本来は〈巨(おお)きい〉ことを意味するギリシア語であるが,ここでは英語のmacroscopic(巨視的)の省略形の意味で理解する。さらに,巨視的という語も〈ものごとを大づかみにとらえる〉という意味で一般的に使われるが,自然科学での用法に限定しておく。マクロは,その反対概念としてのミクロを予想して用いられることが多いが,ミクロの取り方によってマクロの意味も違ってくる。例えば古典的な(つまり量子力学を考慮に入れない)統計力学においては,物質の現象面での性質やふるまい(例えば熱現象)は,原子レベルでの力学と確率論で記述されるが,この文脈にあっては,統計力学的考慮はミクロになり,現象上の記述はマクロになる。しかし,統計力学は,原子(分子)1個1個の力学的ふるまいを完全に時系列のなかで追うのではなく,確率論的な考慮を加える(例えばギブズの理論)のだから,1個1個の確定的記述を問題にしようとする視点をミクロとすれば,統計力学的取扱いはマクロと呼べる。量子力学は素粒子レベルsub-atomic levelを扱うが,古典力学とは物理的系についての記述の様式が本質的に異なる。そこから観測の問題も生ずるが,こうした場面では,量子力学的記述の立場をミクロ,古典力学的記述の立場をマクロとして区別するのが通例である。
執筆者:村上 陽一郎
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