スミレ科の一年草。和名はサンシキスミレ(三色スミレ)で,原種であるV.tricolor L.(英名wild pansy,heartsease,Johnny-jump-up)が,1花に紫,黄,白,あるいは紫,黄,青の3色をあわせもつことに由来する。ヨーロッパで19世紀初めごろから,イギリスのトムソンTompsonなどの手によって改良が始められ,同世紀末には,現在栽培されている品種の基礎的品種がほとんど完成されていて,この間にV.tricolorを中心に,V.lutea,V.altaica,V.cornuta,V.calcarataなどの近縁種が交配されて,完全な人工雑種起源の合成種となって発達をしたものである。草丈10~15cmで,よく分枝して茂り,早春から初夏までの長期間,葉腋(ようえき)に径2~10cmの色とりどりの花を平開状に咲かせる一年草であるが,冷涼地では多年草となる。結実した蒴果(さくか)は初め下を向き,成熟してくると上向きになり,やがて3裂開して中の種子をはじき飛ばす。みつ房である下弁基部につく距は短い。花の構造は完全な虫媒花の構造を示し,閉鎖花は出さない。日本へは江戸時代末に,オランダの船によって渡来したといわれ,胡蝶菫(こちようすみれ)とか遊蝶花(ゆうちようか),あるいは人面草(じんめんそう)などと呼ばれていたが,その当時は,まだヨーロッパで改良品種がつくり出されたばかりで,これがすでに渡来していたことになる。
系統品種がきわめて多いが,V.tricolorから発達した大輪のガーデン・パンジーGarden Pansy系と,V.cornutaから発達した小輪のタフテッド・パンジーTufted Pansy系とに分けられ,後者は一般にはビオラの名で呼ばれている。ガーデン・パンジー系では巨大輪のマジェスティック・ジャイアントMajestic Giantやインペリアル・ジャイアントImperial Giant(いずれも国産一代交配種),大輪系ではスイス・ジャイアントSwiss Giant,中輪系では20世紀シリーズ系やベッダー系が代表的で,近年の著名種はほとんどが国産品種である。タフテッド・パンジー系では,各色豊富なハイブリッズ・コルヌールHybrids Cornuta系(花径3~4cm)と,花径1.5~2cmの極小輪のバイオレッタVioletta系とがある。このほか茎や花茎の長い切花用種などもある。秋まき一年草であるが,種子まきは8月下旬~9月上旬が適期。発芽後10月まで育苗し,10月中に定植をする。植え場所には堆肥類を多く施しておく。春からの花時には,古花は摘みとり結実しないようにし,月1~2回追肥すると長くよい花が咲き続ける。花壇や庭では群植するほど効果があがって美しい。ビオラ系はロックガーデンの植材にもむく。切花にしてテーブルの飾りにするとよく似合うし,バレンタイン・デーの花としても欠かせない。
執筆者:柳 宗民
パンジーという名は,〈思い〉という意味をもつフランス語penséeからつけられた。これはパンジーの花がほれ薬として用いられていたからであろう。パンジーは聖三位一体の花と呼ばれるが,これは花の色が3色だからである。パンジーは5枚の花びらをもつが,その形が人々にいろいろの連想を呼び起こしたとみえて,たとえばパンジーにあたるドイツ語Stiefmütterchen(〈継母〉の意)は,5枚の花びらの1枚を継母,2枚を黄や白のはでな服を着た継母の子,残りの2枚を紫のじみな服を着た先妻の子に見立てたことからきたものといわれている。
執筆者:山下 正男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スミレ科(APG分類:スミレ科)の半耐寒性一年草。和名をサンシキスミレ(三色菫)とよぶが、これは学名ビオラ・トリコロルを訳したものである。日本ではこの系統のものをすべてパンジーの名でよんでいるが、欧米では、ビオラ・トリコロルのうち園芸品種の系統をパンジーとよび、野生種の系統はハートシーズheartseaseとよんで区別している。北ヨーロッパ原産のスミレから改良されたもので、春の花壇、鉢植え用とするほか、切り花にも利用する。栽培はすでに、近世紀の初めにはヨーロッパの庭園で行われていたといわれるが、その種類は野生種に近いものであったらしい。日本には江戸時代に渡来し、ユウチョウカ(遊蝶花)などとよばれて親しまれてきたが、品種改良に着手したのはそれほど古くはない。
高さは15~30センチメートル、茎はやや直立するか横に広がり、多数分枝する。基部の葉は卵円形であるが、上部はやや細長いへら状になる。花は葉腋(ようえき)から出る1花柄の先に1花をつけ、花径は3センチメートルから12センチメートルまであり、小・中・大輪種がある。花色は黄、紫、黒の3色が主体をなすが、そのほか、青、白、赤褐、橙(だいだい)色などがあり、またこれらの複色のほか、ほぼ1色の単色種もある。開花期は11月から翌年の6~7月に及ぶが、普通は3月から5~6月までが観賞の適期である。
欧米および日本で品種改良が盛んで、一代雑種(F1)が多数作出されている。品種は大別すると、現在栽培されているパンジーの大部分を含むガーデンパンジーgarden pansyと、西フランス産のコルヌタ種から育成された小輪多花性のタフテッドパンジーtufted pansyに分けられる。ガーデンパンジーにはまたいくつかの系統があり、巨大輪のマジェスチックジャイアント系、中輪多花性の二十世紀シリーズ、クリスタルシリーズなどがある。このほか、鉢植えやプランター用として、シャロンジャイアント系、スイスジャイアント系などがある。またタフテッドパンジーには、マジシャン、キングヘンリーなどがある。
[鶴島久男 2020年7月21日]
普通は8月下旬から9月上旬に種子を播(ま)くが、この時期は高温すぎて、発芽適温が10~15℃のパンジーには条件が悪いので、半日陰で通風のよい所で発芽させる。発芽後半月くらいで一度仮植えし、本葉5、6枚のころに冬越しさせる植床に定植する。このとき堆肥(たいひ)のほか化成肥料などを植床に鋤(す)き込む。冬越しは関東以西では簡単な霜よけを北側につくるだけで十分であるが、寒冷地ではフレームなどに定植する。寒さによく耐え、霜よけ下で1月下旬ころから開花するが、寒中はこれを鉢にとって室内で管理し、3月下旬ころ花壇または鉢に植える。花壇の場合はよく育った株を20~25センチメートル間隔で植える。鉢植えには大輪系品種が、花壇には一代雑種の単色の品種などをまとめて植えるとよく似合う。
[鶴島久男 2020年7月21日]
パンジーの原種はビオラ・トリコロルViola tricolor L.で、16世紀中ごろにはイギリスで栽培下にあったが、改良が進んだのは19世紀以降である。それには、さらにビオラ・ルーテアV. lutea HudsonやアルタイスミレV. altaica Ker-Gawlerなど数種が関与した。イギリスでは退役した海軍提督のガンビア卿(きょう)が、30年に及ぶ育種で観賞パンジーをつくりあげた。花弁の付け根に黒い斑点(はんてん)のあるパンジーは、1830年ごろ野生の変異のなかから彼がみいだし、育成した。19世紀にはフランス、ドイツでも改良が始まり、20世紀にはスイス、アメリカが加わり、第二次世界大戦後は日本で優れた品種が作出されている。
シェークスピアは『真夏の夜の夢』で、パンジーを媚薬(びやく)として使い、眠っている間にその花汁をまぶたに塗られると、目覚めたとき、最初に見たものに恋をするという喜劇を描いた。パンジーの名はフランス語のパンセ(考える)に由来するが、それはパンジーのつぼみが下を向き、頭を垂れて物思う姿を思わせるからである。
[湯浅浩史 2020年7月21日]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
※「パンジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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