アメリカの物理学者、理論化学者。ノルウェー、オスロの生まれ。工科大学を卒業後、1928年アメリカに渡り、1934年エール大学助教授、1945年同大理論化学教授。1945年アメリカに帰化した。
彼のもっとも重要な業績は、不可逆過程の熱力学に関する相反定理の導出である(1931)。不可逆過程熱力学の形成の歴史は熱力学第二法則の等式的表現への試みの歴史であるが、オンサーガーの相反定理、すなわち輸送係数の対称性を定める法則の出現によって、不可逆過程の熱力学の基礎が確立され、現象論的理論のもっとも基本的な定理として不可逆現象にかかわるあらゆる領域で用いられてきた。この相反定理導出にあたっての基本前提となった「平均崩壊過程の仮説」も重要である。彼は、ゆらぎの平均崩壊過程は巨視的法則に従うと考えた。このような不可逆現象の統計力学的考察は、今日の非平衡統計力学の展開に直接つながっている。
広く知られている研究に希薄強電解質溶液の理論がある。外部電場が存在する場合に生ずる電気泳動的効果と緩和時間効果を導入してデバイ‐ヒュッケル理論を拡張し、電気伝導度に関する有名なオンサーガーの式を提出(1927)、ついで粘性(1933)、表面張力の理論(1934)を発表。また有極性液体の理論をたて誘電率の式を与えた(1936)。
相転移の統計力学における仕事も意義深い。イジングE. Ising(1900―1998)の強磁性の理論(1925)に始まる格子統計理論は、今日の相転移論の中心となるものであるが、オンサーガー以前には、厳密な格子統計理論が相転移を示すかどうかはまだわかっていなかった。1944年、オンサーガーは抽象代数学を用いて二次元イジング格子問題の厳密解を求めることに成功し、相転移の存在を初めて証明した。さらに液体ヘリウムの理論と実験でも知られる。1968年、不可逆過程の熱力学の基礎の確立でノーベル化学賞を受賞した。
[常盤野和男 2018年6月19日]
ノルウェー生れのアメリカの化学者,物理学者。不可逆過程の熱力学の基礎となった〈オンサーガーの相反定理〉の発見の業績により,1968年度のノーベル化学賞を受けた。オスロに生まれて,国内の高等工業学校を卒業後,チューリヒのP.J.W.デバイのもとで学んだ。1928年アメリカに渡り,ブラウン大学で教職につき,電解質溶液の電気伝導度に関する研究を行うなかで相反定理を発見した(1931)。34年イェール大学助教授となり,45-72年同大学の教授を務めた。その他の研究には,極性液体の誘電率の理論(1936),二次元合金の共同現象の理論(1944,49),液体ヘリウムの理論(1949)などがある。
執筆者:菅 耕作
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