ロシアの批評家。司祭の子として生まれる。神学校を経てペテルブルグの師範学校を卒業。文筆活動はわずか5年間にすぎないが、『現代人』誌のチェルヌィシェフスキーにその文学的才能を評価され、唯物論、革命的民主主義の立場から、同誌に多数の文芸批評を発表した。文学を現実の再現ととらえ、その社会的意義を強調し、純粋芸術派を批判したが、作家に特定の世界観を要求せず、作品から世界観、哲学を引き出すのは批評家の仕事であるとして、両者の分業を主張した。ゴンチャロフの長編小説『オブローモフ』に余計者の最後をみた『オブローモフ主義とは何か』(1859)、オストロフスキーの戯曲のなかに民衆の革命的覚醒(かくせい)の予兆を認めた『闇(やみ)の王国における一条の光』(1860)、ツルゲーネフの『その前夜』に革命の曙光(しょこう)を待望した『その日はいつ来るか』(1860)などが代表作である。それと同時に農奴解放前夜の革命的情勢期には、自由主義者の政治的欺瞞(ぎまん)性を暴露する辛辣(しんらつ)な論文を連載、そのためにツルゲーネフをはじめとする作家たちが『現代人』から脱退、物議を醸した。過労がもとで肺患を患い25歳で病没するが、真の民衆革命を目ざす彼の情熱的な評論は、後のナロードニキたちによって愛読された。ほかに詩集も残している。
[渡辺雅司]
『金子幸彦訳『オブローモフ主義とは何か? 他一編』(岩波文庫)』
ロシアの文芸批評家。ニジニ・ノブゴロド(現,ゴーリキー)の司祭の家庭に生まれ,ペテルブルグ高等師範学校に在学中,チェルヌイシェフスキーの知遇を得て反政府主義的な雑誌《現代人》の編集に参加。文芸批評の欄を担当し,《闇の王国》(1856),《オブローモフ気質とは何か》(1859),《打ちのめされた人々》(1861)等の論文を書き,農奴解放前夜の革命派の指導者として活躍した。秘密結社〈土地と自由〉(第1次)の組織にも関与し,農民蜂起による専制政治の打倒と農奴制の廃棄とを画策した。1860年代の雑階級知識人(ラズノチンツィ)を代表して,40年代の貴族知識人の自由主義を批判し,両世代の分裂を促進した。ツルゲーネフは《父と子》の主人公バザーロフに彼のイメージを盛り込んだ。文芸評論家としてはベリンスキーを継承し,作品の社会的背景を重視する〈現実的批評〉と呼ばれる方法を確立し,ソビエトの文学研究に影響を与えている。
執筆者:長縄 光男
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1836~61
ロシアの急進的評論家。チェルヌイシェフスキーの主宰した雑誌『現代人』に協力,芸術作品の社会的・政治的意義を解明した。『オブローモフ主義とは何か』は有名。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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