改訂新版 世界大百科事典 「人獣共通伝染病」の意味・わかりやすい解説
人獣共通伝染病 (じんじゅうきょうつうでんせんびょう)
zoonosis
人と脊椎動物との間に自然に移行する感染症。現在世界に約200種が分布している。WHO(世界保健機関)によれば,下等脊椎動物と人との間で自然に伝播(でんぱ)され,人の感染症の多くがこれであるとしている。人と下等脊椎動物間の異なる多数の感染症の集まりで,次の4型に分類されている。
(1)直接型 接触あるいは媒体を介して伝播し,病原体の感染サイクルを維持するために,脊椎動物を生物学的に必要とするもの。ブルセラ症,狂犬病,旋毛虫症など。(2)循環型 病原体の感染サイクルを全うするために,少なくとも2種の脊椎動物を必要とするもの。条虫症,包虫症など。(3)置換型 無脊椎動物によって脊椎動物へ伝播されるもので,病原体の感染サイクルを全うするため,ベクターもしくは,中間宿主を必要とするもの。アルボウイルス感染症,ピロプラズマ病など。(4)腐生型 有機物もしくはその他の無生物物質に保留されているもの。ボツリヌス中毒,リステリア症,コクシジウム症など。
人獣共通伝染病の原因としては,ウイルス,リケッチア,細菌,真菌,原虫,寄生虫など,ひじょうに広範囲にわたっているが,衛生上人に重要な病原が約90種存在している。日本で重要なものとしては,次のような病名が挙げられる。(1)ウイルス 日本脳炎,狂犬病,ニューカスル病,猫ひっかき病,リンパ球性脈絡髄膜炎。(2)リケッチア Q熱,リケッチア性痘瘡(とうそう),オウム病。(3)細菌 炭疽(たんそ),ブルセラ症,ブタ丹毒,レプトスピラ症,リステリア症,パスツレラ症,ペスト,サルモネラ症,溶連菌症,結核,野兎病,ビブリオ症。(4)真菌 皮膚真菌症。(5)原虫 トキソプラズマ症。(6)寄生虫 ジストマ症(キュウチュウ類,たとえばカンテツ),包虫症(ジョウチュウ類,たとえばエキノコックス),条虫症(ムコウジョウチュウ,ユウコウジョウチュウ),トキソカーラ病(センチュウ類),旋毛虫症(センチュウ類)などである。
また食品を介して経口感染,あるいは調理,加工の際に経皮感染する人獣共通伝染病の分類もある。この場合,食用(乳,肉)に供せられる獣畜がおもな対象となる。以下,おもな病名と感染動物,病原菌,感染経路を示す。(1)ブルセラ症 ウシ,ブタ,ヒツジ,ヤギ,ノウサギ;ブルセラ菌(牛型,豚型,羊型);経口,経皮。(2)炭疽 反芻獣,ウマ,ブタ;炭疽菌;経口,経皮。(3)結核 ウシ,ヤギ,ブタ,サル,ネコ;結核菌(人型,牛型);経口,経皮。(4)ブタ丹毒 ブタ,家禽,魚類;ブタ丹毒菌;経口,経皮。(5)溶連菌症 ウシ;溶血性連鎖球菌;経口。(6)トキソプラズマ症 哺乳類,鳥類;トキソプラズマ・ゴンディイToxoplasma gondii;経口,経気道,経皮。(7)その他 包虫症,条虫症,旋毛虫症などがある。
執筆者:本好 茂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報