にきび

EBM 正しい治療がわかる本 「にきび」の解説

にきび(座瘡)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 顔面、前胸部、背部など皮脂(ひし)の分泌(ぶんぴつ)の多い部分の毛穴に、ブツブツ(面皰(めんぽう))や赤く盛りあがった発疹(ほっしん)(紅色丘疹(こうしょくきゅうしん))、膿疱(のうほう)がみられるものです。最初は皮膚と同じ色のブツブツですが、炎症をおこすと赤くなったり膿(うみ)がたまったりします。炎症が強いと色素が沈着したり、治ったあとが瘢痕(はんこん)となって残ったりします。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 思春期になると男性ホルモンの影響で脂腺(しせん)が発達し、皮脂の分泌が盛んになります。毛穴のなかに皮脂がたまり(白にきび)、それが固まるとにきびの芯(しん)(黒にきび)となる面皰ができます。そこへ、皮膚に常在する菌(P・アクネ)の働きなどで皮脂が分解され、さらに患部に刺激を与え、その影響で毛穴が硬くなったり狭くなったりして、ますます皮脂がたまりやすくなるという悪循環に陥ってしまいます。
 さらに、白血球(はっけっきゅう)も集まってきて炎症をおこします(赤にきび)。細菌感染をおこすと膿疱ができます。体質に加えて、洗顔などが不十分で皮膚が不潔になると、にきびができやすいといえるでしょう。
 脂肪や糖分の多い食事、胃腸障害、化粧品、精神的なもの、物理的刺激、月経、避妊薬をはじめとする薬剤などが、ホルモンや皮脂の分泌に影響を与え、引きがねとなることもあります。このほか、初潮時に生理的におこる場合もあります。

●病気の特徴
 程度の違いはあるものの、思春期の男女の80パーセント以上が経験する皮膚の病気です。成人になってから出現する場合もありますが、多くは30歳くらいで軽快します。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]正しく洗顔し、毛穴を清潔に保つ
[評価]☆☆
[評価のポイント] 洗顔や毛穴を清潔に保つことでにきびを予防し、症状を抑えるという点については、病気の成り立ちからいって、専門家からは支持されており、患者さん自身が行えるケアです。

[治療とケア]食生活を改善する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 明確な根拠を示す臨床研究は見あたりませんが、食事との関連は専門家から支持され、一般的に認められています。

[治療とケア]レチノイド外用薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれのタイプのにきびにもレチノイドの外用薬は効果があることが臨床研究で示されています。(1)(2)


[治療とケア]抗菌薬の外用薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 抗菌薬の外用薬が有効であることを示す臨床研究報告があります。(3)~(6)

[治療とケア]抗菌薬(内服)を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 抗菌薬の内服によって原因となる現象を抑える研究はあります。ただし、耐性菌の出現などの問題もあり、使用には注意が必要です。(7)~(10)

[治療とケア]面皰圧出を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] たまっている皮脂を専用の器具で取り出す面皰圧出に関して、治療効果があるという研究報告は見あたりません。しかし、専門家の意見と経験によって支持されている治療です。(11)


よく使われている薬をEBMでチェック

レチノイド外用薬を用いる
[薬名]ディフェリン(アダパレン)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] にきびのタイプにかかわらず、レチノイド外用薬は効果があることが、信頼性の高い臨床研究で示されています。

抗菌薬(内服)を用いる
[薬名]ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)(7)(8)
[評価]☆☆☆
[薬名]ビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)(7)(8)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 外用薬と同様、抗菌薬の内服についても、有効であるという臨床研究があります。ミノサイクリン塩酸塩とドキシサイクリン塩酸塩水和物はテトラサイクリン系抗菌薬の一つですが、同類のテトラサイクリン系の抗菌薬に比べ、効果があるという結果が報告されています。

[薬名]ルリッド(ロキシスロマイシン)(9)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ジスロマック(アジスロマイシン水和物)(10)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ロキシスロマイシンの有効性を確認した信頼性の高い臨床研究があります。耐性菌の出現などの副作用があるため、抗菌薬の使用にあたっては十分な注意が必要です。

抗菌薬の外用薬を用いる
[薬名]ダラシンTゲル(クリンダマイシンリン酸エステル)(3)(4)
[評価]☆☆☆
[薬名]アクアチムローションもしくはクリーム(ナジフロキサシン)(5)(6)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] クリンダマイシンリン酸エステルやニューキノロン系抗菌薬(ナジフロキサシン)の外用について、有効であるという臨床研究があります。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
治療の目的は四つ
 にきびの治療では、過剰な皮脂の産生を少なくする、P・アクネ菌など細菌の増殖を抑える、毛穴(毛包部)に角質や皮質がたまるのを防ぎ正常化する、炎症を抑える、のいずれかの目的で治療が行われます。
 皮脂の産生は、先天的(遺伝的)な要素に、食事などの後天的な要素がかかわっていると考えられています。ただ、具体的にどのような食事をすれば皮脂の産生が抑制できるのかは、いまのところ明確ではありません。

細菌の増殖を防ぐ日常のケアと抗菌薬
 まめに洗顔し、毛穴を清潔に保つことは、細菌が繁殖しておこるにきびの性質上、必ず行うべきことです。市販されているにきび用洗顔料のどれがもっとも効果があるのか、副作用はどうなのか、などについての厳密な臨床研究は見あたらないようです。使う洗顔料のいかんにかかわらず、水かぬるま湯でよくすすぎ、石けんをきちんと落とすことが大切という意見もあります。また、にきびはいじったりつぶしたりすると、化膿(かのう)してひどくなる場合があるため、その癖(くせ)も直す必要があります。
 薬物治療としては、レチノイドの外用薬が、いずれのタイプのにきびにも効果があることが示されています。
 抗菌薬は、まず外用薬を局所的に用いて、その効果がないときに内服薬を用いるというのが通常の方法です。さまざまな種類の抗菌薬について、有効性が臨床研究で確かめられています。一般的には、外用はニューキノロン系、内服はテトラサイクリン系のミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)、マクロライド系抗菌薬のルリッド(ロキシスロマイシン)などが用いられます。ただし、内服薬では耐性菌の問題などがありますので、使用には十分な注意が必要です。

(1)Eady EA, Bojar RA, Jones CE, et al. The effects of acne treatment with a combination of benzoyl peroxide and erythromycin on skin carriage of erythromycin-resistant propionibacteria. Br J Dermatol. 1996;134:107-113.
(2)Lookingbill DP, Chalker DK, Lindholm JS, et al. Treatment of acne with a combination clindamycin/benzoyl peroxide gel and vehicle gel: Combined results of two double-blind investigations. J Am AcadDermatol. 1997;37:590-595.
(3)Webster GF, Toso SM, Hegemann L. Inhibition of a model of in vitro granuloma formation by tetracyclines and ciprofloxacin. Arch Dermatol. 1994;130:748.
(4)Hubbell CG, Hobbs ER, Rist T, et al. Efficacy of minocycline compared with tetracycline in treatment of acne vulgaris. Arch Dermatol. 1982;118:989-992.
(5)Gough A, Chapman S, Wagstaff K, et al. Minocycline induced autoimmune hepatitis and systemic lupus erythematosus-like syndrome. BMJ. 1996;312:169-172.
(6)Elkayam O, Levartovsky D, Brautbar C, et al. Clinical and immunological study of 7 patients with minocycline-induced autoimmune phenomena. Am J Med. 1998;105:484-487.
(7)Sturkenboom MC, Meier CR, Jick H, et al. Minocycline and lupuslike syndrome in acne patients. Arch Intern Med. 1999;159:493-497.
(8)Eady EA, Cove JH, Holland KT, et al. Erythromycin resistant propionibacteria in antibiotic treated acne patients: Association with therapeutic failure. Br J Dermatol. 1989;121:51-57.
(9)Cooper AJ. Systematic review of Propionibacterium acnes resistance to systemic antibiotics. Med J Aust. 1998;169:259-261.
(10)Goldstein BG, Goldstein AO. Diagnostic procedures. In Practical Dermatology, 2nd ed, Mosby-year Book, Inc, 1997, p26.
(11)Fern A Wirth, MD. Approach to acne vulgaris . UpToDate online ver 11.1 available at www.uptodate.com

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改訂新版 世界大百科事典 「にきび」の意味・わかりやすい解説

にきび

医学的には尋常性痤瘡(ざそう)acne vulgarisという。顔や胸,背などにでき,面皰(めんぽう)(毛囊内に皮脂がたまってできる),丘疹,膿疱,小結節,ときに囊腫が混在する慢性角化性炎症。脂腺の機能亢進と脂腺排出管の角化亢進がおもな病因とされる。悪化因子としては,日常の生活習慣が影響し,便秘,ストレス,油性化粧,ある種の職業,糖分過剰摂取があげられる。同時に,遺伝的素因,内分泌代謝も関与する。思春期を中心に大部分の人に経験される変化で,性的成熟に伴う性ホルモン変動による皮脂排出量の増加と同時に角化亢進によって皮脂が毛囊内に貯留して面皰が形成されるのが〈にきび〉のはじまりである。このうち毛孔が開口しているものを開放性面皰,閉じているものを閉鎖性面皰といい,前者は表面が黒化しているので俗に〈黒にきび〉とよばれる。丘疹は,これに細菌のリパーゼが作用して生成された遊離脂肪酸による炎症が伴って発症するが,その程度によって大きさはさまざまである。ここまでの時点で治れば跡(瘢痕(はんこん))を残さない。炎症が進行して毛包壁が破れ周囲の真皮に病変が及ぶと膿疱となり,一方,閉鎖性面皰の内容が多量になると囊腫となる。

 思春期の〈にきび〉と発症病理的には同じであるが,発生時期が特殊なものに新生児痤瘡がある。これは出生時から2~3ヵ月までの,主として男児の顔面にみられるもので,皮疹は尋常性痤瘡と同様である。胎児期に母体からくる性ホルモン,ならびに男児では睾丸から生成される性ホルモンの影響による脂腺機能亢進が基盤となって生じる。尋常性痤瘡は25歳以降自然に消退し,新生児痤瘡は乳児期後半には消退する。

 なお,塩素,臭素,ヨウ素などによる薬疹として生じるもの,副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の副作用によるものなどもある。

〈にきび〉は一種の生理現象とも思われるほど一般的な変化であるから,日常生活が及ぼす影響に注意が肝要である。〈にきび〉の予防と治療にとって,化粧とスキンケアが重要な問題となる。洗顔はセッケンなどで1日3回励行し,スキンケアはアストリンゼントローション,スキンローションなど油成分の少ないものを使用する。コールドクリーム,マッサージクリームは使用すべきでない。油性化粧品も使わないようにすることが必要で,〈にきび〉がなくても続けると発生してくる。洗髪も頻繁に行う。同時に生活面では暴飲,暴食,間食を避け,とくに糖分の過剰摂取に注意する。便秘,睡眠不足,不規則な生活,精神的ストレスも〈にきび〉を悪化させる。額,ほおにかかるような髪形,首筋を深く包むような衣服などにも注意しなければならない。

 ビタミンB2,B6,パントテン酸には皮脂分泌抑制作用があり,抗生物質(テトラサイクリンなど)の少量持続投与は丘疹,膿疱に有効である。外用療法には硫黄,サルファ剤,クリンダマイシン,乳酸エチル,ベンゾイルパーオキサイド,ビタミンA酸などがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「にきび」の意味・わかりやすい解説

にきび

尋常性痤瘡(ざそう)の俗称で、思春期以後の男女の顔、とくに頬(ほお)と額に好発する毛包(毛嚢(もうのう))の炎症である。首や胸、上背部にも生じたり、40歳近くなってみられるものや、女性では月経直前に悪化するものもある。毛包内に皮脂と角質が詰まり黄白色の塊ができ(白色面疱(めんぽう))、ときにその頂点が黒く変色し(黒色面疱)、押すとチーズ状のものが出る。これに細菌の作用が加わると、脂質が分解して遊離不飽和脂肪酸を生じ、毛包およびその周囲に炎症がおこり赤く隆起する(丘疹(きゅうしん))。さらに化膿(かのう)すると黄色を呈し(膿疱)、治ったあとに噴火口状の小さなあと(瘢痕(はんこん))が残る。通常これらのものが混在している。原因としては、遺伝的な素質と男性ホルモンの作用で脂腺(しせん)が肥大、脂質分泌過多がおこり、細菌とくに痤瘡桿菌(かんきん)やブドウ球菌の作用が加わることがあげられる。

 治療としては、〔1〕せっけんによる洗顔を励行し、少なくとも1日3回以上行う。洗顔用スポンジでこするとより効果的である。〔2〕クリーム、乳液、ファンデーションなどの油性化粧品やパックを避け、アストリンゼント・ローションなどの化粧水を使用する。〔3〕食物はチョコレートやコーヒーなどの刺激物、糖分の多い菓子類、脂肪の過食を避け、野菜類や魚肉類、赤身の肉を摂取する。〔4〕十分な睡眠をとり精神的なストレスを回避する。〔5〕頭髪の接触による刺激を避けるよう髪形をくふうする。〔6〕面疱圧出、クンメルフェルド液や抗生物質軟膏(なんこう)の外用と、少量の抗生物質、ビタミンB2、B6やホルモン剤による全身療法が行われる。

[齋藤公子]

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百科事典マイペディア 「にきび」の意味・わかりやすい解説

にきび

顔面に発生した尋常性【ざ】瘡(ざそう)の俗称。尋常性【ざ】瘡は主として思春期の男女の顔面・背部・上胸部などにみられる皮疹で,初め皮脂腺から分泌された脂肪が毛嚢に詰まり(面皰(めんぽう)),やがて丘疹・膿疱となる。化膿すると瘢痕(はんこん)を残しやすい。思春期の内分泌・新陳代謝の変化,精神的不安などが原因とされる。治療には,便通を整え,脂肪や糖分の多い食物を避けるとともに,洗顔,マッサージ,硫黄軟膏塗布などを行う。

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知恵蔵 「にきび」の解説

ニキビ

思春期になると、男性ホルモンの働きが活発化する影響で、皮脂分泌も多くなり、毛穴に皮脂や汚れがたまりやすく、細菌が増殖し、ニキビの原因となる。また、近年は20〜30歳代の女性を中心に、頬や口の周囲、あごなど、皮脂分泌の少ない部分にも周期的に発生する大人のニキビが肌に関する悩みとなっている。性周期に同調し、肌状態の悪い月経前に発生しやすい。顔ダニ、ニキビダニと呼ばれる寄生虫は、ほとんどの人の顔に数百万匹いる。増加するとニキビ状になることもあるが、通常は肌状態に影響しない。

(三浦志郎 資生堂ビューティーソリューション開発センター所長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「にきび」の解説

にきび

 ざそう,尋常性ざそう,アクネともいう.思春期によくみられる顔面,胸部,背部の丘疹で,毛嚢に一致してみられる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「にきび」の意味・わかりやすい解説

にきび

ざ瘡」のページをご覧ください。

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