出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
トキソプラズマ症は自然界の動物に比較的広範囲にみられる
トキソプラズマ感染後にエイズなどで免疫不全状態になった場合、あるいは妊婦が妊娠初期に初感染し、原虫が母体から胎児へ移行して垂直感染を起こした場合以外は、症状を示すことはまれです。
先天性感染は流産・早産といった転帰をとることが多いと考えられています。妊婦の感染で胎児に影響が及ぶのは、
健常者が後天的に感染した場合、ほとんどが無症状のまま経過することが多いのですが、免疫力が低下している人の場合は、
感染の有無の判定は一般に血清中の抗体の検査により行われます。凝集法、免疫酵素抗体法、色素試験などがあります。血清抗体の検査にはIgGとIgMの2種類の検査があります。感染の初期にはIgMが、それ以降はIgGが上昇するので、IgGとIgMを区別したり、抗体の親和性を調べることでいつ感染したか推定できることもあります。
また、患者さんの脳脊髄液やリンパ節組織を材料としてトキソプラズマのDNAを増幅したり、患者さんの血液中のトキソプラズマの抗原を免疫酵素抗体法で検出する方法も、一部の研究機関で行われています。
トキソプラズマ症を完全に治療できる薬は見つかっていません。患者の脳や骨格筋・心筋などにいて休眠しているシスト(嚢子)と呼ばれる原虫を殺す薬はないからです。活発に分裂・増殖するトキソプラズマ原虫にはピリメタミン、サルファ剤、アセチルスピラマイシンなどが有効とされ、トキソプラズマ症の治療に用いられています。
妊娠初期にトキソプラズマに初めて感染すると、胎児が先天性トキソプラズマ症になる可能性があります。この時期にはネコとの接触を避ける、食肉は十分に加熱するなどの注意が必要です。
すでに感染している女性が妊娠した場合は、胎児に先天性感染を起こす危険はまずありません。
野崎 智義
一般に、妊婦が初めてトキソプラズマ(原虫の一種)に感染すると、血液中に流入したトキソプラズマが胎盤を介して児に感染し、児に
感染経路は口が主で、目や呼吸器もあるといわれています。経口感染の感染源は、食用肉・内臓(不十分な加熱処理のブタ・ヒツジ・ウシ・トリ、レバーなど)に含まれるトキソプラズマのシスト(嚢子)、あるいはネコの糞に多量に含まれるオーシスト(胞嚢体あるいは卵嚢子)があります。オーシストは土中で18カ月間感染性を有し、塩素消毒は無効です。
東京近郊の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は7.1%ですが、南九州では14.0%と地域により差があります。東京近郊のデータでは、妊婦の妊娠中の初感染率は0.13%と推定されており、これをもとに推計すると、全国で年間約480例、うち軽症が4.4%で約70例、重症が2.6%で約40例となります。
トキソプラズマ抗体またはトキソプラズマIgG抗体が陽性ということは、トキソプラズマに感染したことを示しますが、その時期は判定できません。
トキソプラズマIgM抗体が陽性であれば、最近である可能性があります。妊娠初期に陽性であれば妊娠中の初感染の可能性があり、先天感染の可能性も生じてきます。
通常、妊娠初期にトキソプラズマIgM抗体が陰性であれば、妊娠前の初感染の可能性が高く、先天感染の可能性はなくなります。
一般に微生物に感染した場合、宿主は初期にはアビディティ(抗原結合力)の低いIgG抗体を産生しますが、時間が経過するにつれてアビディティの高いIgG抗体を産生します。これを応用し、初感染からの時期を推定することができます。したがって、トキソプラズマIgM抗体が陽性でもトキソプラズマIgG抗体のアビディティが高ければ、必ずしも妊娠中の初感染を意味しません。IgM抗体が陽性で、かつIgG抗体のアビディティが低ければ、最近の感染を意味します。
妊娠中の感染が否定できなければ、羊水
アセチルスピラマイシンは、1日1200㎎(分4)で21日間服用し、14日間休薬することを1周期とし、これを分娩まで繰り返します。妊婦の治療により重症先天性トキソプラズマ症の発生率が2分の1~7分の1に減少することが認められています。
小島 俊行
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
人獣共通伝染病の一つ。病原体は2~4μm×4~7μmの三日月形をした原虫の1種トキソプラズマ・ゴンディイToxoplasma gondiiである。固有宿主はネコ科の動物であるが,ネコ以外でも,イヌ,ウシ,ブタ,メンヨウ,ヤギ,ニワトリ,ウマ,ネズミなどにも感染し,これらの動物の組織内に寄生する。原虫の生活環にみられる各発育形態のうち,ヒトや動物の感染源となるものは増殖型,シスト(囊子),オーシスト(卵囊子)の3種で,ヒトの場合はシストとオーシストが感染源となるが,胎内感染では増殖型が原因となる。感染は,ブタ,ウシ,ヒツジ,ウマなどの肉を十分加熱しないで食べた場合や,ネコの便によって直接に,またはハエや昆虫を介して汚染された食物を食べた場合に,虫体が経口的に侵入することによって起こると考えられている。原虫は世界中に分布し,年齢とともに感染の機会が多くなる。日本人では地方によっては平均50%前後の抗体保有率を示すところもある。感染を受けても,たいていは無症状であり,ときにリンパ節炎,発熱,発疹などがある。問題になるのは妊婦がはじめて感染を受けた場合で,虫体が胎盤を通って胎児に移行し,胎児に脳や眼をはじめとする全身感染を起こすことが知られている。これは先天性トキソプラズマ症といわれるが,初感染を受けた妊婦の約1/3の胎児に起こるといわれる。妊娠初期に感染すると多くは流産,死産となるが,妊娠後半に感染すると,生まれた新生児に脈絡網膜炎,水頭症,脳内石灰化がみられたり,ときには痙攣(けいれん),貧血,黄疸遷延,肝脾腫などがあらわれる。また,新生児期に異常がなくても,だんだん水頭症,知能障害などが起こってくることもある。
診断は,酵素免疫測定法や蛍光抗体法を用いた血清抗体試験による。治療の必要性や継続期間は,症状の重症度や症例(とくに妊娠時の感染など)によって決められ,治療にあたってはサルファ剤,ピリメサミン,スピラマイシンなどが用いられるが,これらの薬は副作用も強く治療は難しい。
予防としては,肉は十分に熱を通して食べること,食前の手洗いの励行が肝要であり,ネコとの過度の接触を避けることが望ましい。
執筆者:松村 武男+奥山 和男
家畜では,ブタ,ヒツジ,イヌ,鳥類に自然感染を起こし,とくにブタへの感染率が高い。ブタに感染すると,高熱,食欲減退,元気喪失,呼吸困難,鼻汁の流出,眼結膜の充血,下痢などの症状がみられる。また,てんかん様発作,嘔吐,起立不能などの神経症状を呈することもある。病豚の解剖所見では,肺水腫,点状出血,巣状壊死(えし),肺炎,肝臓・脾臓の腫大,腹水の増大,リンパ節の腫大がみられる。血清診断として色素試験が応用されている。予防には感染動物の筋肉中の囊胞とネコの腸から排出されるオーシストの排除が必要である。
執筆者:本好 茂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そのほかにはコクシジウム症があげられる。この病原虫は3種類が知られており,そのうちの一つはあまり多くはないがトキソプラズマ症と同じ病原体である。これらはいずれも検便で診断でき,治療も可能で恐れる必要はない。…
※「トキソプラズマ症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
フランスのパリで開催されるテニスの国際大会。1891年創設。ウィンブルドンテニス大会、全豪オープン、全米オープンとともに世界四大テニス選手権大会の一。四大会では唯一クレーコートで行われる。飛行家ローラ...