ドイツの大学法制(読み)ドイツのだいがくほうせい

大学事典 「ドイツの大学法制」の解説

ドイツの大学法制
ドイツのだいがくほうせい

ドイツ大学は,州立大学を中心とする制度となっている。連邦憲法である基本法(ドイツ連邦共和国基本法)が,学問の自由や研究・教授の自由について規定している(5条3項)。大学に関する立法権は基本的に州にあり,各州が大学法(名称は州により異なる)など,大学に関連する法令を制定している。連邦と州の立法権の範囲については何回か改正が行われてきており,複雑な面がある。大学大綱法(ドイツ)(1976年施行)は失効状態にあり,大学等の新設拡充に際して連邦が経費の半分を負担することを定めた大学建設促進法(ドイツ)(1970年施行)廃止されている。奨学金に関する法律として,連邦教育助成法(ドイツ)(1971年施行)がある。

[連邦と州の立法権]

連邦制国家であるドイツでは,連邦憲法である基本法で立法権は基本的に州にあり,連邦が立法権を有するのは基本法に規定する事項であることを規定している(「国家の権能の行使および国家の任務の遂行は,この基本法が別段の定めをなさず,または許さない限り,州の仕事である」,30条)。従来,基本法は立法権に関して,①連邦のみが立法権を有する「連邦の専属的立法(ドイツ)」,②連邦が立法した事項について州は独自の立法ができず,州が立法した事項と同じ事項について連邦が立法すると,州法は効力を失う連邦と州の「競合的立法(ドイツ)」,③連邦が大綱的な枠組みについて立法し,詳細は州の立法に委ねる「大綱的立法(ドイツ)」の三つを規定していた。これ以外のものが,州の専属的立法となる。また連邦と州の「共同任務(ドイツ)」も規定されている。このような立法枠組みにおいて,1960年代以降,連邦の立法の対象事項が拡大されてきた一方で,立法に関する連邦と州の関係が複雑になり,社会の変化や国際化の進展に迅速に対応できないという問題も生じてきた。

[基本法改正,連邦制改革]

1969年の基本法改正により,連邦に「大学制度の一般的原則(ドイツ)」に関する大綱的立法権が与えられた(75条1a号)。これにより1975年12月に大学大綱法が制定され,1976年1月に施行された。また,この改正により大学付属病院を含む高等教育機関の拡張および新設が「共同任務」に加えられた(91a条1項1号)。その背景には,地域バランスも考慮して高等教育機関の新設・拡充を行う必要があるが,州が単独でその経費を負担することはむずかしいということがあった。これにより大学建設促進法が制定され,大学等の新設・拡充の経費は連邦と州が半分ずつ負担することとされた。さらに教育計画の策定,地域を超える意義を有する科学的研究の設備および計画の促進に関して,連邦と州が協力することが規定され(91b条),連邦と各州の行政協定により1970年に連邦・各州教育計画委員会(ドイツ)が設置された。1975年に共同の研究助成の実施という任務が加わり,名称が連邦・各州教育計画・研究助成委員会となった。

 2000年代に入り,連邦と州の立法権限等に関して見直す動きが活発になった。2006年に基本法が改正され,立法権に関しては「大綱的立法」が廃止されるとともに,「専属的立法」が拡大され,「競合的立法」はいくつかに類型化された。「大綱的立法」の廃止により,これまで規定されていたものは「競合的立法」の範囲に移された。大学大綱法は失効することとなり(執行手続きは2015年末現在終了していない),同法が規定していた大学入学許可と大学修了証については「競合的立法」の範囲となり,競合的立法の新たな類型である,連邦が立法しても州が独自に立法できる事項の一つとなった(72条3項6号)。また連邦と州の「共同任務」も見直され,大学等の新設・拡充という事項は廃止され,①大学外の学術研究の施設と計画,②大学における学術と研究の計画,③大型施設を含む大学の研究建造物について,連邦は各州に財政支援というかたちで協力することができるようになった(91b条1項)。これにより,大学建設促進法は廃止された。

[州の大学法]

16の州それぞれが,州大学法(ドイツ)を制定している。州大学法は大学の使命,大学の法的地位,大学の組織・機関,学修,教育,試験,研究,大学の構成員などについて,規定している。たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州の大学法(2014年9月)は,全10部,84条からなり,次のような構成となっている。大学の法的地位・使命・財政措置・統制(第1部),構成員・参加(第2部),大学の構成・組織(第3部),大学の教職員(第4部),学生・学生団(第5部),教育・学修・試験(第6部),学位・成績証明(第7部),研究(第8部),大学としての認可・州立ではない大学の運営(第9部),補則(第10部)
著者: 長島啓記

参考文献: Flämig, Chr., Kimminich, O., Krüger, H., Meusel, E.-J., Rupp, H.H., Scheven, D., Schuster, H.J., Graf Stenbock-Fermor, F.(Hrsg.), Handbuch des Wissenschafts, Band 1 und 2, Springer, 1996.

参考文献: Hartmer, M., Detmer, H.(Hrsg.), Hochschulrecht, Ein Handbuch für die Praxis, 2. Auflage, C.F. Müller, 2011.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報