日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホタルジャコ」の意味・わかりやすい解説
ホタルジャコ
ほたるじゃこ / 蛍囃喉
glow belly
lantern belly
[学] Acropoma japonicum
硬骨魚綱スズキ目ホタルジャコ科に属する海水魚。1984年、科の分類がスズキ科からホタルジャコ科に変更された。対馬(つしま)から九州西岸、房総(ぼうそう)半島から九州南岸、東シナ海、朝鮮半島の南部東岸、黄海(こうかい)など西太平洋とインド洋に広く分布する。体は長卵形で、側扁(そくへん)する。目は大きく、眼径はおよそ吻(ふん)長に等しい。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下付近に達する。下顎は上顎より前方に突出する。上下両顎の前部に1対(つい)の犬歯があり、内側に向かう。上下両顎、鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)、口蓋骨の歯は絨毛(じゅうもう)状の歯帯である。肛門(こうもん)は臀(しり)びれ起部と腹びれ起部の中間より前に開く。鱗(うろこ)は大きく、弱い櫛鱗(しつりん)ではがれやすい。体色は背側が淡い桃色で、腹側は銀白色。肛門付近の筋肉内に前部で左右がつながったU字形の発光腺(せん)があり、このなかに発光バクテリアが共生する。発光腺は肛門前方で導管によって体外に開き、この開口部から発光バクテリアが腺内に侵入し、繁殖する。バクテリアの出す光はレンズの役割をする乳白色半透明の筋肉層を通して拡散するので、腹部全体が青白く光ってみえる。水深35~130メートルの大陸棚の砂底や砂泥底付近に生息し、オキアミ類、小形魚類、小形エビ類、イカ類を食べる。東シナ海では産卵期は7~9月ごろ。卵径は0.7~0.8ミリメートルで1個の油球をもつ。1年で全長8.5~9センチメートルになる。成魚は底引網で多量に混獲され、練り製品の材料にされるが、味はよい。経済的価値は低いが、他種の餌(えさ)として重要と考えられている。近縁種のハネダホタルジャコは、肛門の位置が臀びれ起部と腹びれ起部の中間付近に開くこと、体色が赤紫色であること、肛門が黒色を帯びることなどで、本種と区別できる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2020年6月23日]