヨーグルト,バター,チーズなどの乳製品でまかなわれ,その財産である動物の肉が食用に供されるのは,祭りや客の接待,冬季の保存食など,特別の機会・用途のために限られる。…
…50年フランスのM.エルゾーグ隊は鎖国を解いたネパールにはいり,アンナプルナ主峰(8091m)に初めて登頂した。これが人類初の8000m峰登頂であり,またこの隊はナイロン製のテントやロープなどを最初にヒマラヤで使用した科学的装備の隊であった。これから登山装備は急速に進歩した。…
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[生活文化]
ベドウィンの生活は,古来からあまり変化がなく,移動を軸とした文化がみられる。住居は移動に適したバイト・シャアルbayt sha‘ar,あるいはハイマkhaymaなどと呼ばれる黒っぽいテントである。ヤギまたはラクダの毛で,通風が良いように織られ,雨が降ったときには毛糸が膨張して雨水を下に通さないようにできている。…
※「テント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
突発的に発生し、局地的に限られた地域に降る激しい豪雨のこと。長くても1時間程度しか続かず、豪雨の降る範囲は広くても10キロメートル四方くらいと狭い局地的大雨。このため、前線や低気圧、台風などに伴う集中...