働きがいのある、人間らしい仕事。1999年の国際労働機関(ILO)総会で、事務局長フアン・ソマビアJuan Somavia(1941― )が提唱した概念。英語のdecentには「適切な」「満足できる」「きちんとした」といった意味があり、ディーセント・ワークには「働く人の権利が適切に保護され、十分な収入を生み出し、社会的に意味のある仕事」という意が込められている。具体的には、(1)賃金、労働時間(1日当り、1か月当りなど)、休日数などに関する制度が整い、働きながら健康で人間らしい生活を持続できる、(2)団体交渉権など労働三権を始めとする諸権利が保証されている、(3)暮らしと仕事の両立が可能で、雇用(失業)保険や医療・年金・育児・介護制度などのセーフティネットが確保されている、(4)性別、国籍、年齢などに基づく差別やハラスメントがなく、同じ仕事をした場合に収入や昇格面で公正に扱われる、などの条件が満たされた労働を意味する。
ILOが現在、すべての働く人が獲得すべき労働条件としてディーセント・ワークを活動の主目標に位置づけ重視する背景には、グローバル化による企業間の国際競争が激化し、新興国や途上国だけでなく先進国でも労働者保護の行き届かない状況が生まれているとの認識がある。日本では2007年(平成19)に政府や地方公共団体、経済界や労働界の代表者らが策定した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」にディーセント・ワークの実現が盛り込まれ、2010年に民主党政権が閣議決定した新成長戦略には、均等待遇の推進、最低賃金引き上げ、年次有給休暇の取得推進、労働時間短縮などが明記され、労働者派遣法の規制強化などが進んだ。『労働経済白書』(2012年版)にも、日本経済がマクロの好循環を取り戻すための要素の一つとして「ディーセント・ワークの実現が不可欠」と記されている。
[編集部]
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