ハナショウブ(読み)はなしょうぶ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ハナショウブ
はなしょうぶ / 花菖蒲
[学]Iris ensata Thunb.

アヤメ科の多年草。日本に野生するアヤメ属植物の1種ノハナショウブを改良した園芸種。同じくアヤメ属のアヤメやカキツバタとよく似ており、間違えることが多いが、本種は、葉の中央脈が両側に稜(りょう)をつくって浮き出るのが特徴である。葉は2列に互生し、6~7枚で、長さ0.6~1メートル、剣状である。根茎は地表を横走し、頂芽に花柄をつける。花茎は高さ0.7~1.2メートルで、茎頂に2、3花をつけるが、下方で1、2本分枝して花をつける品種もある。3枚の萼片(がくへん)が大きくなった三英(ハナショウブでは花弁状のものを英とよぶ)咲き、花弁3枚も大きくなった六英咲きが普通であるが、弁数のより多い八重咲き、変わり咲きの品種もある。花径は15~25センチメートル、花色は紫色を基本とし、白、桃、薄紅色などがあり、これに絞りや覆輪の入るものがある。[吉江清朗]

系統と品種

ハナショウブの改良、育成は江戸時代に始まり、その育成地ごとに江戸系、熊本の肥後(ひご)系、伊勢(いせ)松坂の伊勢系が発達し、この3系統のほかに、米国系、長井古種、交雑種の系統があり、現在に至っている。江戸系は三~六英咲きが主で、品種数がもっとも多く、じょうぶである。花菖蒲(はなしょうぶ)園の植え込みや切り花に適する。肥後系は六英咲きが主で、重厚な巨大輪が多く、鉢植え栽培に適する。伊勢系は三英咲きの大輪花が多く、花被片(かひへん)は垂れ弁で縮緬(ちりめん)じわがあり、優雅である。江戸系には揚羽、清少納言、初紅(以上三英)、乙女鏡(六英)、霓裳(げいしょう)羽衣(八重)、肥後系には暁の園、源氏蛍(以上三英)、白妙、葦の浮舟、七彩の夢(以上六英)、眠り獅子(八重)、伊勢系には旭丸、美吉野、松阪司(以上三英)などがある。また米国系にはスカイ・アンド・ウォーター、長井古種には長井小紫、小桜姫、交雑種には愛知の輝、小夜の月などがある。
 早生(わせ)種から晩生(おくて)種まであり、早生種の開花は暖地では5月に始まり北海道では8月である。花菖蒲園の開花期間は1か月くらいである。[吉江清朗]

栽培

花壇植えのほか鉢植えで観賞する。水中でも畑でもよく育つが、生育の旺盛(おうせい)な4~9月は水が入り、他の時期は乾くような場所が好適である。繁殖はおもに株分けによる。株分けは、花が終わったあと、花茎の下側の葉芽を分株して行う。根が少なく活着しにくいので、葉を半分くらい切除して栄養分の消失を防ぐ。植え付け後は十分に灌水(かんすい)する。また、春の発芽初期に数個の花芽をまとめて1株として植え付ける方法もある。元気に育っている株でも、数年たつと貧弱な花しかつけなくなるので、よい花を見るためには、毎年花期後に分球して一芽植えをする。なお便法として2年に1回数芽株の改植をする方法もある。
 肥料は植え付け前に、基肥として堆肥(たいひ)を十分鋤(す)き込む。また、春の発芽時にも油かすや化成肥料を十分施す。発芽後、とくに生育が悪い場合は適宜追肥するが、開花期直前の多量な追肥は花と茎、葉を軟弱にする。
 花期後の花殻は絶えず摘み取り、株に栄養分を蓄えるようにする。開花の終わった花茎は、地際から早めに切り取り、両側の葉芽に日が当たるようにする。[吉江清朗]

病害虫

病害には地表の根茎が冒される軟腐(なんぷ)病と白絹(しらきぬ)病がある。地表が過湿で株間が狭くなると発生しやすく、大きな被害を与えるので注意する。畑作で長期間改植をしないと、長雨のときに白絹病が発生し、全滅することがある。年じゅう水中にあるのもよくない。生育期間中、水をかけておく場合は、浅水が絶えず流れている状態が最良である。また、連作を避けることが望ましい。葉の病気には葉枯病とさび病があるが、これには「ダイセンステンレス」を散布する。害虫はヨトウムシ、コガネムシの幼虫、メイチュウの害が主で、花茎を食い荒らすヨトウムシやメイチュウには「マラソン」乳剤を散布する。[吉江清朗]

名所

各地に大小の花菖蒲園があるが、公の観賞施設としては、東京都葛飾(かつしか)区の堀切(ほりきり)花菖蒲園が、江戸時代にその母体が開設されたのが始まりである。奈良のあやめ池公園も古い。現在は全国各地に名所があり、北海道の長沼花菖蒲園、山形県の長井あやめ公園、茨城県の潮来水郷(いたこすいごう)、東京の明治神宮内苑(ないえん)、東京都葛飾区の水元(みずもと)公園花菖蒲園、伊豆の修善寺(しゅぜんじ)自然公園、宮崎市の市民公園などがある。また、静岡県掛川(かけがわ)の加茂(かも)花菖蒲園は品種が多く、株をすぐ入手できることでよく知られている。[吉江清朗]

文化史

カキツバタがすでに『万葉集』のなかで詠まれているのに対し、ハナショウブははるかに遅れ、鎌倉時代の『拾玉集(しゅうぎょくしゅう)』(1346)の慈円僧正(じえんそうじょう)の歌に初めて名をみせる。江戸時代の元禄(げんろく)(1688~1704)のころから品種改良が進み、『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1695)は8品種であったのが、『増補地錦抄』(1710)では一挙に32品種に増えた。『地錦抄附録』(1733)には品種の一文字(いちもんじ)を「活花(いけばな)に入れてもしごくよし」との記述がみられ、いけ花に活用されていたことがわかる。旗本松平定朝(さだとも)は晩年「菖翁(しょうおう)」と号し、ハナショウブの改良に努め、天保(てんぽう)年間(1830~44)に門人吉田潤之助がそれを熊本に伝え、肥後ハナショウブの基礎をつくった。ハナショウブの品種は幕末には200余りに達し、天保の初めには堀切(ほりきり)(東京都葛飾区)の菖蒲園が開かれた。明治神宮の菖蒲園は、1879年(明治12)堀切の江戸ハナショウブを移し、開設された。[湯浅浩史]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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