フェイクニュース(読み)ふぇいくにゅーす(英語表記)Fake News

知恵蔵「フェイクニュース」の解説

フェイクニュース

虚偽の情報でつくられたニュースのこと。主にネット上で発信・拡散されるうその記事を指すが、誹謗(ひぼう)・中傷を目的にした個人発信の投稿などを含む場合もある。2016年の英国・EU離脱の是非を問う国民投票、及び米国・大統領選の投票では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通して多くのフェイクニュースが拡散され、投票行動に大きな影響を与えたという批判が出た。
英国の国民投票に関して、EU離脱派が残留派を上回ったが、離脱派が主張していた英国のEUへの週約3億5千万ポンドという負担額が、投票後、半分以下に過ぎないことが分かった。更に、離脱派の急先鋒ファラージ(英国独立党・党首)が虚偽の数字であることをあっさり認めたことから、離脱賛成に投票した国民からも批判の声が上がった。
米大統領選では、「ローマ法王がトランプ支持を表明した」「ヒラリーが過激派組織IS(イスラム国)に武器を供与した」という明らかなうそのニュースも拡散した。投票日が近づくにつれフェイクニュースの浸透度は高まり、選挙前3カ月余の集計では、発信された大手ニュース記事の上位20位に計736.7万のエンゲージメント(反応・シェア・コメントなど)があったのに対し、フェイクニュースの上位20位にはそれを上回る約871.1万のエンゲージメントがあったという(米バズフィード社)。
同年11月には、米国の首都ワシントンで、ネット上のデマを信じた男が武装し、ピザ店を脅迫・襲撃するという事件(ピザ・ゲート事件)も起こっている。12月には、フェイクニュースをうのみにしたパキスタン国防相が、核兵器の使用を示唆するような投稿をTwitter上に流すという騒動も起こった。日本国内でも4月、熊本地震の発生直後、動物園のライオンが脱走したという偽情報が別の画像と共に拡散。いたずら気分で投稿したという男性が偽計業務妨害容疑で逮捕されている。

(大迫秀樹 フリー編集者/2017年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

デジタル大辞泉「フェイクニュース」の解説

フェイク‐ニュース(fake news)

主に、ウェブサイトSNSで発信・拡散される、真実ではない情報。時に、マスメディアが発信する不確実な情報についていうこともある。
[補説]政治的な目的で世論を操作するため、運営するウェブサイトのアクセス数を増やすため、ただ単にセンセーショナルでおもしろいからなど、さまざまな理由で発信・拡散され、その影響力が大きいことから社会問題となっている。
[類語]虚報がせねた

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ)「フェイクニュース」の解説

フェイクニュース
ふぇいくにゅーす
fake news

「フェイク」とは「にせ」という意味であり、事実とは異なるがまるで真実のように伝えられる情報が「フェイクニュース」である。2016年のアメリカ大統領選挙では「ヒラリー・クリントンが児童の人身売買をワシントンのピザ店内で行っていた」などといった対立候補を中傷する情報や、「ローマ法王がトランプの支持を表明した」などのにせ情報が飛び交った。このあたりがフェイクニュースの典型例であろう。

 にせ情報には世間の関心をひいて自分のサイトのページビューを稼ぐねらいのものもあるが、故意ににせ情報を発信して被害をもたらす悪質な例も少なくない。他国が、アメリカなどの比較的自由で開かれている国をねらって、意図的に虚偽の情報を流すケースもある。とくに、権威主義国家が、自国の利益と目的達成のために強引な対外世論工作に力を入れているといわれている。このような工作の影響力を総称することばとして「シャープパワー(sharp power)」があり、文化的価値の魅力でひきつける「ソフトパワー(soft power)」や、軍事力や経済力による「ハードパワー(hard power)」と対比される。「シャープパワー」の典型例の一つがにせ情報の流布であるといわれている。

 そもそもインターネットはフェイクニュースの流布に絶好の場である。爆発的に普及しているソーシャルメディアの利用で、政治報道は瞬時に広く伝播(でんぱ)するようになったが、ソーシャルメディアでは自分の支持する情報を好んで伝える「選択的接触(selective exposure)」の傾向があるため、世論の分極化も一気に進んでいる。ソーシャルメディアでは、好みの記事、意見、同じ考えといった情報に泡のように包まれ、それとは異なる情報にはフィルターがかかったようにみえなくなる「フィルターバブル(filter bubble)現象」につながっていく。これは検索サイトやソーシャルメディアが、アルゴリズムとよばれるコンピュータの計算処理方法に基づき、利用者の閲覧履歴にあわせて情報を分別する機能があるためである。

 インターネットの場のなかでは、自分が納得できない情報は「フェイクニュース」として切り捨てる発想の土壌が広く共有される。ソーシャルメディアは、徹底した党派対立をあおりながら膨張を続けていく。「敵か味方か」の二元論で政策を論じれば、妥協がむずかしくなるのはいうまでもない。さらに、ソーシャルメディアの世界では、早いレスポンスが重要となる。これに積極的に対応する動きは、一種のデマゴーグか大衆迎合主義になってしまう傾向が強い。政治運動も瞬時に大きくなるが共有する情報は偏っており、タコツボ化(仲間内だけで終始)しつつある。

 「にせ情報」という意味でのフェイクニュースということばは以前から存在したが、一種のキーワードとして、日本も含め、世界的に一気に人口に膾炙(かいしゃ)するようになったのは、2016年のアメリカ大統領選挙でのにせ情報の拡散や、その選挙で勝利したトランプが演説やツイートで好んで「フェイクニュース」ということばを使ったことがなによりも大きい。

 就任直前の2017年1月10日には、トランプの性的映像をロシアが握っているなどという未確認情報が報じられた。翌11日に行った記者会見でトランプは「完全なでっち上げ。ロシアはなにもないといっている」と反論し、報道したメディアに所属する記者に対して、「おまえの組織はひどい」と質問を拒絶したほか、食い下がる記者に対して「質問はさせない。おまえたちはフェイクニュースだ」と言い放った。

 明快で「敵」を一刀両断に切り捨てるトランプの言動やツイートに対して、支持者は拍手喝采(かっさい)した。しかし、トランプの発言には誇張も多く、そのなかには真実かどうか怪しい情報も含まれており、大統領自身が「フェイクニュース」を生み出している感も強かった。『ニューヨーク・タイムズ』の調べによると、就任から2019年10月15日までのトランプ大統領のツイートは計1万1000以上であり、その半数以上は他者への攻撃である。民主党との対立などが表面化すると、反論や批判などのツイートが激増する傾向も目だった。

 フェイクニュース問題については、一度広がれば大きな影響を与えかねないため、アメリカのメディア各社も対応を考えてはいるものの、その情報が「フェイク」か「ファクト(事実)」であるかは判別しにくいのが現状である。そもそも「表現の自由」の観点から、どこまで投稿内容を検査してよいのか微妙である。ソーシャルメディア各社にとっては受難の時代ともいえる。たとえ人工知能(AI)を真偽の判別に利用したとしても、情報を分別するアルゴリズムをプログラムする行為そのものが「恣意(しい)的」という批判も出てくる。それでもメディア各社にとって「にせ情報を見逃すのは問題」という堂々巡りの議論が続いている。そのなかで、各社はいやおうなしに手探りで規制を進めざるをえない。

 トランプの各種ツイートに対して、「場」を提供しているだけであるという立場から、ツイッター社はできる限り規制を行わなかった。根本的な規制をしたのは、2020年の大統領選挙後である。この選挙の結果を正式に承認する連邦議会上下両院合同会議の最中にトランプの再選を訴える支持者が議事堂に乱入した2021年1月6日の事件を経て、乱入を呼びかけたトランプのツイッターが永久凍結された。

 それ以前にツイッター社が行ったことは、規制とはいえないような編集に過ぎなかった。たび重なるトランプの誇張やうそ、「郵便投票には不正がはびこる」という誤解を招きかねないトランプの投稿に、「根拠がない」という注釈をつける措置を、2020年5月にツイッター社は行った。これにトランプが激怒し、「言論の自由を守る」として、すぐにソーシャルメディアの運営会社各社による利用者の投稿規制を阻止する大統領令に署名した。その内容は、もしなんらかの編集行為を行うなら「通信品位法」で守られているソーシャルメディア各社の免責特権をはく奪するというものだった。この大統領令に基づき、議会では各種公聴会も開かれたが、議会での議論はまったく進まず、立法化には至らなかった。

 抜本的な規制そのものがなかなかむずかしいなか、送り手であるメディア側がしっかりとした裏づけのある事実を積み重ねて情報を提供していく必要性と、各種情報を比較し、真偽を見分ける受け手のメディア・リテラシーの強化の双方がこれほど強く求められている時代はないであろう。

[前嶋和弘 2021年6月21日]

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