プリゴジーヌ(読み)ぷりごじーぬ(英語表記)Ilya Prigogine

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

プリゴジーヌ
ぷりごじーぬ
Ilya Prigogine
(1917―2003)

ベルギーの物理学者。ロシアのモスクワに生まれる。ブリュッセル自由大学教授、ベルギー国際ソルベイ研究所所長、テキサス大学統計力学・熱力学研究センター所長を歴任。非平衡熱力学、統計力学の研究業績で知られる。
 自然界には、粘性、拡散、熱伝導などさまざまな不可逆過程(不可逆変化)が生起している。現実に進行している過程はすべて不可逆であるといってよい。熱力学第二法則はこの点を不等式表現で示している。19世紀に成立した熱力学は、まず、第二法則が等式表現となる可逆過程に対し、平衡熱力学として展開された。それを不可逆過程を含む理論へと拡張、一般化することは、本来、第二法則そのものに由来する課題であった。その第一歩はオンサーガーの相反定理によって与えられた(1931)。非平衡熱力学は1950年代初めまでにほぼ体系化されるが、プリゴジーヌは、いわゆるブリュッセル学派の指導者としてそれに貢献した。彼による「定常状態に関するエントロピー生成極小原理」(1945~1947)は有名である。
 プリゴジーヌは1950年代なかばまでに、溶液論分野においてもその統計力学的理論の形成に重要な貢献を行った。1960年代以降、彼を中心とするブリュッセル学派は、非平衡系における自己秩序形成、すなわち散逸構造の問題に系統的に取り組み、その面で世界で指導的役割を果たし、1977年、プリゴジーヌは、散逸構造の理論でノーベル化学賞を受けた。その研究は、生物物理その他の分野で今後も大きく貢献するものとみられる。[荒川 泓]
『I・プリゴジーヌ、R・デフェイ著、妹尾学訳『化学熱力学1、2』(1966・みすず書房) ▽P・グランスドルフ、I・プリゴジン著、松本元、竹山協三訳『構造・安定性・ゆらぎ――その熱力学的理論』(1977・みすず書房) ▽I・プリゴジン著、小出昭一郎訳『存在から発展へ――物理科学における時と多様性』(1984・みすず書房) ▽I・プリゴジン、I・スタンジェール著、伏見康治・伏見譲・松枝秀明訳『混沌からの秩序』(1987・みすず書房) ▽G・ニコリス、I・プリゴジーヌ著、小畠陽之助・相沢洋二訳『散逸構造――自己秩序形成の物理学的基礎』(1992・岩波書店) ▽G・ニコリス、I・プリゴジン著、安孫子誠也・北原和夫訳『複雑性の探究』(1993・みすず書房) ▽I・プリゴジン著、安孫子誠也・谷口佳津宏訳『確実性の終焉――時間と量子論、二つのパラドクスの解決』(1997・みすず書房) ▽I・プリゴジン、D・コンデプディ著、妹尾学・岩元和敏訳『現代熱力学――熱機関から散逸構造へ』(2001・朝倉書店) ▽北原和夫著『岩波科学ライブラリー67 プリゴジンの考えてきたこと』(1999・岩波書店)』

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