日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリガン」の意味・わかりやすい解説
マリガン
まりがん
Gerry Mulligan
(1927―1996)
アメリカのジャズ・サックス奏者、作・編曲家。本名ジェラルド・ジョセフ・マリガンGerald Joseph Mulligan。ニューヨークに生まれ、少年時代をフィラデルフィアで過ごす。10代で作・編曲を始め、ピアノ奏者エリオット・ローレンスElliot Lawrence(1925― )の楽団のサックス奏者となる。18歳のときニューヨークに戻り、ドラム奏者ジーン・クルーパの楽団に作・編曲を提供し注目される。1948年ピアノ奏者クロード・ソーンヒルClaude Thornhill(1909―65)の楽団に参加、同楽団の作・編曲者ギル・エバンズと親しくなる。彼を通じ、トランペット奏者マイルス・デービスが新たに結成した「九重奏団」に、作・編曲者、バリトン・サックス奏者として参加、クラブ「ロイヤル・ルースト」に出演。翌49年にマイルスのアルバム『クールの誕生』に参加。52年西海岸に移住、トランペット奏者チェット・ベーカーとバンドを結成する。このバンドは当時としては珍しいピアノ奏者のいない「ピアノレス・カルテット」であったが、マリガンの巧みな編曲による斬新なサウンドが爆発的人気を呼び、ウェスト・コースト・ジャズの代表的グループと見なされる。53年薬物事件で3か月拘留され、ベーカーとのカルテットは解散、代わりにバルブ・トロンボーン奏者ボブ・ブルックマイヤーBob Brookmeyer(1929― )を加えたカルテットでパリ公演を行い成功をおさめる。その後トランペット奏者ジョン・アードレーJon Eardley(1928―97)、テナー・サックス奏者ズート・シムズZoot Sims(1925―85)を加えたセクステットに編成を拡大する。54年ニューヨークに戻り、57年にはピアノ奏者セロニアス・モンクとアルバム『マリガン・ミーツ・モンク』で共演。60年大編成バンドを結成、ビッグ・バンド・リーダーとしても才能を発揮する。68年にはピアノ奏者デーブ・ブルーベックと双頭バンドを組み、72年からはフリーランサーとして活動。78年(昭和53)再びビッグ・バンドを編成し来日している。92年には『クールの誕生』の再現アルバムで話題を呼ぶ。そのほかの代表作は『オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット』(1952、53)、『アット・ザ・ビレッジ・バンガード』 At the Village Vanguard(1960)。
マリガンは、楽器奏者としては、従来ビッグ・バンドにおける低音楽器と考えられていたバリトン・サックスをソロ楽器として前面に押し出し、この楽器のジャズにおける位置づけを変える大きな貢献をした。また、作・編曲者としては、ピアノのもつ調性感を際立たせる性格を嫌い、あえてピアノを除きトランペットとバリトン・サックスが対位法的に絡み合う巧妙なアレンジで、かつてのニュー・オーリンズ・ジャズにも通じるフレキシブルなサウンドを構築してみせた。また、ビッグ・バンドにおいても、あたかも小規模編成のコンボを拡大したかのようなユニークなアレンジを行っている。
[後藤雅洋]