日本大百科全書(ニッポニカ) 「相反定理」の意味・わかりやすい解説
相反定理
そうはんていり
一般に、あるM個の物理量を一般化座標x1,x2,……,xMとし、それぞれに共役な一般化力F1,F2,……,Fnとするとき、それぞれの変化分の間に
のような関係が成り立ち、さらに比例係数の間にL12=L21という関係が成り立つ場合を相反関係であるという。このような関係が成り立つことを相反定理という。また、可逆定理、相反性ともよばれる。
例として、変形を受けた物体中に生ずる力を考えてみる。物体の力のかけ方と引き起こされるひずみの関係は応力テンソルという対称行列で表される。つまり、応力とひずみとの関係に対しても相反定理が成立する。このほか、電気回路における電流と電圧との関係、送信アンテナと受信アンテナとの関係など物理学のさまざまな分野において相反定理が成り立っている。また、散乱断面積の順過程、逆過程での相反性からボルツマンのH定理が示される。
[宮下精二]
オンサーガーの相反定理
物体中に電場を生じさせたときの電流が流れるように、ある外場(電場、磁場など)のもとで流れが引き起こされる現象を輸送現象という。外場が弱いとき、引き起こされる流れは外場に比例する。そのような範囲の現象を線形応答という。そこでの比例係数は輸送係数とよばれる。アメリカの物理学者オンサーガーは、1931年、輸送係数の間の相反関係を導いている。
たとえば、電位差(電圧)ΔV、温度差ΔTがある状況での電流IEと熱流IHを考えてみよう。互いに共役な量にするため、(ΔT、IH)の組を(ΔT、IH/T=IS)にする。ここでISはエントロピー流である。線形応答の範囲で、これらは
IE=L11ΔV+L12ΔT
IS=L21ΔV+L22ΔT
となる。電気伝導度σは温度一定での電位差と電流の比なのでσ=L11である。それに対し、熱伝導度κは、電流が流れていない場合の温度差と熱流IH=TISの比なのでκ=T(L11L22-L12L21)/L11である。ここでL12やL21は温度差によって電流が流れたり、電位差によって熱流が流れたりするいわゆる交差応答である。これらの間に成り立つL12=L21という関係が相反関係である。
この性質は、線形応答の範囲で外場の自由エネルギーへの寄与を考え、時間反転対称性と物理量の緩和が指数関数的(デバイ型)であると仮定すると、一般的にLij=Ljiが成り立つことが示せる。これをオンサーガーの相反定理という。ただし、磁場Hは時間反転に関して符号を変えるため、
Lij(H)=Lij(-H)
となる。この磁場依存性の例として、z方向に磁場がかかった伝導体において、x、y方向の電場、電流を表すベクトルをそれぞれ(Ex、Ix)、(Ey、Iy)とすれば
Ix=LxxEx+LxyEy
Iy=LyxEx+LyyEy
となる。ここでホール効果を考えれば、係数はLxy=RHz,Lxy=-RHzとなる。ただし、Rはホール係数とよばれる物質によって決まる定数である。
[宮下精二]