改訂新版 世界大百科事典 「ハリモグラ」の意味・わかりやすい解説
ハリモグラ (針土竜)
short-nosed echidna
Tachyglossus aculeatus
単孔目ハリモグラ科の哺乳類。モグラの名はつくが,モグラの仲間(食虫目)ではない。前足で地面を掘り,長い舌でアリ,シロアリその他の昆虫をなめとって食べる生活は,貧歯目のアリクイに似ているが,姿はハリネズミに似て,顔面の一部と腹面を除く全身を毛の変化したとげで覆う。とげは基部が黄色で,先端部はふつう黒色。吻(ふん)が著しく細長く,前足がモグラのそれのように大きく,土を掘るのに適する。カモノハシとともに卵生の原始的な哺乳類として知られる。体長35~53cm,尾長9cm前後,体重2.5~6kg。オーストラリア,タスマニア,ニューギニアに分布し,森林や草原にも見られるが乾燥した岩石地に多く,単独でくらす。夜行性。
雌は,7~8月に下腹部の育児囊に直径1.5cmほどの卵を1個産み,9~27日間,体温で暖めて孵化(ふか)させる。乳首はなく,子は母親の腹面にしみだしてくる乳をなめとって飲む。これらの特徴のほか,体温が外気の変化に応じて変化し,変温性に近いことなど,ハリモグラは,哺乳類としては例外的な原始性をとどめており,注目される。ニューギニアには,本種のほか,ナガハシハリモグラ(ミユビハリモグラともいう)Zaglossus bruijni(英名long-nosed echidna)など3種の近縁種がすむ。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報