ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンとともに、四大プラスチックの一つ。塩ビ、PVCと略称される。クロロエチレン(塩化ビニル)CH2=CHClの単独重合物(PVC-S)を意味するが、一般に塩化ビニルを主成分とした共重合物(PVC-M)をも含める。PVCを主成分とする合成樹脂が塩化ビニル樹脂である。
歴史は古く、1835年フランスのルニョーHenri Victor Regnault(1810―78)が塩化ビニル、ポリ塩化ビニルを発見している。熱および光に対して比較的不安定で加工しにくく実用化に時間がかかったが、1927年に至りアメリカのユニオン・カーバイド社によって工業化された。日本での生産は1949年(昭和24)にスタートし、2002年(平成14)には約223万トンに達しており、これはポリエチレン(年間約318万トン)、ポリプロピレン(年間約264万トン)に次ぐ量である。
[垣内 弘]
塩化ビニルは沸点が零下13.7℃、常温では気体である。以前はアセチレンに塩化水素を付加させてつくったが、現在のもっとも新しい方法はオキソ塩素化法である。この方法は、安価でかつ多量に生産されているエチレンと塩素を原料とし、空気または酸素を用いて、それまでの方法で副生する塩酸を出さない、日本で開発された優れた技術である。
塩化ビニルの重合は懸濁重合であり、得られたポリ塩化ビニルは50~150マイクロメートルの白色粉末である。そのまま加熱成形すると硬質製品が得られ、可塑剤としてフタル酸ジオクチルなどを加えて成形すると軟質製品が得られる。成形にはカレンダー、押出し、射出成形などがあり、熱安定剤をかならず加え、その他の顔料などの添加物を加えてコンパウンド(複合物)にして成形加工される。
[垣内 弘]
ポリ塩化ビニルの密度は1.35~1.45g/cm3。硬質成形物の引張り強さは1平方センチメートル当り600~630キログラム、曲げ強さは1平方センチメートル当り1000キログラムと、フェノール樹脂成形物と似たような値を示すが、軟化点が65℃ないし80℃という低い値である。耐酸・耐アルカリ・耐水性に優れ、また透明、着色も自由で加工性もよい。電気的性質もフェノール樹脂に比べて悪くない。機械的性質は重合体(ポリマー)の分子量に左右される。軟質のポリ塩化ビニルは可塑剤が入るためにいろいろな物性は低下するが、柔軟な薄いフィルムやレザー、シートが自由にできるので用途が広い。また軟質の押出し製品としてガスケットやホース、テーブルクロス、バスカーテン、ケミカルシューズなどがある。一方、硬質製品は硬質パイプとして上下水道配管、化学工場用配管、建材(波板、プラスタイル、プリント合板)、シートを真空成形してつくる看板、食品用薄物容器(油やしょうゆの容器)、玩具(がんぐ)、電話機などに使用される。これらの製品はポリ塩化ビニル単独のものもあるが、少量の酢酸ビニルと共重合させたものも用いられている。このように多量に消費されるが、加熱によって有害な塩化水素を発生するので焼却処理時に問題がある。そのため塩化水素の発生を抑えるために安定剤が添加されている。また、800℃以下での加熱焼却でダイオキシンを副生するが、これも問題になっている。
[垣内 弘]
『近畿化学工業会ビニル部会編『ポリ塩化ビニル――その化学と工業』(1969・朝倉書店)』▽『近畿化学協会ビニル部会編『ポリ塩化ビニル――その基礎と応用』(1988・日刊工業新聞社)』▽『松本喜代一著『フィルムをつくる』(1993・共立出版)』▽『佐伯康治・尾見信三著『新ポリマー製造プロセス』(1994・工業調査会)』▽『東レリサーチセンター編・刊『ポリ塩化ビニル(PVC)と環境――PVC廃棄物問題の現状と課題・展望』(1994)』▽『ジョン・エムズリー著、渡辺正訳『逆説・化学物質――あなたの常識に挑戦する』(1996・丸善)』
塩化ビニルを重合して得られる強靱(きようじん)な高分子。塩ビと略称されることもある。1835年,フランスのルニョーHenri Victor Regnault(1810-78)が塩化ビニルおよびそれが重合したポリ塩化ビニル粉末を発見した。しかし熱分解しやすく,加工しがたいため工業化は遅れ,1927年にアメリカのユニオン・カーバイド社で行われた。第2次大戦後,フィルム,成形品,繊維に汎用され,一時は,日本でもプラスチックとして最大の生産量を誇った。現在でもポリエチレン,ポリプロピレンに次いで多く生産されている代表的な熱可塑性樹脂である。
ポリ塩化ビニルには,ほとんど可塑剤を加えない硬質ポリ塩化ビニルと,可塑剤を多量に加えた軟質ポリ塩化ビニルとがある。そのおもな物性は表に示すとおりである。一般に,難燃性,耐水性で,価格-性能のバランスのすぐれた樹脂であるが,後述するように多量の低分子量化合物を添加する必要があるため,これらの低分子量化合物の副効果(高分子から抜け出るブリードアウト性,安全性)に十分注意する必要がある。また,熱あるいは光によって分解して塩化水素を発生しやすい。燃焼時にも刺激性,腐食性の塩化水素ガスを発生するので,建築材料として使用する場合や,廃棄物処理に際し,考慮すべき問題点もかかえている。
硬質ポリ塩化ビニルは,水道管などのパイプ,波板,シートなどの建材,雨どい,窓枠,電話機,レコード板,瓶容器などの成形品として用いられる。軟質ポリ塩化ビニルは,電線被覆,ビニルレザー,靴,サンダル,床タイル,シート,農業用フィルム,ストレッチフィルムなどに用いられている。またペーストやゾルの形で,ビニル鋼板の塗装(塩ビ鋼板),ビニルレザーなどにも用いられている。
モノマーの塩化ビニルは,かつてアセチレンから合成されたこともあったが,石油化学の発展にともない,現在ではエチレンの塩素化によって合成されている。
重合は過酸化物を触媒とするラジカル重合で行われる。プロセスとしては懸濁重合がほとんどであり,一部塊状重合,乳化重合も行われる。一例を示すと,鋼製反応容器中に分散剤としてポリビニルアルコール3kgを含む水3000lを入れ塩化ビニル1000kgをチャージし,過酸化ラウロイル3kgを加え,加圧下に50~60℃で10時間ほど反応させ,未反応物を回収し,粒径20~100μmのポリマーを水洗,遠心分離して乾燥する。加工性をよくするため,酢酸ビニルを共重合させることもある。
ポリ塩化ビニルは成形性が悪く,また用途によっては硬すぎることがあるため,これらの特性を改良するため,可塑剤が添加される。硬質ポリ塩化ビニルには数%,軟質ポリ塩化ビニルには30~50%も加えられる。可塑剤としては,フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジオクチル(DOP)などのフタル酸エステル,エポキシ化脂肪酸エステル,リン酸エステル類などが用いられる(〈可塑剤〉の項参照)。ポリ塩化ビニルは熱あるいは光によって分解し,塩化水素を発生しやすい。したがって,塩化水素の発生を抑える安定剤の添加が必要である。発生した塩化水素と反応し,連鎖反応を抑制するステアリン酸の亜鉛,カルシウム塩,マレイン酸ジオクチルスズのようなスズ化合物,あるいはエポキシ化合物が数%加えられる。成形は押出成形またはカレンダーがけが多い。
執筆者:森川 正信
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…カーペットによく使われるが,その理由はナイロンの摩擦強度が繊維のうちで最高なことと,簡単に洗えて新品同様になることによる。高強力と軽さ(比重1.14)のため,パラシュート地や自動車タイヤコードに,ポリ塩化ビニルで被覆したナイロン地は防水布,ナイロン‐綿混紡布は消火ホースなどに,そして水や海水に強いので,その強度と併せて,地引網などの漁網やロープに使用される。 キアナQiana(商標)はデュポン社が作った新しい世代に属するナイロンで,その構造は長く発表されなかった。…
…高分子によく溶け合い,溶媒のような働きをする物質である。可塑剤の歴史は,19世紀後半セルロイドを製造するさいに,高分子であるニトロセルロースに熱可塑性を与えるためにショウノウを加えたことに始まるが,大きく伸びたのは,第2次大戦後ポリ塩化ビニルが合成樹脂として広く使用されるようになってからである。ポリ塩化ビニル製のふろしき,靴,かばんなどを柔らかくて,しなやかにするため,40~60%の可塑剤が添加される。…
※「ポリ塩化ビニル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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