日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケイ」の意味・わかりやすい解説
ニッケイ
にっけい / 肉桂
[学] Cinnamomum sieboldii Meisn.
Cinnamomum loureirii Nees
クスノキ科(APG分類:クスノキ科)の常緑高木。高さ3~9メートル。葉は長楕円(ちょうだえん)形で光沢があり、3本に分かれた太い葉脈が目だつ。夏、細枝の葉腋(ようえき)に長い花柄のある淡黄緑色花を開く。果実は液果で楕円形、黒色に熟す。日本には享保(きょうほう)年間(1716~1736)中国から渡来し、西日本の暖地に栽培される。根の樹皮を「肉桂皮」「日本桂皮」といい、約十年生の木から採取する。主として菓子の香辛料とするほか薬用ともするが、質は同属のシナモン(セイロンニッケイ)やカシア(トンキンニッケイ)より劣り、味は辛さが激しく甘味に乏しい。細根の樹皮は縮々(ちりちり)といわれ、太根になるにしたがって上縮(じょうちり)、中縮(ちゅうちり)、小巻、荒巻とよばれ、樹幹と根部の境界付近の樹皮はさぐり皮とよばれる。精油の主成分は桂皮アルデヒド、樟脳(しょうのう)、シネオール、リナロール、オイゲノールなどで、根皮に約1%含まれるが、細根の樹皮ほど含量が多い。日本での現在の産地は和歌山、高知、熊本、鹿児島などで、とくに四国産のものは「土州(どしゅう)縮々桂皮」として昔から良品とされる。
近縁種ヤブニッケイC. yabunikkei H.Ohba(C. japonicum Sieb. ex Nakai)とマルバニッケイ(トサニッケイ)C. daphnoides Sieb. et Zucc.は南日本に自生し、ニッケイ同様に利用され、香料や薬用にすることがあるが、品質はニッケイより劣る。
[星川清親 2018年8月21日]
文化史
ニッケイのほか同属の植物で香料をとるカシア、シナモンをあわせてニッケイ類と称することがある。これらは古代のエジプト、ギリシア、ローマ時代にはすでに乳香、没薬(もつやく)と並ぶ代表的な香料で、紀元前15世紀のエジプトのハリスパピルスに名があがるay/dtはカシア、tiespsはシナモンであるとされる。古代のエジプトではミイラづくりに使用され、ヘロドトスによれば、ミイラの腹の中に防腐を兼ねた悪臭消しに詰め、ミイラを巻いた亜麻(あま)の布に香料として塗った。ニッケイ類は中国大陸南部以東原産で、シナモンは古代から南アラビアやソマリアを経て通商が行われたとみられるが、その経路には諸説があり、紀元前のソマリアのニッケイはアフリカ原産の別の種類とする見方がある。
[湯浅浩史 2018年8月21日]
薬用
漢方ではクスノキ属ニッケイ節の諸種の幹と枝の皮を乾燥したものを桂皮と総称する。桂皮は発汗、解熱、鎮痛、健胃剤として頻用される。なお、「肉桂」と漢字で書いた場合は、ベトナム山地産の桂皮の最高級品を意味している。昭和初期までの日本でニッケイと称していた薬物は、日本の暖地で栽培されていたベトナム原産のC. loureirii Nees(植物和名もニッケイ)の根の皮であった。しかし、肉桂と紛らわしいため、これを日本桂皮と称して区別するようになった(現在、市場品はない)。また、漢方で桂枝(けいし)と称されるものは、中国では文字どおりに細い枝を横切りして用いるが、日本では枝の皮を用いる。品質は枝の皮のほうがよい。
[長沢元夫 2018年8月21日]