プロタミン(読み)ぷろたみん(英語表記)protamine

翻訳|protamine

デジタル大辞泉 「プロタミン」の意味・読み・例文・類語

プロタミン(protamine)

塩基性の一群の単純たんぱく質。魚類に多く、精子核中にDNAデオキシリボ核酸)と結び付いて含まれる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プロタミン」の意味・わかりやすい解説

プロタミン
ぷろたみん
protamine

脊椎(せきつい)動物の精子核に含まれている小さな強塩基性タンパク質総称。27~65残基の長さで分子量は約4000~1万。等電点は水素イオン濃度指数(pH)10~12で、塩基性アミノ酸、とくにアルギニンが最高で88%と多く、しかも、4~6残基の塊になっていることが多い。貝類にはアルギニンよりもリジンのほうが多いプロタミンもある。1874年スイスの生化学者ミーシャーJohann Friedrich Miescher(1844―1895)が膿汁(のうじゅう)中の核様物質からヌクレイン(リン酸を含む酸性の有機化合物で、その後にサケの精子などから発見され、1889年に核から発見された酸性物質ということから、核酸と名づけられた)とともに塩基性物質をみいだしてプロタミンと命名、1893年ドイツの生化学者コッセル(1910年ノーベル医学生理学賞受賞)が種々の魚類から調製した。

 サケのサルミン、マスのイリジン、ニシンのクルペイン、サバのスコンブリン、カツオのカツオニン、スズキのベルチン、コイのシブリニン、チョウザメのスツリンなどがある。またニワトリのガリンもプロタミンの仲間である。多くのプロタミンのアミノ酸配列が日本の研究者によって決定されている。核酸や酸性タンパク質と会合しやすい。核内DNA(デオキシリボ核酸)の二重螺旋(らせん)の溝に沿って、プロタミンがα(アルファ)-ヘリックス(ポリペプチド鎖がとりうる安定な螺旋構造の一つ)をつくって巻き付いており、両者の結合にはアルギニンのグアニジル基の正電荷と核酸のリン酸基の負電荷によるイオン結合が関与している。こうして、DNAどうしが近接しやすくなり、多量の遺伝情報を担うDNAを狭い精子頭部に収納することができるのである。体細胞染色体ヒストン分子種は進化的に安定しているが、プロタミン分子は動物種により顕著に構造を変化させる。食品の保存料としても使われる。

[野村晃司]

『高分子学会バイオ・高分子研究会編『バイオ・高分子研究法6 高分子化学と核酸の機能デザイン』(1996・学会出版センター)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「プロタミン」の意味・わかりやすい解説

プロタミン
protamine

主として魚の精子に含まれている一群の水溶性の単純な塩基性タンパク質の総称。ニシン精子中のクルペインclupeineやサケ精子中のサルミンsalmine,サバ精子中のスコンブリンscombrineなどが代表例である。アミノ酸組成は単純で,その大半がアルギニンであり,残りを5~6種のアミノ酸で占める。例えばサルミンのアミノ酸組成はArg51Pro7Ser6Ala4Val4Ile1である(数字は1分子中の各アミノ酸残基数を示す)。アルギニン残基が異常に多いので等電点は高く(pH11~12),そのポリペプチド鎖には+電荷が高密度に分布している。精子形成時にはDNA分子を多重コイル状に凝縮させて,小さな空間内に閉じ込める必要があり,そのためにはDNAのリン酸基を中性化して,その電気的反発力を弱めなければならないが,精子内ではこのようなプロタミンの高密度+電荷がDNAのほとんどのリン酸基の-電荷を中性化することによって,安定な核タンパク質が形成される。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「プロタミン」の解説

プロタミン
プロタミン
protamine

多くの脊椎動物の精子核中に存在する一群の強塩基性タンパク質の総称.通常,DNAと結合してヌクレオプロタミンとして存在する.分子量4×103,構成アミノ酸の約70% がアルギニンで,トリプトファン,含硫黄アミノ酸,酸性アミノ酸を含まない.pI10~12.水に可溶.熱によって凝固しない.含まれる塩基性アミノ酸の種類により,(1)モノプロタミン:アルギニンのみを含むもの(クルペイン,サルミンなど),(2)ジプロタミン:アルギニン以外にリシンまたはヒスチジンを含むもの,(3)トリプロタミン:アルギニン,リシンおよびヒスチジンを含むもの(スツリン;チョウザメの精子核中に存在)に分類される.[CAS 9012-00-4]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プロタミン」の意味・わかりやすい解説

プロタミン
protamine

単純蛋白質に属する一群の強塩基性蛋白質。魚の精子核中に多く存在し,デオキシペントース核酸と結合してヌクレオプロタミンとなる。成分アミノ酸のなかではアルギニンの含量が高い。等電点 pH10~12。分子量は 5000~1万。加熱による凝固や変性を起さない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「プロタミン」の解説

プロタミン

 脊椎動物の精子の核にある塩基性タンパク質で,DNAと複合体を作り,染色体を構成する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のプロタミンの言及

【受精】より


[前核の形成と融合]
 精子の核に含まれるクロマチン(染色質)は,通常の細胞核のそれに比べて著しく凝集している。とりわけ脊椎動物の精子核クロマチンは,プロタミンprotamineと呼ばれる塩基性タンパク質でヒストンが置換されているので,強度の凝集が可能となっている。受精とともに,精子核クロマチンは正常細胞核の状態に復帰しなくてはならない。…

※「プロタミン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android