フクジュソウ(読み)ふくじゅそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フクジュソウ」の意味・わかりやすい解説

フクジュソウ
ふくじゅそう / 福寿草
[学] Adonis amurensis Regel et Radd.

キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)の多年草。多数の堅い根をもつ短い根茎から数個の花茎を出す。花茎は初め短く、包葉状の葉に包まれて先端に1花をつけるが、やがて伸びて細裂した3回羽状複葉を互生し、30センチメートル以上になる。花は光沢のある黄色で径3~5センチメートル、花弁は多く、日が当たると開く。雄しべ、雌しべとも多数で、花期後、金平糖のような集合果ができる。日本から朝鮮半島、シベリアに分布する。日本では本州中部以北、北海道に多く自生する。寒さに強く、自生地では山の北東斜面の落葉樹林に多く、南西面には夏の暑さと乾燥のためかみられない。

 日本のフクジュソウ属は4種あるとされ、A. amurensisはキタミフクジュソウである。フクジュソウA. ramosaは日本の固有種である。ほかにミチノクフクジュソウとシコクフクジュソウがある。花形や花色に個体変異が多く、弁先が裂けたナデシコ咲きや、紅色花の品種もある。

 庭では夏に日陰となる落葉樹の下に植え、腐葉土堆肥(たいひ)を十分施して、肥培するとよい。年の瀬鉢植えで売られるものは即席植えのため、そのままではよく育たないので、花期後、庭に植え替えをする必要がある。

 近年、学名アドニスAdonisの名で栽培されるのは、近縁別種でヨーロッパ産のナツザキフクジュソウA. aestivalis L.である。秋播(ま)きの一年草で、5月に緋赤(ひせき)色花をつける。

鳥居恒夫 2020年3月18日]

文化史

フクジュソウを元旦(がんたん)に飾る風習は江戸初期からあり、『毛吹草(けふきぐさ)』(1645)には福寿草とともに元日草の名がみえる。日本最初の園芸書『花壇綱目(かだんこうもく)』(1681)ではいちばん初めに解説されている。『立花大全(りっかたいぜん)』(1683)は室(むろ)咲きの花で扱い、当時すでに促成栽培で観賞されていたことがわかる。『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1695)には祝儀の花の記述があり、白福寿草の名もあげられている。『花壇地錦抄附録』には浅黄福寿草(二重大輪、うち黄)、八重福寿草の品種の記載がある。江戸後期には流行し、品種改良が進み、『本草要正(ほんぞうようしょう)』(1812)には紅花、白花、八重咲き、段咲き、大輪、細咲き、希(まれ)咲き、青軸打抜(あおじくうちぬ)き、絞り、変化、瞿麦(なでしこ)咲き、葉替(はがわ)り、奇品に分類した126もの品種がある。

[湯浅浩史 2020年3月18日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「フクジュソウ」の意味・わかりやすい解説

フクジュソウ (福寿草)
Amur adonis
Adonis amurensis Regel et Radde

キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草。別名ガンジツソウ(元日草),北国ではマンサクと呼ぶこともある。短い根茎には黒褐色の堅い太い根が多数ある。寒さに強く,北国では雪どけと同時に,地下の根茎より茎を出し,伸びないままで花を咲かせる。花径は3cmほど,花弁は多数あり,黄金色で輝いており,春一番に咲く花として喜ばれ,福寿草の名ができた。暖かさとともに茎を伸ばし,3回羽状に切れこんだ葉を広げ,頂花に続いて腋枝(えきし)の花も咲かせ,結実期には高さ30cmばかりとなる。北海道では茎は高さ1mに及ぶことがあるという。花後には金平糖状の果実をつけ,6月ころには葉が枯れて休眠する。北海道,本州,九州の山地に分布し,沿海州や中国東北地方にも分布する。日本では北日本に多く,東または北斜面の乾燥のひどくない落葉樹林を好む。

 旧暦の正月に開花するので,鉢植えにして正月の床飾りとした習慣が,新暦に変わったのちも残り,年末には鉢植えがたくさん売られる。根を切ったり,無理に開花を早めたものは,結局うまく咲かない。庭の半日陰の場所でよく育つ。朱紅色や淡黄色のもの,花弁の先が細く切れるなどの花変りが,園芸品種として江戸時代から伝えられており,現在も60品種ほどを愛好者が育てている。全草が強心,利尿などの薬用にされる。強心配糖体のアドニトキシンadonitoxinをはじめ,各種成分を含有していることが知られている。

 フクジュソウ属Adonis(ギリシア神話のアドニスに由来。英名pheasant’s-eye)は北半球の温帯域に約20種が知られ,栽培されるものもある。ヨウシュフクジュソウA.vernalis L.(英名spring adonis)は薬草としても有名。ヨーロッパ産のアキザキフクジュソウA.autumnalis L.は,一年草で真っ赤な花を咲かせる。ナツザキフクジュソウA.aestivalis L.もある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のフクジュソウの言及

【有毒植物】より

…しかし用量安全域がせまく,副作用として食欲不振,悪心,嘔吐をさそい,多量に使用すれば心臓停止による死を招く。キンポウゲ科のフクジュソウ,クリスマスローズ,キョウチクトウ科のキョウチクトウ,ストロファンツス,ユリ科のオモト,カイソウ,スズランなどにも同様の成分が存在する。ストロファンツスはアフリカの原住民によって,矢毒として利用されていた。…

※「フクジュソウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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