フォルクスワーゲン・ビートル(読み)ふぉるくすわーげん・びーとる

知恵蔵 の解説

フォルクスワーゲン・ビートル

ドイツのフォルクスワーゲン社が製造していた小型自動車。屋根ボンネットに丸みを帯びたボディ形状から「ビートル」または「カブトムシ」の愛称で親しまれた。初代のタイプ1は、1938年の生産開始以来2003年までの65年間に2千万台を超える世界最多の生産台数を記録した。まったく別設計のハッチバック車などではあるが、タイプ1の姿をほうふつさせる2代目としてニュービートルが1998年から2010年まで、3代目として11年から19年まではザ・ビートルが販売されたが、モデルサイクルの区切りを迎えたとして19年7月に生産を終了した。何らかの形で復活を望むオールドファンも多いが、同社としてはアナウンスできることはないという。
タイプ1は、1933年にドイツ首相に就任したアドルフ・ヒトラーの大衆政策の核として企画された。大規模なアウトバーン(高速自動車道)の建設がナチスの経済政策として始まり、この道路を走行する廉価で高性能な国民車を大量生産し、国民全員の自家用自動車所有を実現するというもの。37年創業のフォルクスワーゲンの社名そのものが国民車の意である。設計者は当代きっての自動車設計者だったフェルディナント・ポルシェ。38年に原型がほぼ完成するが、第2次世界大戦に突入する中、民需用の生産には至らなかった。ドイツの敗戦後、占領下で国営から民営企業に転換した同社により量産が開始され、耐久性と信頼性、整備性の良さから人気を博した。国外にも輸出されるとともに、メキシコなど国外での現地生産も進んだ。排気量の拡大や安全性確保、安定性向上など様々な改良は行われたが、空冷の水平対向エンジン車体後部に搭載し後輪駆動(RR)する基本設計と、独特のボディー形状は2003年の生産終了まで、大きくは変わらず続いた。タイプ1は、長らく同社を代表する車種でありつづけたこともあり、日本などで自動車の車種名であるかのように「ワーゲン」と呼ばれたこともある。なお、ニュービートルはエンジンは水冷に変わり、RRではなく車体前部にエンジンを搭載し前輪で駆動(FF)するものとなり、機構上はタイプ1の後継車ではない。ボディタイプも2ドアセダンだったタイプ1から、ニュービートルでは3ドアハッチバックとなっている(ともにオープンカーの仕様もある)。ただし、丸みを帯びた屋根の形状などにタイプ1の面影を残していた。ザ・ビートルは3ドアクーペとなり、全体に扁平(へんぺい)な形状で屋根も平らに近いが、タイプ1のデザインイメージの名残を感じさせる。これら2代目、3代目まで含めれば80年を超える歴史を刻んできた名車であるだけに、生産終了を惜しむファンが多く、終了前には駆け込み需要も見られた。また、ボディデザインを引き継いだ電気自動車がいつの日にか発売されるのではなどと、何らかの形での復活を望む声も少なくない。なお、19年9月には同社から、タイプ1の車体を使い、駆動系などを組み替えて、電気自動車(EV)にしたモデルが「e-Beetle」の名で発表された。同社はタイプ1をEV化するための部品などのキットを発売し、組み換えサービスを提供するとしている。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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