父権制(読み)ふけんせい(その他表記)patriarchy

翻訳|patriarchy

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「父権制」の意味・わかりやすい解説

父権制
ふけんせい
patriarchy

夫方居住婚父系制,家父長制という父子関係の一連の特徴から成り立っている社会体制をいう。 J.バハオーフェンは,母権制のあとに父権制が到来するという進化論的図式を示したが,これに対して N.クーランジュは,古代国家の法律,制度は,その基盤が氏族的血縁集団にあり,家族の聖火を守り祖霊を守る家族宗教が,これを司る家父長的権威源泉であるとし,このような祭司,首長たる父権の永久の権威は最も原始的な制度であると考えた。一方,W.シュミットは,文化史の原段階において母権や父権は形成されず,家畜飼育や鋤耕が行われた第1段階において男性の地位は優勢となり,一方女性は隷属し,売買婚や処女性尊重の要素が顕著となって,父権制を基盤とした大家族的軍事支配組織が確立されたのであり,さらに氏族外婚,トーテミズムを伴う外婚的父権制や絶対的首長権と奴隷などの身分階層的な自由父権制などが発展したものと考えた。しかし母権制に比べて父権制の問題は明確ではなく,現在ではむしろ父系制社会における父の権威の問題として処理されている。日本では明治民法下の家制度をさして家父長制という言葉が用いられることが多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「父権制」の意味・わかりやすい解説

父権制 (ふけんせい)
patriarchy

厳密にいうと,(1)地位や財産が父から子へと〈父系的に〉伝えられ,(2)結婚に際し妻が夫のもとへ移り住む〈夫方居住婚〉が支配的婚姻形態であり,(3)父が家長あるいは族長として権力をもつ〈家父長的な〉社会制度をさす。しかし一般的には第3の要素を強調することが多い。ヨーロッパでも19世紀まではこのような父権的家族形態が有史以来不変の自然な形態であると考えられていたが,バッハオーフェンの《母権論》(1861)以来,人類は原始乱婚時代より母権制へと進み,その後古代文明社会において父権制が確立したとする発展段階説が優勢になった。だが人類学的研究の進展ともない,真に母権制と言いうる社会や原始乱婚時代の存在が疑われるようになるにつれて,この学説勢力は衰えていった。現在では包括的概念としてではなく,父権制の諸側面をそれぞれ独自に考察する傾向が強い。
父系制 →母権制
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「父権制」の意味・わかりやすい解説

父権制
ふけんせい
patriarchy

家族や一族内での権威や全体社会での政治権力が男性の手中にあるような社会体制をいい、母権制との対比で用いられている。家族のレベルでは家父長制がこれにあたる。しばしば父系制と混同されているが、父系制・母系制という言い方は出自に関係しているだけで、一社会内での権力の所在に関するものではない。実際、母系制といっても、女性が権力を握っているわけではなく、彼女の兄弟やおじのような一族の男性が権力をもっているのが普通である。このように、知られているほとんどの社会で、程度の差はあれ、家族内での権威や政治権力が男性の手にあるという事実に加え、父権制と対比的に対応していた母権制の存在自体が疑わしいことなどから、父権制という用語は、上述の一般的な用法としては意味を失いつつある。古代ローマやイスラエル王国におけるような極端な場合、つまり、家族内で父や夫の権威が絶大であり、事実上家族の他の成員やその財産に対して所有者のごとくふるまえるほどの権限をもっているような事例だけに、この父権制という用語をとっておくのが無難であろう。

[濱本 満]

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百科事典マイペディア 「父権制」の意味・わかりやすい解説

父権制【ふけんせい】

母権制

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世界大百科事典(旧版)内の父権制の言及

【家父長制】より

…家父長paterfamiliasは,奴隷ばかりでなく妻や子どもに対しても(極端な場合)生殺与奪を含めて無制限で絶対的な権力をふるう。家族内のいっさいの権威は家父長にのみ帰属する(父権制)。家族の財産(土地と動産)はすべて家父長によって専有され,父から息子へと相続される(父系制)。…

※「父権制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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