船舶を係留する係船施設の一つの呼び方で、水底から鉛直に立ち上がる壁体または壁面をもち、これらの前面水域に船舶が係留され、これらの背後は土砂で埋め立てられて陸地となり、そこにいろいろな埠頭(ふとう)施設が設置される。このような構造形式をもつ係船施設を岸壁と総称している。
構造形式には、重力式、矢板式、棚式、セルcellular式などがある。重力式は、鉄筋コンクリートケーソン、コンクリートブロックまたはL形擁壁(ようへき)などで壁体をつくり、それぞれの重さで背後から作用する土圧に対抗する様式で、あまり大型の岸壁でなく、地盤が良好な所に向いている。ただし耐震性には劣るところがある。矢板式は、壁面を矢板で構成するもので、背後からの土圧はこの矢板で支える。砂質地盤などに適しており、施工が容易で工費が安くなる。近年では合成矢板、鋼管矢板など断面の大型なものが利用できるようになり、水深の大きい岸壁にも用いられている。矢板式は、矢板の控え工が杭構造になると耐震性が強化される。棚式は、矢板式の変種で、貨物などの上載荷重や地震時の荷重は杭(くい)で受け持ち、土圧は矢板で支える構造にしたものである。セル式は、直線矢板または鋼板で直径十数メートルの円筒をつくり、内部に土砂を充填(じゅうてん)して壁体となし、これを連続させたものである。矢板式、棚式、セル式など鋼材を用いる岸壁は、海水による腐食作用を防ぐため防食の処理が必要である。
[堀口孝男]
係船岸ともいう。水際線において,船を接岸して係留するための港湾施設で,鉛直の壁で陸地の土圧を直接支えた構造物をいう。水深4.5m以下のところに設けられる小さいものを物揚場ということがある。陸地を保全するために設ける護岸,あるいは陸地の土圧をいったん護岸で支え,係留施設を脚柱で支持する桟橋とは区別される。自然の状態のままの海岸線では,喫水の大きい船は陸に近寄れないことが多く,この場合大きな船は沖に停泊し,はしけのような小型の船で積荷の揚げ降ろし,旅客の乗り降りを行わねばならないが,必要な水深が確保できるところに岸壁を設置すれば船を直接接岸させることにより海陸輸送を円滑に行うことが可能となる。岸壁には,地震時はもちろん,平時においても大きな土圧が作用するので,岸壁はこれを支えるための強度をもっていなければならない。岸壁の形式としてはケーソンやコンクリートブロックを組み合わせ,その重量で土圧を支える重力式岸壁,直線型鋼製矢板もしくは鋼板を円形に建て込んで土圧を支えるセル式岸壁,前面に鋼製の杭や矢板を打ち込み,これをタイロッドと呼ばれる棒などで土中に引っ張って背後に設けた控え工に結んで支える矢板式岸壁,矢板壁背後に杭を打ち込み,その杭上に設けたたなと矢板を結合させたたな式岸壁などがあり,いずれも多く用いられている。
執筆者:長尾 義三
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