放射暖房の一種。床下に燃焼ガスを通すことにより床の全体または一部を加熱するものをいう。中国では炕(カン)、朝鮮で温突(オンドル)とよぶ。炕は寝床のみ暖めるのに対し、温突は床全体を暖める。これは、中国は腰掛式、朝鮮は座式という生活様式の違いによる。歴史的には炕のほうが古い。起源の考察に関しては、村田治郎の論文「温突とカンの起源に関する考」(『建築学研究』第27、28号所収・1929)に詳しい。類似の暖房法として古代ローマにもハイポコースト(ヒポコースト)hypocaustがあった。
構造材料には土、石など身近なものが使用される。構造は簡単で、土間の上に煙道を設け、その上に板石を敷き、土石、油紙を用いて床を張るが、炕のほうが表面仕上げが粗末である。焚(た)き口はかまどと共用され、燃料には薪、石炭などが用いられる。自然対流を利用するので煙道は流れの抵抗を小とする形状にし、灰の掃除の便利、煙の逆流防止にくふうがなされているが、燃焼ガスの漏れによる中毒、床表面の乾燥による埃(ほこり)などの問題がある。
炊事と暖房とが兼用でき、床暖房で暖房効果がよいため、現在でも中国、朝鮮の北緯40度以北で推定1億人が使用している。
[寺井俊夫]
『田中良太郎「オンドルの話」(『建築界』第三巻第12号所収・1957・理工図書)』
床下からの暖房装置。朝鮮のオンドルは,床下に石を数条に並べて火炕をつくり,その上に薄い板石をのせ,泥をぬり,さらに特殊な油紙を張って床とするもので,室外や台所のたき口で火をたくと,その煙が火炕を通って部屋の反対側の煙ぬきから出るあいだに床下から部屋全体を暖める仕組みになっている。室内ではオンドルのたき口に近い方を下座,遠い方を上座と呼ぶが,より暖かい下座が身分の高い人や客人にすすめられる。床下暖房の装置としては,中国東北地方で炕(カン)または炕床と呼ばれているものと類似するが,炕や炕床が,椅子を利用する生活様式とあいまって,部屋の一方の側を寝台のように高くして,その部分にのみ火炕を設けているのに対し,朝鮮のオンドルは,床にじかに座る生活様式を反映して,部屋全体の床下に火炕を設けている。燃料は葉のついた松の枝が主であったが,最近では練炭が多く用いられている。朝鮮のオンドルは高句麗時代からみられるようである。
執筆者:嶋 陸奥彦
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… 個別暖房は古くから利用され,日本では火鉢,炬燵(こたつ),囲炉裏(いろり)が,ヨーロッパ諸国ではストーブ,暖炉が多く使われてきた。床下に数条の煙道を作るオンドルや壁体内に煙を流すペチカは,床や壁の表面温度を高め,主として熱放射によって暖房を行うもの(放射暖房という)で,現在の日本ではこのような形式の暖房方法としては床や壁に埋め込んだパイプに温水を強制循環させる形が多い。これらは直接暖房の一種である。…
…建築では住居にその自然環境による差異がよく現れている。中国大陸と陸続きで寒冷期の長い北部の気候は,紙貼りの土間床式のオンドルを発達させ,また,温暖な南方では床を上げた板敷間を中心にしてオンドル部屋をL字形,コの字形に連ねた朝鮮独特の民家建築をつくりあげた。これは土間床のみの中国と板敷床の発達した日本の民家の性格を兼ね備えたものともいえよう。…
※「オンドル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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