スイスの法律学者、民族学者。バーゼル大学、ケンブリッジ大学などで法学を研究し、バーゼル大学のローマ法教授、バーゼル裁判所判事を歴任。もっとも初期の進化主義的民族学者の一人。彼は法制史の研究者としてローマ法やギリシア古代の探究に向かい、そこにヨーロッパが長い間知っていたのとはまったく異質な親族関係が存在していたことに気づいた。この異質性は「父権制」に対する「母権制」として理解され定式化された(『母権論』1861)。これによると人類史における婚姻および親族関係の「発展」は3段階を通ってきたという。第一段階は原始的乱婚の時代で「娼婦(しょうふ)制」とよばれ、第二段階が「女人政治制」で、これが本来の「母権制」である。第三段階は「父権制」ということになる。彼は母系的系譜関係の重要性に注目した最初の人物ではないが、これを進化主義的枠組みのなかにおいて理解し、後のJ・F・マクレナンJohn Ferguson McLennan(1827―1881)やL・H・モルガンに大きな影響を与えた。
[加藤 泰 2018年12月13日]
『富野敬照訳『母権論』(1938・白揚社)』▽『岡道男・河上倫逸監訳『母権論1~3』(1991~1995・みすず書房)』
スイスのバーゼル大学のローマ法教授であったが,西洋古典神話に大きな関心をもち,ことに《母権論Das Mutterrecht》(1861)の著者として知られている。彼は社会を進化論的に段階づけて,アフロディテ女神によって象徴される〈泥沼的生殖関係〉の時代,次にデメテル女神によって象徴される〈母権〉ないし〈女人政治制〉の時代,最後にアポロ男神によって象徴される〈父権〉の時代がきたと論じた。この3段階の図式はそのままの形では一般に受け入れられなかったが,父権制以前に母権制があったという考えは,歴史家,民族学者に影響を及ぼした。またその神話研究はシンボリズム研究の先駆として評価されている。
執筆者:大林 太良
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…しかしその後の人類学者の研究の結果,彼の学説には否定的見解が多く出されている。 家族についての先駆的研究としては,これ以前に代表的なものとしてバッハオーフェン《母権論》,H.J.S.メーン《古代法》(ともに1861),フュステル・ド・クーランジュ《古代都市》(1864)が挙げられよう。《母権論》は,原初的雑交Hetärismus期に次いで母権制あるいは女人政治制Gynaikokratieを想定し,父権制に先行するものとした。…
…(1)財産や集団の成員権などが母系をたどって伝えられ(母系制),(2)婚姻生活が妻方の共同体で営まれ(妻方居住婚),(3)家族内外で女性が優越的地位を有する(家母長制)という一連の要素を内包する社会制度をさす。《母権論》(1861)を著し原始母権制説を唱えたバッハオーフェンによれば,人類の最も原始的な段階では乱交的性生活が営まれ,血縁関係は母系的にたどられた。子どもは母方に居住し,確実に知られる唯一の親として母親が尊敬された。…
※「バッハオーフェン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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