サルファ剤は、化学物質を合成してつくられた、細菌を死滅させる作用がある合成抗菌剤のひとつです。グラム陽性菌のブドウ球菌・
おもに
スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤は、長時間効果が持続するように工夫されたサルファ剤です。グラム陽性菌・陰性菌(とくにグラム陰性菌)に有効で、尿路結石、血尿といった副作用が少なく、とくに呼吸器感染症、尿路感染症の治療に効果がある薬です。
サラゾスルファピリジン製剤は、腸管粘膜に作用して粘膜の
①過敏症状(
そのほかにサラゾスルファピリジン製剤では、播種性血管内凝固症候群、紅皮症型薬疹、過敏症症候群、伝染性単核球症様症状、薬剤性肺炎、PIE症候群(発熱、咳嗽、呼吸困難など)、線維性肺胞炎、ネフローゼ症候群、消化性潰瘍、S状結腸穿孔、脳症、無菌性髄膜(脳)炎、心膜炎、胸膜炎、エリテマトーデス様症状、劇症肝炎、肝炎、肝機能障害、黄疸が現れることがあります。
スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤では、メトヘモグロビン血症、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、薬剤性過敏症症候群、急性膵炎、低血糖発作、高カリウム血症、低ナトリウム血症、横紋筋融解症が現れることがあります。
このような症状が現れたら使用を止め、医師に相談してください。
また、頭痛、めまい、倦怠感、うとうと状態、日光に直接さらした皮膚の部分に発疹・かゆみ(光線過敏症)がおこることがあります。このような症状が現れた場合は、使用を中止して医師に相談してください。
②食欲不振、吐き気・
薬の効果と副作用出現の有無をチェックするために、医師から検査を指示されることがあります。必ず受けてください。
①いろいろな剤型があって、内服剤は食後の服用が原則です。1日の服用回数と服用時間、1回の服用量については医師の指示を守り、かってに中止したり、増量・減量しないでください。
とくに服用間隔については、医師の指示をきちんと守ってください。
内服剤を服用するときは、十分な水(コップ1杯の水)で飲んでください。とくに長期間使用する場合には尿路結石がおこりやすくなるので、十分な水で飲んでください。また、坐剤は、朝の排便後と夜の就寝前に使用するのが原則です。坐剤の使用上の注意参照。
②あらかじめ問診の際に、持病・アレルギーなどの有無・現在使用中の薬の有無を医師に報告するとともに、使用前に薬の効果と副作用について医師・薬剤師からよく説明を聞き、注意事項をきちんと守ってください。
とくに、過去にサルファ剤を使用して過敏症状をおこしたことがある人、新生児・低出生体重児、スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤は、妊婦や現在妊娠している可能性のある人、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G-6-PD)欠乏のある人は、この薬が使えません。
また、貧血などの血液障害、腎障害、肝障害、気管支
以上のような条件に該当する人は、あらかじめ医師にその旨を報告して、ほかの薬に替えたり、使用量を減らすなどの対策を講じてもらってください。
③この薬を服用中にほかの薬を使う必要があるときは、必ず医師に相談してください。
とくに血糖降下剤〔糖尿病治療剤〕と併用すると低血糖をおこしたり、抗凝血剤〔ワルファリンカリウムなど〕と併用すると抗凝血剤が効きすぎて、出血がおこりやすくなります。
出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報
スルホンアミド剤,スルファミン剤ともいう。スルファミン(パラアミノベンゾイルスルホンアミド)の置換体とみなされる一群の医薬の総称。細菌に対する化学療法剤で,抗生物質が開発されるまでは化学療法の中心的存在であった。
1935年,ドイツのG.ドーマクは32年に開発されたスルファニルアミドクリソイジン(商品名,プロントジルProntosil)が連鎖球菌によるマウスの敗血症に有効であることを発見した。同年,フランスのパスツール研究所の細菌学者であったトレフエルJ.Trefouëlらは,プロントジルの有効成分はプロントジルが体内で分解されてできるスルファミンであることを明らかにした。この研究によって,その後スルファミンを骨格とする誘導体が多数合成,試験され,さらに類似の骨格をもつスルファピリジンsulfapyridine(SPと略記),スルファチアゾールsulfathyazole(STと略記),スルファメラジンsulfameradine(SMDと略記)などが開発された。今日まで数千種以上が合成され,現在でも数十種が市販されている。これらのサルファ剤は水に難溶であるうえに,肝臓内で抗菌作用が失われ,尿路で析出して結石をつくりやすい,などの欠陥をもっていた。そこで現在では,より水に溶けやすいスルフィソクサゾールsulfisoxazole(SIと略記),吸収されにくくして腸内で濃度を保つことによって腸内感染症に適用する難吸収型のフサリルスルファチゾールphthalylsulfathizoleなどが開発されている。
サルファ剤の病原体に対する作用域は次のようである。感受性をもちサルファ剤が有効な病原体は,ブドウ球菌・連鎖球菌・肺炎菌などのグラム陽性球菌,髄膜炎菌・淋菌などのグラム陰性球菌,大腸菌・赤痢菌・サルモネラ菌などグラム陰性杆菌の一部である。しかし同じ細菌でもグラム陰性杆菌には有効性はもたないし,スピロヘータ,原虫類,ウイルスなどには無効である。作用機序については長年議論がされてきたが,1950年代に入って,細菌の核酸の生成を促進する葉酸の生合成をサルファ剤が阻害することによって,細菌の分裂増殖を阻止するためであることが明らかにされた。
種類によって細菌に対する有効性が異なるので病原菌の感受性によって決定される。薬剤の種類によって吸収排出の速度が異なることなどから2種以上を併用したり,抗生物質との併用も行われる。多くは経口投与であるが,注射や局所使用をすることもある。副作用としては,前記の尿路結石のほか,食欲不振,嘔吐などの胃腸障害,発疹,肝臓障害などがある。また催奇形性があるので妊婦への使用は避けるべきである。
サルファ剤に近縁で,SO2基をもつ薬剤をスルフォン剤sulfone drugという。スルフォン剤は1940年代に抗結核薬として開発された。しかし副作用が強く期待ほどの効果も得られなかった。ところが,同じ抗酸菌によるハンセン病に予想以上の効果があったところから,もっぱらハンセン病に対して用いられるようになった。副作用のおもなものは貧血で,ほかに頭痛,発熱などがある。
→化学療法
執筆者:川口 啓明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スルファ剤ともいい、化学構造上、基本的にスルフォン基をもつ抗菌剤をいう。当初、スルフォンアミド基をもつ抗菌剤の研究から発展し、降圧利尿剤、経口血糖降下剤(抗糖尿病剤)としてのサルファ剤も開発されるに至った。1935年にドイツのバイエル社の前身である染料会社IG社のドーマクが、プロントジル・ルブルムという赤い色素を溶血性連鎖球菌を感染させたハツカネズミに与えると感染が阻止されることを発表した。そしてこのプロントジル・ルブルムが化膿(かのう)性グラム陽性感染症に有効なことがわかり臨床に応用されたが、これがサルファ剤の初めである。その後、プロントジル・ルブルムの作用は、生体内で代謝されて生ずるスルファニルアミドであることがわかり、スルファニルアミドの合成によりこれが証明されるとともに、このものが治療に用いられるようになった。スルファニルアミドはスルファミンともよばれ、これの化学構造のなかのアミノ基-NH2の水素Hを異項環にかえることによって有効な薬剤が開発された。
アミノ基の水素をかえてもあまり有効な薬剤は出ないことがわかった。この化学構造上、スルフォンアミド基-SO2NH2が必須(ひっす)であると考えられ、スルファミン剤と称されたが、アミノ基のないジアミノジフェニルスルホンNH2-C6H4-SO2-C6H4-NH2がハンセン病治療薬としての作用を有することがわかり、サルファ剤(スルファ剤)というようになった。
昭和の初めから昭和20年まではスルファミン剤の時代で、スルファミンからスルファチアゾール、スルファピリジン、そしてスルファジアジンと進歩してきた。初めは化膿性球菌にしか効かなかったのが、スルファピリジンに至り肺炎にも効くこととなり、スルファジアジンではグラム陰性菌にも有効となった。一方、スルファグアニジン、サクシニルスルファチアゾールなど、消化管から吸収されず腸内病原細菌に有効なものも現れた。第二次世界大戦後はサルファ剤の開発がもっとも活発な時期で、同時に抗生物質の開発が進むにつれ、サルファ剤では持続性型サルファ剤の時代となったが、そのときすでに抗生物質では、より有効で副作用の少ないものが続々と出現していた。そのためサルファ剤は斜陽化したが、抗生物質の副作用としてショックや耐性菌が現れ、一時はサルファ剤がふたたび復活するかにみえた。しかし、β-ラクタム系抗生物質、アミノ糖系抗生物質の華々しい開発合戦の陰に隠れ、現在では持続性型サルファ剤の数種が使用されるにすぎなくなってきている。
サルファ剤の作用機序は、細菌の発育素(ビタミン)であるパラアミノ安息香酸(PABA)と化学構造が似ており、代謝拮抗(きっこう)をおこすことによる。サルファ剤は水に溶けにくい難溶性型(スルファジアジン)、易溶性型(スルファイソキサゾール)、持続性型(スルファメトキサゾールほか)、難吸収型(スルファグアニジンなど)、嫌気性型(ホモスルファミン)とハンセン病治療薬であるサルファ剤に分類されるが、現在使用されているのは次のとおりである。スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール(点眼液)、スルファジメトキシン、スルファモノメトキシン、スルフイソミジン、スルファフェナゾール、スルファメトピラジン、スルファメチゾール(尿路感染症)、サラゾスルファピリジン(潰瘍(かいよう)性大腸炎)があり、特殊な用途のほかは、最近、配合剤としてスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤がグラム陰性菌感染症にとくに有効として繁用されているにすぎない。ハンセン病治療薬としてはグルコスルホンナトリウム、ジアフェニールスルホン、チアゾスルホンがあるが、一般には市販されていない。
このように化学療法剤の一つの大きな柱であったサルファ剤は抗生物質の輝かしい発展のため、また合成化学療法剤であるナリジクス酸から始まるピリドンカルボン酸誘導体の開発の陰に隠れて、特殊な用途をもっているもののみがわずかに残っているのが現状である。研究の方向は降圧利尿剤、経口血糖降下剤といった新しい薬効をもったものへ移っている。
[幸保文治]
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スルファミン剤,正式にはスルホンアミド剤ともよばれる化学療法剤の総称.一般には,スルファニルアミドの誘導体である.細菌の不可欠代謝物質であるp-アミノ安息香酸にきっ抗し,葉酸の生合成を阻害すると考えられている.生体内ではパラ位のアミノ基がアセチル化され,水に溶けなくなり,尿路結石を起こし,血尿の原因となる.したがって,吸収が速く,排出が遅く,アセチル化されにくい誘導体が適する.おもなサルファ剤としては,スルファピリジン,スルファチアゾール,スルファダイアジン,スルファメラジン,スルファグアニジン,スルフイソキサゾールなどがある.これらはぶどう球菌,連鎖球菌,肺炎双球菌などのグラム陽性球菌,髄膜炎菌,リン菌などのグラム陰性球菌,フリードレンダー桿(かん)菌,大腸菌,赤痢菌,サルモネラ属などのグラム陽性桿菌などに卓効がある.経口糖尿病用薬や利尿薬としても用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし細菌に対する有効物質は,ドイツのG.ドーマクがスルファニルアミドクリソイジン(商品名プロントジル)を用いて溶血性連鎖球菌によるマウスの敗血症の治療に成功する(1935)までは得られなかった。まもなく,このプロントジルの有効成分は体内で分解されて生ずるスルファニルアミドであることがわかり,以後今日まで,その誘導体は数千種以上も合成され,そのうちサルファ剤の総称で各種細菌性疾患の治療に用いられてきたものも多数に及ぶ。このドーマクの発見に先だつ1929年,イギリスのA.フレミングは,たまたま寒天培地上の黄色ブドウ球菌の集落が,その周辺にできたアオカビの集落によって溶けることを観察し,アオカビの培養濾液の中に各種細菌の発育を阻止する物質(ペニシリン)のあることを報告した。…
…スルファニル酸は各種アゾ染料の合成中間体として広く用いられる。スルファニル酸のアミドおよびその誘導体は細菌性疾患に対して著しい効果をもち,サルファ剤と呼ばれる化学療法剤として重要な用途がある。【小林 啓二】。…
…その後,グリースバルト大学講師(1924),ミュンスター研究所病理学・病理解剖学教授(1928)を経て,バイエル染料会社の実験病理・細菌学研究所長となった。この間,殺菌作用を有する染料の研究に従事し,35年,同研究所で開発されたスルファニルアミドクリソイジン(商品名プロントジルProntosil)が連鎖球菌に対して有効であることを発見し,サルファ剤全盛のきっかけとなった。この功績に対し,39年ノーベル生理・医学賞を授与されたが,ナチス政府の政策によってこれを辞退させられ,47年にあらためて受賞した。…
※「サルファ剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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