トノサマバッタ(その他表記)Locusta migratoria

改訂新版 世界大百科事典 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ (殿様蝗)
Locusta migratoria

直翅目バッタ科の昆虫。いわゆるバッタ型をした日本のバッタ類の中の代表種。日本全国に見られる。また台湾やフィリピンを含むアジアからアフリカにかけても広く分布する。体長は雄35mm内外,雌50mm内外。前翅の長さは雄25mm内外,雌45mm内外。前翅の大半と腹部などは褐色後肢脛節(けいせつ)は橙色をしているが,頭胸部と前・中肢および後肢腿節,左右前翅の重なる部分などは色彩変異があって,その色彩の濃さによって緑色型,褐色型,黒褐色型,これらの中間型などが区別される。頭部は卵を縦にした形で,頭頂はまるく,複眼はあまり大きくない。前翅は翅脈間に黒褐色斑があるが,これはときに消えることもある。後翅先端にやや黒褐色斑があるものの,全体的には透明で,やや淡黄色を帯びる。後肢の腿節内面には2本の黒色斜帯が見られる。

 成虫は夏から秋にかけて出現し,秋遅くまで見られる。乾いた草地と裸地の間に好んですみ,イネ科の植物の葉をよく食べる。前翅と後肢腿節をこすりあわせてジリジリと音を出すが,雄はしばしば雌の前でこの動作を行う。またバッタ類の中ではよく飛び回る種である。本種は個体群密度が高まると,飛ぶのにより適した形態に変化することが知られており,この状態を群集相と呼び,ふつうに草原でばらばらに生活しているときの孤独相とは区別される。群集相のバッタは飛蝗(ひこう)とも称され,作物に害を与えることで有名であるが,日本での例は少ない。ダイミョウバッタは旧名。
バッタ →飛蝗
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ
とのさまばった / 殿様蝗
migratory locust
[学] Locusta migratoria

昆虫綱直翅(ちょくし)目バッタ科に属する昆虫。裸地のある乾いた草地や河原などに多い大形のバッタ。バッタとしては典型的な体形をもっている。和名はその姿のよいことや頑丈な体つきからおこったもので、ダイミョウバッタ(大名蝗)ともいわれたが、現在はトノサマバッタのほうに落ち着いている。

 体長は雄35ミリメートル内外、雌50ミリメートル内外。体色には緑色型、褐色型のほか、これらの中間型もある。頭部は縦卵形。前翅の翅脈間には細かい黒褐色斑(はん)を多数散布する。後翅は透明であるが淡黄色を帯び、先端に弱く褐色斑が出る。後脚の腿節(たいせつ)には2黒帯が斜めに走り、膝部(しつぶ)は黒く、脛節(けいせつ)は橙黄(とうこう)色である。成虫は夏から秋にかけて出現する。雄は前翅に発音脈があり、後脚腿節をこれにこすり付け、ジリリリとじみな発音をする。発育には同種の他個体が影響をもち、もし大発生して個体群の密度が高まってくると、その群の個体は生理的に変化をおこし、さらに形態にも変化を及ぼし、飛翔(ひしょう)しやすい体形となる。こうした個体を群集相のバッタとよぶが、その場の食物を食べ尽くすと、次々に集団飛翔をして移動していき、ときには農作地帯に大害を与える。これがいわゆる「飛蝗(ひこう)」とよばれるものである。

 通常、一地域の草間で過ごすものは孤独相とよばれ、集団移動をしない。大発生は日本でも過去に数回あり、明治年間北海道で数回起こったものは亜種migratoriaによるもの、1986年(昭和61)種子島(たねがしま)沖の馬毛島(まげしま)で起こったものは同じ亜種によるもの、また1973年(昭和48)南大東島で起こったものは亜種manilensisによるものである。本種は、このように日本では2亜種が知られ、manilensisは琉球(りゅうきゅう)諸島に分布している。

[山崎柄根]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ
Locusta migratoria; migratory locust

直翅目バッタ科。別名ダイミョウバッタ。体長は雄 35mm,雌 50mm内外。体は太く,色彩は変化に富むが,一般に緑色型と褐色型が認められる。触角は短い。前翅は淡褐色で長く,黒褐色の小斑が散在する。後翅は淡黄色でほぼ透明,先端に黒褐色斑のあることがある。後肢腿節内面には2黒帯がある。成虫は夏から秋にかけてみられる。飛翔力は強い。単独生活をするものを孤独相 solitary phaseというが,特殊な環境下では形態的,生態的,生理的に変化し,集団をなして移動するようになる。これは移住相 gregarious phaseといわれ,いわゆる飛蝗 (ひこう) となって農作物に大害を与える。日本全土に産し,旧北区,アフリカに広く分布する。 (→直翅類 , バッタ )  

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百科事典マイペディア 「トノサマバッタ」の意味・わかりやすい解説

トノサマバッタ

ダイミョウバッタとも。直翅(ちょくし)目バッタ科の昆虫の1種。日本最大のバッタで,体長(翅端まで)45〜65mm。緑色または褐色,時に黒褐色。ほとんど全世界に分布する。日本では成虫は8〜10月に発生するが,暖地ではほとんど年中見られる。乾燥した草地にすみ,イネ科植物を好む。普通,単独ですむが,大陸では狭い地域に大発生することがあり,この場合には黒褐色で,翅が長くなり,大群で移住して(飛蝗(ひこう))植物を食い荒らす。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「トノサマバッタ」の解説

トノサマバッタ
学名:Locusta migratoria

種名 / トノサマバッタ
解説 / 川原などの草原にすみます。飛ぶ力が強いです。
目名科名 / バッタ目 | バッタ科
体の大きさ / ♂35~40mm、♀45~65mm
分布 / 北海道~南西諸島
成虫出現期 / 7~11月
幼虫の食べ物 / イネ科やカヤツリグサ科などの植物

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世界大百科事典(旧版)内のトノサマバッタの言及

【蝗害】より

…群れをなして空を飛翔(ひしよう)して移動するバッタ類は飛蝗(ひこう)(近年トビバッタともいう)と呼ばれ,もっとも恐ろしい害虫の一つとされている。飛蝗の性質をもつバッタは種類が多いが,その代表種は,アフリカから旧北区,東洋区に広く分布する移住飛蝗(トノサマバッタ)Locusta migratoria,北アフリカから地中海沿岸,旧ソ連南部などに分布するモロッコ飛蝗Dociostaurus maroccanus,南西アフリカの褐色飛蝗Locustana pardalina,北アメリカのロッキー山飛蝗Melanoplus mexicanus,南アメリカの赤色飛蝗Nomadacris septemfasciata,南アフリカ,中近東の砂漠飛蝗Schistocerca gregaria,中南米の南米飛蝗S.paranensisなどが有名である。これらは数千,数万の大群で遠距離を移動しつつ,植物を食い尽くしてほかへ移る大害虫で,その大発生は現在でも脅威である。…

【蝗害】より

…群れをなして空を飛翔(ひしよう)して移動するバッタ類は飛蝗(ひこう)(近年トビバッタともいう)と呼ばれ,もっとも恐ろしい害虫の一つとされている。飛蝗の性質をもつバッタは種類が多いが,その代表種は,アフリカから旧北区,東洋区に広く分布する移住飛蝗(トノサマバッタ)Locusta migratoria,北アフリカから地中海沿岸,旧ソ連南部などに分布するモロッコ飛蝗Dociostaurus maroccanus,南西アフリカの褐色飛蝗Locustana pardalina,北アメリカのロッキー山飛蝗Melanoplus mexicanus,南アメリカの赤色飛蝗Nomadacris septemfasciata,南アフリカ,中近東の砂漠飛蝗Schistocerca gregaria,中南米の南米飛蝗S.paranensisなどが有名である。これらは数千,数万の大群で遠距離を移動しつつ,植物を食い尽くしてほかへ移る大害虫で,その大発生は現在でも脅威である。…

【飛蝗】より

…大群をなして飛びながら大きく移動し,農作物などに大害を与えるバッタ類のことで,世界から十数種が知られている。とくにアフリカからインドにかけて見られるサバクバッタ(砂漠飛蝗,サバクトビバッタ),アフリカからユーラシアに広く分布し,日本にもいるトノサマバッタ(移住飛蝗)(イラスト)の二つが有名である。これらの種では,大発生はおもに大河流域の乾燥草原で起こり,そこから移動を始める。…

※「トノサマバッタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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