ナメクジウオ(読み)なめくじうお

改訂新版 世界大百科事典 「ナメクジウオ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジウオ (蛞蝓魚)
Branchiostoma belcherii

頭索綱ナメクジウオ科の原索動物。200年ほど前にイギリスでこの類が初めて発見されたときに軟体動物のナメクジに似ているとされたため,日本でもこの名が使われるようになった。無脊椎動物から脊椎動物へ移行する過程にある動物として重要である。相模湾から九州沿岸に分布し,透水性がよい有機物の少ない粗い砂地に生息する。ふつう,昼間は砂の中に潜り,口だけを砂上にだしているが,夜は砂上にでて体を左右に曲げて短距離を敏しょうに移動することもする。体長5cmくらいまでの魚型で,両端がとがり,左右に扁平である。背部には全長にわたって背びれがあり,体の後端には小さい尾びれ腹びれがある。体側にはV字形の64個の筋節が並んでいるが,透明なために内臓が透けて見える。頭部は発達が悪く,眼はない。吻端(ふんたん)の近くの腹側には40本内外の外鬚(がいしゆ)に囲まれた口が開いている。体の全長にわたって軟骨のような脊索が1本通っていて,これが体を支えている。脊索の背面には簡単な1本の神経管があり,先端は少し膨らんで脳室になっている。消化管は口から咽頭,中腸,腸を経て,尾びれの付け根にある肛門に開いている。咽頭の壁には細長い鰓裂(さいれつ)が規則正しくあいていて,口から吸いこんだ水が,ここを通る際に毛細血管を通じて,ガス交換される。水はいったん囲鰓腔にで,腹びれの前方に開く出水孔から外にだされる。また咽頭の腹側正中線に内柱があり,水とともに入ってきたプランクトン粘液の膜でからめて集め,消化管に送っている。血管系は閉鎖型で,咽頭の腹側の太いえら動脈から鰓裂の間に入る血管の途中にある多くのえら心臓が周期的に収縮して無色の血液を体内に送りだしている。雌雄異体で,生殖線は囲鰓腔の左右外壁に一列に並んでいる。卵巣橙色で,精巣は淡黄色。生殖期は6~7月。

 日本にはこの種のほかにオナガナメクジウオAsymmetron lucayanum(=Epigonichthys lucayanus)が沖縄から,カタナメクジウオA.maldivense種子島,和歌山県の白浜串本から知られている。

 日本では食べないが中国の厦門アモイ)では味をつけて乾燥し,大衆のつまみ用に加工され,市販されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナメクジウオ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジウオ
なめくじうお / 蛞蝓魚
[学] Branchiostoma belcheri

原索動物門頭索綱ナメクジウオ科ナメクジウオ属の海産動物。この属は生殖腺(せん)を体の両側にもつことで、体の右側にだけあるカタナメクジウオ属と容易に区別される。本種はナメクジウオ属の唯一の日本産種で、1881年(明治14)豊前(ぶぜん)沖などで発見されて以来、関東地方および丹後半島以南の各地の海岸の潮間帯から深さ約60メートルに生息が記録されてきた。普通、透水性がよく有機物の少ない粗い砂の所から発見されるが、悪条件に意外なほど耐えることもある。それにもかかわらず、国の天然記念物に指定されている愛知県蒲郡(がまごおり)市三谷(みや)町と広島県三原市幸崎(さいざき)町をはじめ、かつて多産を誇った有名な産地のほとんどがいまや名ばかりになってしまったのは生息環境の激変を物語るもので、まことに痛ましい。他方、生息密度は低いものの新たな産地もみつかっている。本種はインド洋から西太平洋にかけて広く分布する。中国の厦門(アモイ)と青島(チンタオ)とでとれた標本を詳しく比較したところ、筋節数(厦門産で62~66、青島産で65~69)や腹びれに含まれる鰭室(きしつ)数(それぞれ76~94、51~73)の明らかな違いによって両者が区別できるとして、青島産の標本に対して変種tsingtauenseが提唱された(張と顧、1936)。最近の研究によれば、日本のナメクジウオは概して青島産と酷似する。生殖期は夏。厦門での調査によれば寿命は3年。厦門には高密度で生息し、古くから食品(生食および煮干し)として出荷されている。

[西川輝昭]


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百科事典マイペディア 「ナメクジウオ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジウオ

頭索類ナメクジウオ科の原索動物。体長2〜5cmで,透明。魚形で左右に扁平,頭と胴との区別がない。背びれ,尾びれ,しりびれがある。昼間は砂の中に潜っているが,夜間活発に海面を泳ぐ。脊椎動物の原始的な形で,脊索が頭部まで発達している。相模湾〜九州沿岸に分布。愛知県蒲郡市三谷町と広島県三原市では天然記念物。
→関連項目原索動物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナメクジウオ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジウオ
Branchiostoma belcherii

原索動物門頭索亜門頭索綱両尖目ナメクジウオ科。体長 5cm。体は透明な桃白色で,ウナギ形をしている。脊索が頭部まで発達し,筋肉に体節制がみられる。心臓はない。完全な閉鎖血管系で,腹側の太い血管の一部が収縮して血流を起している。昼間は砂中に生活し,夜間に出てきて魚のように泳ぎながら食物をとる。本州中部以南,西部太平洋,インド洋に分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のナメクジウオの言及

【血管系】より

…えら呼吸をする他の脊椎動物の血管系もほぼ同様である。 このような脊椎動物の血管系の原型を原索動物ナメクジウオにみることができる(図5)が,大動脈から出る体壁の分節動脈はいまだ静脈と連絡する循環路を形成していないし,前後の主静脈は生殖巣からの血液を受けキュビエ管も原始的状態にある。循環の中心となる心臓に対し最も末梢に位置する本来の毛細血管にあたるものは,背側大動脈の枝に続く毛細血管である。…

【骨格】より

脊索というのは系統発生的に最も原始的な段階で,特殊な細胞が集まってできた柔軟単純な棒状体をなし,体の中軸をつくっている。原索動物の被囊類(ホヤの類)の幼生やナメクジウオに見られる(図1)。軟骨および骨という組織は脊椎動物特有のもので,軟骨性骨格は板鰓(ばんさい)類(サメやエイの類)に,骨性骨格は硬骨魚類以上の脊椎動物のほとんどすべてに見られる。…

※「ナメクジウオ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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