行政機関である政府が,立法機関たる国会(議会)の承認を必要とせずに,外国と締結する協定。行政協定の対象となるのは,条約の実施細則,国会によって授権された事項,政府固有の権限に関する事項などである。このように行政協定は,政府が単独で締結しうるが,どの範囲までそれが認められるかは国によって異なる。行政協定に関して最も興味深いのは,アメリカの場合である。アメリカ合衆国憲法2条2節によれば,大統領は条約締結に際し,上院の3分の2以上の同意を得ることが必要とされているが,これでは大統領が自由に対外関係を処理することができないということから,大統領だけで交渉を行い,上院には条約案だけを提出することが慣習的に認められてきた。しかしながら,この方法では,大統領と上院が対立しがちになったため,それを避けるために,大統領が単独で外国と協定を結ぶことができるように考え出されたのが,行政協定である。アメリカの行政協定には,議会の授権に基づくものと大統領固有の権限(たとえば,対外代表権,軍の最高指揮権など)を行使して結ばれるものとの2種類がある。ただ,大統領固有の権限に基づく場合にどの事項が行政協定になじむのか,その区別が明確でない。1945年のヤルタ協定は,ローズベルト大統領が行政協定の形式で締結したものであったが,権限乱用との批判をあびた。日米行政協定は,アメリカ軍の配備を規律する条件を定め,52年,日米安全保障条約と同時に発効した。日本政府は,この協定は日米安保条約の委任に基づく協定であるとして国会の承認を求めなかった。しかし,60年の安保条約改定に基づく日米協定は行政協定の形式をとらず,それぞれ国内法上の承認手続を,必要とする協定として締結された。本質的には条約そのものの性質を有するにもかかわらず,行政協定の形式をとることによって国会の審議をのがれることは,憲法上疑問であり,国会は,政府の恣意的な外交を厳しく監視する必要がある。
執筆者:岡村 尭
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行政府限りで締結する条約。アメリカで発達した制度で、アメリカ合衆国憲法では、「条約」は、大統領が上院(議会)の3分の2の助言と承認に基づいて締結する旨を定めているが、外国との条約を、上院の助言と承認なしに大統領(国務省)限りで締結する場合がある。憲法上の根拠は明確にされないが、慣行上確立してきている。大統領(国務省)のみで締結することから「行政協定」とよんでいる。条約と行政協定の対象上の区別について明確な基準はない。理論上、大統領(行政府)の権限内にある事項や、あらかじめ立法府(議会)の包括的な承認のうえで行政府の権限に入る事項、たとえば、陸海軍統帥権事項、郵便協定、通商上の相互主義に関する協定、差別的課税の廃止、仮協定、アメリカ国民の賠償請求に関する協定、あるいは条約規定の実施に関する協定などに用いられている。
わが国でも、1959年(昭和34)の砂川事件判決(東京地裁)のなかで、1951年に日米安全保障条約と同日締結された「日米行政協定」は、わが憲法第73条3項の定める国会の承認手続を経なかったが、日米安全保障条約の実施に関する協定であるとして、違憲であるとされなかった。
[經塚作太郎]
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