フナムシ(読み)ふなむし(英語表記)sea slater

改訂新版 世界大百科事典 「フナムシ」の意味・わかりやすい解説

フナムシ (船虫/海蛆)
sea-slater
Ligia exotica

等脚目フナムシ科の甲殻類。陸生で,日本南部の磯にごくふつうに見られる。本州以南の各地のほか,中国,北アメリカ大陸の東西両岸にも分布している。体は紡錘形,大型で,体長3~4cmくらい,生きているときは暗青色,黒褐色あるいは黄褐色をしており,基盤の色の明暗によって体色を変化させる。胸部7節,腹部6節,体後端に体長の2/3くらいの長い棒状の尾肢がある。第1触角は3節よりなり,非常に短く小さい。第2触角は長く,後方に曲げると尾肢の後端に達する。腹肢は葉状,空気呼吸に適しているが,同じワラジムシ亜目のワラジムシダンゴムシなどに見られるような気管の発達は見られない。長時間水中で生活することはできない。

 岩礁,れきの海岸や岸壁などの高潮線付近の石の下,岩の割れ目,打ち上げられた流木塵芥じんかい)の山などにすみ,ときに群れをつくって岩上を移動する。陰影の動きに敏感な反応を示し,近寄るとすばやく岩の上を走る。雑食性で,海藻,動物の遺骸の肉や有機残骸などを食べている。雌は雄よりもやや小型で,相模湾沿岸では初夏のころ,胸部下面にできた育房内に産卵する。幼生は体長4mmくらいの親によく似た形になるまでこの中で保護され,海中で自由生活を送る幼生期をもたない。脱皮は2回に分けて行われる。まず,第4胸節と第5胸節との境目が裂け,それより後半分が脱げ,2日位後に前半分が脱皮する。体の後半部の脱皮のときには,血液中のカルシウム分は体の前半に移動し,前半部の脱皮のときにはカルシウム分を体の後半部に移動させる。このような脱皮のしかたは,ワラジムシやダンゴムシおよび口脚類などにも見られる。種々の実験材料としてよく使われ,また,釣りの餌として用いられる。

 日本各地にふつうに見られる小型の近似種のヒメフナムシLigidium japonicumはフナムシに一見よく似ているが,体長は4~7mmくらいと小さい。その分布は海岸から遠く離れた山地にまで及び,各所の森林の枯葉の下など,湿気の多い場所に生息しており,第2触角は短く,後方へ曲げると第3胸節にまでしか届かないこと,尾肢の基節はその内外肢よりもはるかに短く,内肢は外肢よりも長いなどの点で容易に区別できる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フナムシ」の意味・わかりやすい解説

フナムシ
Ligia exotica; sea slater

軟甲綱等脚目フナムシ科 Ligiidae。扁平な小判形で,体長 4.5cmに達する。頭部,8胸節,6腹節よりなり,頭部にある一対の大きな複眼と長い第2触角,腹部末端にある尾肢が目立つ。脱皮は第4胸節,第5胸節の間を境として前後 2回に分けて行なう。雌は胸部に形成される哺育嚢内に産卵する。孵化した幼体は成体に近い形になって出てくる。釣餌のほか生物学の実験材料にも用いられる。インド西太平洋全域,北アメリカ両岸に分布し,海岸の高潮線以上の岩場で陸上生活をする。フナムシ科にはヒメフナムシ Ligidium japonicum のように山地の枯れ葉の下などの湿地にすむ種もある。(→甲殻類節足動物等脚類軟甲類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フナムシ」の意味・わかりやすい解説

フナムシ
ふなむし / 船虫
sea slater
[学] Ligia exotica

節足動物門甲殻綱等脚(とうきゃく)目フナムシ科の1種。本州以南の西太平洋、インド洋の沿岸各地にごく普通にみられる。アメリカの東西両岸にもすむが、船とともに広まった可能性が大きい。岩礁の高潮帯より上の岩石の間や割れ目などに群れをなしてすむ完全な陸上生活者である。餌(えさ)を求めて歩き回るが、ときには干し魚などを食い荒らしたり、糞(ふん)で汚したりする一方、釣り人には餌として重宝がられる。扁平(へんぺい)な小判形で、体長4センチメートル内外。頭部の1対の大きな複眼、長い第2触角、長い尾叉(びさ)が目だつ。脱皮は第4、第5胸節の間を境として前後2回に分けて行われる。近縁種のヒメフナムシLigidium japonicumは、山地の枯れ葉や朽ち木の下など湿気の多い場所にすむ。

[武田正倫]


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百科事典マイペディア 「フナムシ」の意味・わかりやすい解説

フナムシ

等脚目フナムシ科の甲殻類。体長3〜4cm。体は長楕円形で,触角と尾肢が長い。色は暗青〜茶褐色。北海道南部〜九州,中国,北アメリカ両岸に分布し,潮上帯の岩礁などに群生する。陰影の動きには敏感で,近寄るとすばやく岩の上を走る。水中生活は不能。波に打ち上げられた藻類や腐肉などを食べる。実験材料や釣餌として用いられる。

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