ドイツの右派政党。欧州債務危機を背景に2013年に経済学者らが結成し、ユーロ圏からの離脱を主張。中東などから多数の移民、難民が流入して社会不安が高まる中、排斥を訴えて17年に国政に初進出した。国政では第5党。情報機関の連邦憲法擁護庁はAfDを「極右団体の疑いがある」と位置付け、東部テューリンゲン州など一部のAfD党支部については排外主義の過激な主張から「極右団体」と認定している。(ベルリン共同)
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ドイツ連邦共和国の政党。略称AfD(アーエフデー)。2013年2月、ヨーロッパ債務危機、ユーロ危機を背景に、新自由主義的な経済学者ルッケBernd Lucke(1962― 。ハンブルク大学教授)らを中心に、脱ユーロ、ドイツ・マルク復帰を掲げて誕生した。党名は、当時の首相メルケルがユーロ支援以外に「選択肢はない」と述べたことへのアンチテーゼ。結党には、ルッケら市場原理主義的な経済学者に加え、中小企業の経営者や、保守系・民族主義団体のメンバーがかかわった。2013年9月の連邦議会選挙では4.7%を得票。善戦といえるが、5%阻止条項により議席獲得は逃した。その後、2014年のヨーロッパ議会(欧州議会)選挙では7.1%を得票し7議席を獲得、旧東ドイツ諸州の州議会選挙でいずれも10%前後の票を得た。
結党直後から経済学者グループと右翼グループとの党内闘争が絶えなかったが、2015年7月の党大会で右翼グループが権力闘争に勝利すると、反ユーロ政党の色は薄れ(ルッケら新自由主義系の人びとは離党)、反移民・難民、反イスラム、治安重視といったテーマに傾斜し、より排斥的かつポピュリスト的性格を帯びるようになった。一時党勢を落としていたものの、2015年秋の難民危機(ヨーロッパ難民危機)を背景に復調し、各州議会選挙で一定の成果をあげた。
2017年9月の連邦議会選挙では12.6%を得票し、議席獲得のみならず、一気に第三党(野党第一党)に躍り出た。実際には移民・難民の少ない旧東ドイツ地域で大きな支持を集めたが、これはヨーロッパ各国に共通した傾向で、移民の少ない地域でこそ、自らのコミュニティが脅かされることへの不安がかき立てられたからだといえる。また、連邦議会選直後の世論調査によると、AfDに票を投じた有権者のなかで同党の主張に「納得」している者は31%にすぎず、実に60%の人が「他党への失望」から票を投じていた。要するにAfDは、難民危機、保守政党キリスト教民主同盟(CDU)の中道化に対する反発、既成政党・マスメディアへの不満、メルケル長期政権への飽きから支持を得て成功したのである。
2018年10月の二つの州議会選挙でも議席を獲得し、AfDはすべての州に議席をもつ政党となった(ただし、2022年5月のシュレスウィヒ・ホルシュタイン州議会選挙では議席を失った)。また、2019年秋の旧東ドイツ三州(ザクセン、ブランデンブルク、チューリンゲン)での州議会選挙すべてで、AfDの得票率は2割を超えた。その一方で、依然として党内闘争は絶えない。たとえば、他党との連立も視野に入れた「現実路線」を掲げたペトリFrauke Petry(1975― )は2017年の連邦議会選挙直前に党内闘争に敗れ、選挙後に離党した。また、党政治家たちの極右的言動がしだいに公的にも問題視されるようになった。2020年3月に党内の最右翼グループである「翼(Flügel)」が憲法擁護庁の監視対象となり、2021年3月には党全体が憲法擁護庁の監視対象となるにいたった。AfDは右傾化することで成功を収めてきたわけだが、他方で右傾化すればするほど穏健な保守層の支持を遠ざけてしまい、ドイツの憲法である基本法が定める「自由で民主的な基本秩序」に抵触し、存続の危機にさらされる。こうしたジレンマにAfDは悩まされている。
2021年の連邦議会選挙でAfDは、メルケル政権の新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)対策のほぼすべてに反対するキャンペーンを展開したが、得票率10.3%と前回よりも落とした。とはいえ、旧東ドイツ地域に限ってはCDUをしのいで、社会民主党(SPD)に次ぐ第二位の票を得、とりわけザクセン州とチューリンゲン州では第一党であった(いずれも約24%の得票率)。旧東ドイツ地域を中心に、AfDは着実にドイツ政治に根を下ろしつつあるといえよう。
[板橋拓己 2022年6月22日]
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