床や天井面を加熱できるようにし、この加熱面(パネル)からの放射熱で暖房するものをいう。暖房方式の区分からいえば直接暖房の一種である。通常、建築と一体化した装置をいい、放射式の暖房器具によるものは含まない。住宅によく用いられる床暖房がこの方式の典型例である。伝統的なものでは中国の炕(かん)や朝鮮のオンドルがあり、歴史は古い。
この方式の特徴をあげると、(1)垂直方向の温度分布が均一で、かつ人体を放射により暖めるため温感上快適性の高い暖房ができる、(2)壁や床の温度が高ければ室温が低くても良好な暖房をすることができ省エネルギーに寄与する、(3)空気を循環して直接加熱する装置がないため病原菌の繁殖や伝播(でんぱ)がなく健康的である、(4)室内に設置する装置が不用なため空間の自由度が高い、などである。一方、欠点・注意点をあげると、(1)加熱面がコンクリートなどの蓄熱体の場合は、予熱に時間がかかる、(2)新鮮な空気の供給や加湿に別の装置が必要である、(3)加熱面の乾燥、収縮による損傷対策に注意を要する、(4)加熱面の故障時の修理が困難である、(5)加熱面を冷却して冷房に兼用することもできるが(パネル・クーリングという)、わが国のように夏が多湿な気候の場合は冷却面の結露の防止が困難である。したがって通常、冷房装置は別に設けなければならない、などである。
わが国における適用例は、議場、劇場、玄関ホール、銀行の営業室など、天井が高いため足元が冷えやすい空間の補助暖房や、住宅、幼稚園など床面近傍が生活域となる空間の暖房に多くみられ、設備費が比較的高いにもかかわらず快適性が高いため近年多用されるようになった。また西欧では事務所、学校、病院、室内プールにも適用例があり、加熱面も床だけでなく天井、壁などにも設けられる。
加熱面の構造は、面内に空隙(くうげき)を設けて加熱した空気を通す、温水パイプや電気ヒーターを面内に埋設する、などの方法がある。温水パイプを用いる場合は、加熱面の故障対策が重要で、ユニット化されたパネルを用いる、加熱面を区分化して正常な部分のみ使用できるようにするなど、設計上のくふうが必要である。
[吉田治典]
『空気調和・衛生工学会編・刊『空気調和・衛生工学便覧Ⅰ~Ⅲ』(1981)』▽『日本建築学会編『建築設計資料集成Ⅰ 環境』(1978・丸善)』▽『日本建築学会編『建築設計資料集成 設備計画編』(1977・丸善)』▽『ASHRAE Handbook Systems(1980, ASHRAE, U.S.A.)』
直接暖房の一種。室の床や壁,あるいは壁に取り付けたパネルの表面温度を高め,それからの放(輻)射熱により暖房を行う方法。室内に温風を吹き出す間接暖房は長所も多いが,設計が適切でないと頭が熱く,足もとが冷える環境を作ることがあり,とくにピロティ直上の室など床下が外気に接するような場合はこの傾向が著しい。パネルヒーティングではこのような現象は起こりにくいが,反面,温度と材料の選定が不適当だと,放熱部分が反ったり割れたりすることもある。パネルヒーティングでは,放熱面積をなるべく大きく,表面温度をなるべく低くとることで上下方向の温度差の小さい快適な環境が得られる。また火傷の危険性も少なく,室内に煙や有害ガスを放出したり火災を発生させることもないが,それ自体に換気や空気浄化の機能はないから,適当な空気調和装置と併用することもある。
→暖房
執筆者:横山 浩一
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