日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
セントラル・ヒーティング
せんとらるひーてぃんぐ
central heating
建物内の一か所に熱源機器をまとめて設置し、建物内の各部屋に放熱器を設け、熱媒を循環させて熱を供給する暖房法のことで、中央暖房ともいう。熱源機器の管理が容易で、部屋から離れているため安全であり、部屋の空気の清浄さの点で優れている。熱媒により、蒸気暖房、温水暖房、温風暖房に分類される。放熱器には、ラジエーターやパネル・ヒーターなどの輻射(ふくしゃ)熱放出を利用するもの、コンベクターのように自然対流を利用して80%以上を対流で熱放出するものや、強制通風によりさらに効率を高めたファン・コンベクターなどがある。本来は建物の種類に関係なく用いられることばであるが、日本ではとくに住宅の中央暖房の意味に用いる場合もある。本項では主として住宅に用いられる程度の小規模なものについて述べる。一般の大規模なものについては「空気調和」および「暖房」の項を参照されたい。
[松下敬幸]
蒸気暖房
蒸気暖房は蒸気ボイラーで発生させた蒸気を放熱器で凝縮させ液水の形で戻すという循環を行う。一般には行きと帰りを別にすることが多いが、1本の管で蒸気を送り同時に液水を戻す方式もある。蒸気暖房は蒸気の凝縮潜熱を利用するので輸送する熱量が大きい。そのため一般に管径を小さくでき、配管スペースや放熱器面積が小さくなり、設備費が安い。しかし、放熱器の表面温度が高くなり火傷の危険があること、蒸気の流量調節が困難なため供給熱量がほぼ一定しており外気温変化に追随した温度調節がむずかしいこと、さらに暖房開始時の急速に蒸気を通したときに騒音を発生するなどの欠点がある。また、蒸気ボイラーには空焚(からだ)きによる圧力の過度の上昇の危険があり、ボイラー運転技術を必要とする。このため技術者の配置が容易であり蒸気の多目的利用が可能な工場やビルでは用いられるが、一般住宅ではほとんど用いられない。なお、低圧蒸気暖房は、管内圧力を大気圧より低くすることにより低温の蒸気を利用する方法であるが、低圧を維持管理することがむずかしいので用いられることは少ない。
[松下敬幸]
温水暖房
温水暖房は、温水ボイラーにより加熱した80度C以下の低温水を循環させる方法が一般的である。温水を送る管と放熱後の水を戻す管の2本が必要である。住宅では多くは複管式(温水を主管内を循環させ、必要流量を放熱器に取り出す方式)であるが、各室の独立な使用に対応するため放熱器ごとに細い配管で直接にボイラーの温水ヘッダに接続する方式もある。また単管式(1本の循環路の途中に放熱器を順々につないだもの)もあるが、ほとんど用いられていない。温水暖房は取扱いが簡単で騒音も小さく、温水ボイラーから送る温水温度の調節が容易であり、また放熱器ごとに温水量の調節を行うこともできるので、きめ細かい温度調節が可能であるなどの利点をもつ。一方、温水暖房の欠点としては、水の熱容量が大きいため予熱時間が長いことがあげられる。日本では温水暖房が住宅のセントラル・ヒーティングの主流となっている。温水を用いたパネル・ヒーティングによる輻射暖房では快適性が高い。
なお、大規模な建物では120℃以上の高温水を用いる方法もあるが一般的ではない。
[松下敬幸]
温風暖房
温風暖房は、おもにアメリカで発達した暖房法であり、アメリカでは住宅暖房の主流を占めている。しかし日本ではほとんど用いられていない。これは温風を送るダクトスペースが大きく、また部屋ごとの温度調節が困難であるため全館暖房には適しているが、日本住宅のような個別暖房指向には不適であるなどの理由による。このほか、輻射による放熱がないので室温を高めに設定する必要があり、また室温の上下温度分布を生じやすいなどの問題がある。長所としては、温風炉が安価であること、予熱時間が短いことや、加湿、外気の取り入れが容易であることなどがある。
[松下敬幸]