日本大百科全書(ニッポニカ) 「カブトムシ」の意味・わかりやすい解説
カブトムシ
かぶとむし / 兜虫
[学] Allomyrina dichotoma
昆虫綱甲虫目コガネムシ科カブトムシ亜科に属する昆虫。日本産の代表的な甲虫の一つである。本州、四国、九州のほか、台湾、朝鮮半島、中国、インドシナに分布している。7、8月ごろクヌギ、サイカチなどの樹液に集まるので、サイカチムシともよばれる。体長38~53ミリメートル、幅19~27ミリメートル、雄は頭に前上方に伸びる長い角(つの)がある。この角は先が二またになり、その先も二またになる。前胸にも中央前から前向きに二またの角がある。角の発達は体の大きさで違い、大きい雄ほどりっぱである。雌は角がなく、背面の光沢が鈍く、ボウズ(坊主)などとよばれ、色も黒っぽい。脚(あし)はじょうぶで脛節(けいせつ)の外縁には歯があり、つめも強いので、つかまれると痛い。成虫はおもに夜活動し、灯火に音をたてて飛んでくる。雌は朽ち木、おがくず、落ち葉の積もった中に産卵し、卵期は約1週間、幼虫は周囲の腐った植物質を食べて10センチメートルぐらいの長さまで成長し、越冬してから初夏に蛹(さなぎ)になり、7月ごろ成虫になる。近年は業者による大量飼育が行われており、大形の容器か枠の底におがくずと腐植土を20~30センチメートルの厚さに敷き、成虫に産卵させ、上に金網を張る方法が用いられる。成虫は糖蜜(とうみつ)や蜂蜜(はちみつ)と果実を与えて飼う。なお、沖縄にはカブトムシによく似て光沢の強い別種がいる。
カブトムシ亜科Dynastinaeに属する甲虫はおよそ1000種ぐらい知られ、主として熱帯、亜熱帯域に分布している。世界最大のヘラクレスオオカブトムシ(体長は角とも16センチメートルに達する)はじめゾウカブトムシ、アトラスオオカブトムシなどの大形種が含まれ、雄だけが角や突起をもつことが多いが、東洋熱帯域に分布し、吐噶喇列島(とかられっとう)の宝島にもいるクロマルコガネAlissonotum pauper(体長10ミリメートル余)のような小形種は両性とも同形で角がない。日本にはこのほか黒色で平たいコカブトムシEophileurus chinensisとその奄美諸島(あまみしょとう)の亜種、沖縄以南に侵入しているヤシの害虫タイワンカブトムシOryctes rhinocerosがいる。
[中根猛彦]