翻訳|Macbeth
イギリスの劇作家シェークスピアの五幕悲劇。創作年代については異説があるが、少なくとも現在の形をとったのは1606年のことである。歴史家ホリンシェッドの『スコットランド年代記』(1587)から取材したもの。
スコットランドの武将マクベスは魔女の予言に心を動かされ、男勝りの夫人の扇動を受けて、自分の居城を訪れてきた国王ダンカンを殺して王位につき、さらに、その子孫が王者となると予言されている友人バンコー父子の暗殺を謀るが、息子は逃亡してしまう。マクベスの暴政を呪(のろ)う声は全国に広がり、反乱が起こる。彼はふたたび魔女の予言を求め、バーナムの森が動いたり、女の腹から生まれない男が出現するまでは敗れることはないとの自信を得る。しかし、ダンカン王の遺児マルカムをいただきマクダフに率いられた軍隊は、森の枝をかざして姿を隠しながらマクベスの城に進軍する。夫人狂死の報に暗澹(あんたん)たるマクベスは、最後の勇気を奮い起こそうとするが、マクダフは母親の腹を切り開いて生まれたと聞いて、絶望的な一騎打ちに敗死する。夫人は最初国王殺害という事柄の意味を理解しえなかったが、やがて自分たちの行為の意味をおぼろげながら意識するようになり、夢遊病にかかったすえ、狂乱のうちに身を投げて死ぬ。シェークスピア悲劇のなかでもっとも短く、進行のテンポも速いが、マクベスが国王殺害の直後に自分の安眠を殺してしまったことを悟り、手に付着した王の血は大海の水を使い尽くしても洗い落とせないと罪の償いえないことを意識しながら、その意識との必死の葛藤(かっとう)を重ねてゆくところにこの悲劇の本質がある。
[小津次郎]
『『マクベス』(野上豊一郎訳・岩波文庫/三神勲訳・角川文庫/福田恆存訳・新潮文庫)』▽『小田島雄志訳『シェイクスピア全集29 マクベス』(1983・白水社)』▽『小津次郎訳『マクベス』(『シェイクスピア全集7』所収・1967・筑摩書房)』
イギリスの劇作家シェークスピアの四大悲劇の一つ。1606年ころ作。題材はR.ホリンシェッドの《スコットランド年代記》(1577,増補版1587)をかなり自由に改変して用いている。スコットランド出身の国王ジェームズ1世の求めに応じて宮廷での特別の上演用に書かれたものだとする説もある。スコットランドの勇将マクベスは,凱旋の途中3人の魔女から自分が王になると告げられ,男まさりの夫人の教唆もあって,自己の居城に滞在中のダンカン王を殺して王位につく。そのあと彼は友人のバンクウォーを暗殺し,さらにマクダフの妻子をも毒牙にかけるが,やがて国内に反乱が起こり,ダンカン王の遺児マルカムが亡命先から兵を率いて帰国する。マクベスは魔女の二枚舌的な予言に踊らされて必死の戦いを挑むが,夫人が狂死したあとの戦闘でマクダフの手によってたおされる。シェークスピア悲劇の中で最も短く,筋も単一で進展が速い。恐怖と絶望の中に罪を重ねてゆく主人公の,心の葛藤と孤独が表現されるせりふの詩的完成度は比類がない。日本では,初期の代表的翻訳に坪内逍遥のもの(1916)があり,1916年これにもとづきシェークスピア没後300年祭記念として東京有楽座などで無名会によって上演された。なお,黒沢明の映画《蜘蛛巣城》(1957)は《マクベス》を素材としている。
執筆者:笹山 隆
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シェークスピアの四大悲劇の一つ。1606年初演。魔女の予言にまどわされて,次々と殺人を重ねたスコットランドの武将マクベスを主人公とし,良心の荷責に悩まされる彼の姿を描き尽くした傑作。11世紀半ばに実在したスコットランド王マクベスを題材としている。
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…これが劇的アイロニーの効果である。《マクベス》のなかで,自分を殺す計画があることを知らぬダンカン王が,マクベスの居城や人柄をほめたたえるのは,このアイロニーの有名な例である。(3)〈ロマンティック・アイロニー〉はドイツ・ロマン派に始まる概念だが,その後一般化されて,イリュージョンの形成と自己破壊,それに伴う自己憐憫(れんびん)と自己嘲笑の交錯がもたらす文学的効果をさす。…
…およそ1580年代から1630年代ぐらいまで盛んであった年代記史劇は,散文による年代記を資料として,劇としては中世の道徳劇から発達してきたものであった。 しかし,もう少し広く〈歴史劇〉を解することも可能であり,その場合,シェークスピア作品の中では,《リア王》や《マクベス》も〈歴史劇〉と呼ぶことができるし,また,やはり〈悲劇〉の中に入れられている〈ローマ史劇〉の一連の作品も広義の歴史劇と言うことができる。《タイタス・アンドロニカス》や《ジュリアス・シーザー》《アントニーとクレオパトラ》《コリオレーナス》などがそれで,これらはプルタルコスの《英雄伝》などを資料として書かれたものである。…
※「マクベス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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