オブローモフ(読み)おぶろーもふ(英語表記)Обломов/Oblomov

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オブローモフ」の意味・わかりやすい解説

オブローモフ
おぶろーもふ
Обломов/Oblomov

ロシアの作家ゴンチャロフ長編小説。1859年発表。主人公オブローモフは人並みはずれた善良さと高度の知性を有するにもかかわらず、僻遠(へきえん)の地の家父長制下で農奴にかしずかれて育ったために、なに一つ自分でできぬ怠け者になってしまった。彼は活動的なブルジョアシュトルツ友情にも、進歩的な娘オリガの愛にもこたえ得ず、献身的な寡婦アガーフィヤのもとで静かに生を終える。ドブロリューボフは論文『オブローモフ気質とは何か』(1859)のなかで作品の農奴制批判の意義を説き、またオブローモフを、オネーギン、『現代の英雄』のペチョーリン、ルージンら19世紀前半のロシア文学に登場する「余計者(よけいもの)」とよばれる主人公たちの系譜に加えた。爾来(じらい)「オブローモフシチナ(オブローモフ気質)」という語はロシア人にとり無為徒食代名詞となるが、オブローモフはより広い意味で全人類的タイプに属する点に小説の永遠の価値が存する。

[澤田和彦]

『木村彰一・灰谷慶三訳『世界文学全集35 オブローモフ』(1983・講談社)』『米川正夫訳『オブローモフ』全3冊(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オブローモフ」の意味・わかりやすい解説

オブローモフ
Oblomov

ロシアの作家 I.ゴンチャロフの小説。 1859年発表。長編小説『平凡物語』と『断崖』を前後にして3部作の形をとる。主人公オブローモフは大学で教育を受け,教養も才能もあるにもかかわらず,食べることと寝ること以外は何もしない怠惰な生活をおくっている。美しい娘オリガとの恋もついに彼を立上がらせなかった。農奴制廃止 (1861) の前夜に発表されたこの小説を「農奴制に起因するロシアの精神的麻痺に対する,無意識的な,だがきわめて力強い抗議である」と批評家 N.ドブロリューボフが論じたように,オブローモフの姿には,ロシア農奴制下の寄生的生活の所産である才能ある「余計者」の典型を感じ取ることができる。この小説が発表されるや,進歩的陣営から熱烈な賛辞をもって迎えられたのも,この「オブローモフ気質 (かたぎ) 」を通して,ゴンチャロフが当時の醜悪な現実をえぐり出していたからである。

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