改訂新版 世界大百科事典 「トルンカ」の意味・わかりやすい解説
トルンカ
Jiři Trnka
生没年:1912-69
チェコスロバキアの生んだ人形アニメーション作家。子どものためのメルヘン,おとなのための風刺劇,静謐(せいひつ)な詩的世界,壮大な史劇,不気味なSF,中世艶笑譚など,20年間に及ぶ映画活動期間に幅広く奥深い作品群を残した。
本来優秀な挿絵画家であり,人形作家であったトルンカは,まず〈セル・アニメ〉に取り組み,世界に類例のないグラフィック・アートを用いた《贈り物》(1946)をつくって注目を集め,アメリカのスティーブン・ボサストウやユーゴのドゥーシャン・ブコチッチなどに大きな影響を与えたが,トルンカ自身は〈セル・アニメ〉の表現の可能性に疑問を抱くと同時に,動画の作画工程で自分の絵の味わいが損なわれる点に不満をもち,人形劇の体験を生かして,前人未踏の人形アニメーションの世界をつくりあげた。人形のデザインから,製作,原案,シナリオ,絵コンテ,セットや小道具のデザイン,照明や撮影の指示,そしてみずから演技を示してアニメーターに演出意図を伝えるというところに至るまで,完ぺきな〈個人芸〉に徹したアニメづくりで,その個性と才気,美意識は,アンデルセン童話に託して自由へのあこがれと生命の輝きを歌いあげた《支那の皇帝の鶯》(1948),独特の抵抗精神をこめたチェコ国民風刺文学の映画化《シュベイク二等兵》シリーズ(1951-55),華麗な美学と新解釈でシェークスピアに挑んだ《真夏の夜の夢》(1959),芸術の自由と圧政との戦いの中に苦渋に満ちた深いなぞを含む遺作《手》(1965)等々,すべての作品にうかがえる。アメリカのウォルト・ディズニーと並ぶアニメーションの巨匠といえる存在であり,その後継者として,例えばトルンカに親しく教えを受けたただ1人の日本人のアニメーション作家川本喜八郎がいる。
執筆者:岡田 英美子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報