翻訳|marginal man
社会学の術語。文化を異にする複数の集団(または社会)に属し、その異質な二つ以上の文化と集団生活の影響を同時的に受けながら、そのいずれにも完全には所属しきることのできない者。各集団、各文化のいわば境界に位置している人間。境界人、限界人、周辺人などとも訳す。新しい国に移住したばかりの移民、農村から大都市に出てきたばかりの者、偏見や排斥の的となっている少数民族の出身者、混血児、改宗者などにこうした型の個人が生まれやすい。こういう者は心の内部で複数の価値、規範、集団所属感の葛藤(かっとう)を経験していることが多く、それだけ動揺しやすく、首尾一貫性をもった人間としては生きにくい。この動揺を克服しようとするあまり、無理に一つの文化に同調し、一つの集団に没入しようとする傾向も生じるが、自然の行動ではないので心の緊張を伴いやすい。移住した国の文化や生活様式に努力して同化し、その国民になりきろうとする移民や、支配民族の社会に入り込んで成功しようとする少数民族出身者などによくおこる行動傾向である。そのような場合、しばしば周囲からの警戒心や敵意にさらされるため、かえって不安や孤立感にさいなまれ、どっちつかずの根なし草(デラシネ)の心理に陥ることが少なくない。
ただし、こうした境界的な生活体験が、既存の文化のなかからは生まれにくい独自なものの見方、価値観、感受性をはぐくみ、優れて創造的な意義をもつことがある。事実、多くの芸術家、思想家、学者などがマージナル・マン的境遇から輩出している。西欧文化に対するユダヤ系知識人の貢献も、一部分このことによって説明されよう。なお、現代社会では、個人の永続的に所属する共同体が弱まり、人々は生活史上さまざまな集団生活を経過し、その欲求充足のため多様な集団に同時に関係をもつようになっているため、一般人でもマージナル・マンのそれに近い心理を味わう機会は増えている。
[宮島 喬]
『K・レビン著、末永俊郎訳『社会的葛藤の解決』(1954・東京創元社)』
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