スケート競技の一種。音楽にあわせ、氷上を滑走し、技術性や芸術性を競う。
フィギュアスケートの技術に関するもっとも古い著書として、1772年にイギリスの砲兵士官ロバート・ジョーンズRobert Jonesが著したものが残されている。この著書にはアウト、イン両方のエッジで描くサークルやループ、エイト、スパイラル、スプレッドイーグル、さらにバックのサーペンタインなどの説明があって、すでに現代のスケーティングの基礎が形づくられていた。とくにジョーンズは技術とともに滑走時の優美さを力説している。世界で最初に生まれたスケートクラブは1742年(一説には1642年)のスコットランド、エジンバラのスケートクラブである。
スケートはアメリカでも盛んになり、1849年フィラデルフィアにスケートクラブが誕生し、1864年には第1回全米フィギュアスケート選手権大会が開かれている。フィギュアスケートの父とよばれるジャクソン・ヘインズJackson Haines(1840―1875)がこの大会で最初の優勝者となった。ヘインズはもともとはダンスの教師であったが「踊り」と「音楽」とを結び付けて、フリースケーティングfree skatingの祖となった。彼はヨーロッパに渡り、ウィーンを本拠にしてスケーティングを教えた。スケートに伴奏をつけて、ステップ、ツイスト、スパイラルなどを振り付けることに成功、これが全ヨーロッパを風靡(ふうび)した。ヘインズは1875年ペテルブルグからストックホルムに向かう途中かぜをこじらせ、そりの上で一生を終えた。フィンランドの寒村マラカルレイに葬られ、墓碑には「アメリカ人のスケート王」と刻まれている。
このころすでにフィギュアスケートの土台は確立され、1892年に国際スケート連盟International Skating Union(ISU)が創立されたときには、競技内容はほぼ完璧(かんぺき)に近くなっていた。国際スケート連盟によるフィギュアスケート世界選手権競技大会は、第1回大会が1896年ペテルブルグで開かれ、現在に至っている。なお、スピードスケート世界選手権大会はこれより早く1893年に第1回大会が開かれている。
国際スケート連盟の歴史のなかでもっとも知られているフィギュアスケーターとしては、ノルウェーのソニア・ヘニーSonja Henie(1912―1969)がいる。彼女は天才少女といわれ、10歳でノルウェーの選手権大会に優勝して以来、世界選手権大会では1927年から1936年まで10年間連続して優勝、オリンピック大会では1928年、1932年、1936年と3回連続優勝している。その後ショースケーターに転じ、ここでも世界的に名をはせた。
フィギュアスケートは第二次世界大戦まではオーストリア、ドイツ、イギリスが世界をリードしていたが、戦後はアメリカ、カナダが進出、ことにソ連(ソ連解体後はロシア)はペアスケーティングpairs skatingとアイスダンスice dancingに優秀なスケーターを出している。フィギュアスケートは第二次世界大戦後、技術的に著しい進歩を示し、ことにジャンプの技術向上は目覚ましい。フィギュアスケート界は従来の静から動のスケーティングに変わってきた。
[両角政人]
日本にスケート用具が渡来してまもない1895年(明治28)ころから札幌や仙台でフィギュアスケートの研究が始まっている。本格的な研究は、1913年(大正2)ころ河久保子朗がアメリカの指導書を訳出し、それを土台にして行ったものが始まりである。1920年、河久保子朗、交野政邁(こうのせいまい)らにより、最初のフィギュアスケート研究団体として日本スケート会が結成され、1922年2月には、日本最初のフィギュアスケート競技会が長野県下諏訪(しもすわ)町の特設スケート場で開かれた。優勝者は東京帝国大学の五代(ごだい)正友であった。日本スケート会は1926年に国際スケート連盟に加盟承認され、ついで1929年(昭和4)全国学生氷上競技連盟(現日本学生氷上競技連盟)のOBとともにスケートの全国統一機関として大日本スケート競技連盟(現在の日本スケート連盟)が組織された。このころフィギュアスケートの技術は長足の進歩をみせ、1932年アメリカ、レーク・プラシッドで行われた第3回冬季オリンピック大会に日本最初の代表選手老松(おいまつ)一吉、帯谷龍一(おびたにりゅういち)の2選手が派遣された。1936年、ドイツ、ガルミッシュ・パルテンキルヘンで行われた第4回冬季オリンピック大会では、当時12歳の稲田悦子がフィギュア出場選手32名中最年少ながら10位となり、将来を嘱望された。しかし、第二次世界大戦により、スケート界も他のスポーツ競技同様に停滞を余儀なくされた。
第二次世界大戦後、1950年代後半から欧米各国とのスケート交流が盛んになり、オリンピックや世界選手権に参加、1972年(昭和47)には札幌オリンピック大会、1977年には東京で日本最初のフィギュアスケート世界選手権大会が開かれた。
フィギュアスケート日本人メダリスト一覧
世界選手権大会
1977年 佐野稔(1955― )(銅・男子シングル)
1979年 渡部絵美(わたなべえみ)(1959― )(銅・女子シングル)
1989年 伊藤みどり(金・女子シングル)
1990年 伊藤みどり(銀・女子シングル)
1994年 佐藤有香(さとうゆか)(1973― )(金・女子シングル)
2002年 村主章枝(すぐりふみえ)(1980― )(銅・女子シングル)
本田武史(1981― )(銅・男子シングル)
2003年 村主章枝(銅・女子シングル)
本田武史(銅・男子シングル)
2004年 荒川静香(金・女子シングル)
2006年 村主章枝(銀・女子シングル)
2007年 安藤美姫(あんどうみき)(金・女子シングル)
浅田真央(あさだまお)(銀・女子シングル)
高橋大輔(銀・男子シングル)
2008年 浅田真央(金・女子シングル)
2009年 安藤美姫(銅・女子シングル)
2010年 浅田真央(金・女子シングル)
高橋大輔(金・男子シングル)
2011年 安藤美姫(金・女子シングル)
小塚崇彦(こづかたかひこ)(1989― )(銀・男子シングル)
2012年 鈴木明子(1985― )(銅・女子シングル)
高橋成美(たかはしなるみ)(1992― )(銅・ペア)
高橋大輔(銀・男子シングル)
羽生結弦(はにゅうゆづる)(1994― )(銅・男子シングル)
2013年 浅田真央(銅・女子シングル)
冬季オリンピック大会
1992年 伊藤みどり(銀・女子シングル)
2006年 荒川静香(金・女子シングル)
2010年 浅田真央(銀・女子シングル)
高橋大輔(銅・男子シングル)
[両角政人]
かつてフィギュアスケートでは、定められた図形を描くコンパルソリーフィギュアcompulsory figures(スクール・フィギュア、規定課題ともいう)が競技の中心であった。その後、フィギュア競技がテレビで中継されるケースが増えるなか、視聴者の要望にこたえる形で、競技の中心はジャンプ、スピン、ステップなどを自由に組み合わせ、音楽にあわせて滑るフリースケーティングとなった。1990年から競技は事前に定められたジャンプ、スピン、ステップなどの要素を音楽にあわせて滑るショートプログラムshort programとフリースケーティングのみとなり、コンパルソリーフィギュアは競技としては行われなくなった。競技種目として、男子、女子それぞれのシングルsingle(スケーティング)、男女が一組になって滑るペアpairs(スケーティング)、男女一組のアイスダンスice dancing、グループで滑走するシンクロナイズド・スケーティングsynchronized skatingの5種がある。
[両角政人]
ショートプログラムは、2分50秒以内にジャンプ要素3種類、スピン要素3種類、ステップ1種類、合計7種類の決められた要素を行い、自分の選んだ音楽にあわせて滑走する。フリースケーティングは、男子4分30秒(±10秒)、女子4分(±10秒)の時間で、定められた規制のなかであれば自由に要素を組み合わせて滑走できるが、男子では4回転のジャンプ、女子では5種類の3回転ジャンプを跳べなければ優勝することは難しく、ますます高度化している。
[両角政人]
男女で組んで滑り、パートナーを頭上に持ち上げるリフトや、パートナーを投げ上げるスロージャンプthrow jumpなど、ペアならではの、より高度でダイナミックな演技が行われる。滑走時間はショートプログラムが2分50秒以内、フリースケーティングが4分30秒(±10秒)である。
[両角政人]
ペアと同様に男女で滑走するが、音楽のリズムや表現に重点を置くため、肩から上へのリフトや1回転を超えるジャンプは禁止され、スピンも3~5回転で行われるダンススピンでなければならない。他の競技のショートプログラムにあたるショートダンスは、毎年定められるリズムを使った音楽にあわせて、2分50秒(±10秒)の演技時間のなかで、定められた要素を行い滑走する。フリーダンスは4分間(±10秒)で任意に選んだ音楽にあわせて定められた要素を自由に組み合わせて滑走する。使用する音楽については、ショートダンスでは、指定されたリズムとテンポの規定を守れば、ボーカル曲も含めた自由な選曲をすることができる。フリーダンスでは、選曲は自由であるが、耳で聞き取れるビートがある「ダンス的な音楽」を選曲しなければならないなど、遵守事項が多くなり、アイスダンスプログラムにふさわしい選曲でないと判断された場合などは、厳しく減点される。
[両角政人]
12~20名の集団で音楽にあわせて滑走するもので、サークル、ライン、ブロック、ホイール、インターセクション、スピン、ムーブインザフィールドなどの要素がある。ショートプログラムは、これらのなかから毎年定められる最大六つの要素を入れて2分50秒以内で滑走するものである。フリープログラムは、いろいろな要素を自由に組み合わせて4分30秒(±10秒)間滑走する。グループの男女構成比は自由であるが、多くは女性のスケーターである。
[両角政人]
現在競技としては行われないが、フィギュアスケートの基本となるもので、4種類の滑り方から構成される。前進外曲(アウトカーブ)、前進内曲(インカーブ)、後進外曲(バックのアウトカーブ)、後進内曲(バックのインカーブ)の4種類で、いずれも左右の両足で別々に滑る。さらにこの4種を基本にして17種の基本図形が考案され、さらにこれを前後左右で滑り、69種の図形があった。競技ではこの17種の基本図形のなかからいくつかの図形を選んで課題とした。
[両角政人]
6.0方式
フィギュアスケーティングでは、6.0方式といわれる採点方式が100年以上にわたり歴史的に採用されてきた。各競技部分とも、第一採点、第二採点の二つの採点を行い、各競技者の順位を決定してきた。各競技部分の順位にその競技部分の係数(競技係数)を掛けて算出された順位点を競技者ごとに集計し、その合計点の少ない者から最終順位が決定されていた。シングル(男女)、ペア、シンクロナイズド・スケーティングの競技係数はショートプログラム0.5(33.3%)、フリースケーティング1.0(66.7%)であり、アイスダンスの競技係数はコンパルソリーダンス0.4(20%)、オリジナルダンス0.6(30%)、フリーダンス1.0(50%)であった。各競技部分とも、第一採点は技術・能力に関する採点であり、第二採点は芸術性・表現力に関する採点である。
各採点とも0点から6点までが用いられ、0点は滑走しないもの、1点は非常に劣るもの、2点は劣るもの、3点は中程度のもの、4点はよいもの、5点は非常によいもの、6点は最高水準のもの、である。小数点第1位までは中間点として用いられてきた。この基準はフィギュアスケートの国際試合が始まって以来変更されてこなかったが、2002年オリンピック・ソルト・レーク・シティ大会のペア競技の採点が問題視され、国際スケート連盟では新採点方式を検討し、2004~2005年のシーズンより正式採用した。
新採点方式
ジャンプ、スピン、ステップを評価する第一採点と、スケーティング技術、音楽表現などを評価する第二採点からなる。第一採点は、実施された要素の基礎点(要素の種類、難易度に応じて定められている)に、GOE(できばえ点)を+3から-3の7段階で評価したものを加味して行われる。第二採点は、演技のなかでの(1)スケーティング技術、(2)トランジション、(3)パフォーマンス/エクセキューション、(4)振付/構成、(5)曲の解釈の五つ(ファイブコンポーネンツ)を10点満点で採点する。要素の基礎点は、テクニカル・パネル(技術審判団)が認定し、GOEおよびコンポーネンツはジャッジ(演技審判)が評価していく仕組みになっている。
アイスダンスにおいては、(1)ダンススピン、(2)ダンスリフト、(3)セットオブツイズル、(4)ステップシークエンス、(5)パターンダンスの必須要素に難易度レベル1から4を設定し、その実施要素にGOEを加味したテクニカルスコアが第一採点にあたる。
[両角政人]
フィギュア用スケートは、スピード用のようにブレード(滑身)が長くなく、滑氷面には溝があり、複雑な動きができるよう曲線となっている。また、トージャンプのときに氷をとらえることができるよう、つまさき部分にはぎざぎざがついている。服装は基本的に自由であるが、男子ではタイツは許されず長いズボン(パンツ)でシャツは袖(そで)がなければならない。女子は裸体を思わせるようなものであってはならない。ふさわしくない衣装に対して-1の減点を科せられることがある。一般的には軽快であれば特別のものを必要としないが、選手はよい印象を与えるよう、いろいろとくふうを凝らしている。
[両角政人]
『白石和己著『五十嵐文男の華麗なるフィギュアスケート』(1998・新書館)』▽『田村明子著『氷上の光と影 知られざるフィギュアスケート』(2007・新潮社)』▽『阿部奈々美著『もっと深く「知りたい!」フィギュアスケート』(2007・東邦出版)』
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(折山淑美 スポーツライター / 2007年)
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…スケートをする場所はリンクrinkと呼ぶ。スケート競技としては,スピードスケート,フィギュアスケート,アイスホッケーの3種類がある。アイスホッケーについては当該の項目を参照されたい。…
※「フィギュアスケート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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