ディアスポラ(その他表記)Diaspora

翻訳|Diaspora

デジタル大辞泉 「ディアスポラ」の意味・読み・例文・類語

ディアスポラ(〈ギリシャ〉Diaspora)

《散らされた者の意》離散して故郷パレスチナ以外の地に住むユダヤ人。また、その共同体

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精選版 日本国語大辞典 「ディアスポラ」の意味・読み・例文・類語

ディアスポラ

  1. ( [ギリシア語] Diaspora 「散らされた者」の意 ) 〘 名詞 〙 離散して故郷パレスチナ以外の地に住むユダヤ人。また、その共同体。

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改訂新版 世界大百科事典 「ディアスポラ」の意味・わかりやすい解説

ディアスポラ
Diaspora

本来は〈離散〉を意味するギリシア語。パレスティナを去って世界各地に居住する〈離散ユダヤ人〉とそのコミュニティを指す。1948年にイスラエル共和国が建国されて以来,イスラエル外に住む現代のユダヤ人もディアスポラと呼ばれるが,離散ユダヤ人が,歴史上特に大きな役割を果たしたのは,ギリシア・ローマ時代である。これら離散ユダヤ人は,前6世紀にバビロニア人が捕囚したユダの人々の子孫だけではなく,その後の歴史を通じて,政治的・経済的理由などから各地に散った人々であった。当時最大の離散ユダヤ人コミュニティは,パルティア人が支配するバビロニアにあったが,アレクサンドリアを中心とするエジプトや,小アジアシリアにも重要なコミュニティが存在した。前1世紀の文書は,ユダヤ人が地中海世界とオリエント各地のどこにでも居住していたことを伝える。

 彼らはどこにいても律法を守ることにより,独自のコミュニティを維持した。しかも,離散の地が仮寓の地であることを自覚していたため,努めてエルサレム神殿に巡礼し,エルサレム神殿のために毎年1人半シケルの献金をする習慣を守っていた。彼らのコミュニティの中心は,シナゴーグ(会堂)における礼拝であったが,この礼拝に用いるために,前3世紀ごろ,アレクサンドリアにおいて旧約聖書ヘブライ語原典からヘレニズム世界の共通語であったギリシア語に翻訳された(《七十人訳聖書》)。各地のシナゴーグとギリシア語訳聖書は,1世紀にローマ帝国で起こったキリスト教の急速な伝播を可能にした。ディアスポラ出身の著名なユダヤ人の中には,前5世紀に,エルサレムでユダヤ教団の基礎を確立したバビロニアのエズラ,前1世紀末からエルサレムで活動した当時最大の律法学者ヒレル,アレクサンドリアの哲学者フィロン,キリスト教の使徒になったパウロなどがいた。しかも,後にタルムードはバビロニアで完成されたのである。
ユダヤ人
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディアスポラ」の意味・わかりやすい解説

ディアスポラ
Diaspora

ギリシア語で「散らされている者」を意味し,ユダヤ人パレスチナ以外の地に移り住んでいた人々をさす。ヘブライ語ではガルート(「追放」の意)。その起源は,おもだったユダヤ人をバビロニアに強制移住させた前586年のバビロン捕囚である。アケメネス朝ペルシアキュロス2世が寛容勅令を出したとき,捕囚のユダヤ人は一部帰国した(前538)。同じ頃エジプトのナイル川上流のエレファンティンにもユダヤ人が多く移住していたことが知られている。古代最大の地はアレクサンドリアで,前1世紀の人口の 40%がユダヤ系であった。1世紀のディアスポラ人口は 500万に達し,その 5分の4はローマ帝国内に住んでいた。70年のエルサレム滅亡によって,内外のユダヤ人はすべて政治的・精神的故郷を失い,オリエント,ローマ世界の大都会で土着化し始めた。彼らはそこでも言語,宗教儀礼,教育などで独自の伝統に従い,一般人と隔絶した生活を送った。そのため古くから地域住民との間に紛争が絶えず,アレクサンドリアでは前1世紀半ばから,ローマにおいても前139年にユダヤ人が迫害された記録がある。1世紀中頃すでにユダヤ人は東はペルシアメソポタミア,さらに小アジアの各地やアフリカ北部にも移住していた。使徒パウロのキリスト教の伝道も,ディアスポラのユダヤ人を足場として展開された。ユダヤ教徒自身のディアスポラ観は必ずしも常に同一でなく,正統派から改革派までさまざまである。現代におけるそのおもな違いはシオニズム運動とイスラエル国家の存在を認めるかどうかである。

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百科事典マイペディア 「ディアスポラ」の意味・わかりやすい解説

ディアスポラ

〈離散〉を意味するギリシア語。バビロン捕囚後にユダヤ人が異邦人の土地へと離散したという聖書の記述に由来し,本来はイスラエルから他のさまざまな場所へと移り住んだユダヤ人とその子孫の共同体をさす。しかし〈元は同じ場所に住み一つの文化を形成していたがその後は各地へ移住した状態にある〉という意味で,ユダヤ人に限らず使われる。また移住した先の場所や移住の経験自体もさす。新世界の各地に連行されたアフリカ人奴隷の子孫は,アフリカン・ディアスポラまたはブラック・ディアスポラと呼ばれる。ディアスポラは移住先の文化を少なからず変質させる。また,パン・アフリカニズムのように離れた場所で一つの思想や運動が展開するのは,離散した人々がそれぞれの移住先にいながらも起源地へのアイデンティティを保つからである。ディアスポラの問題を考えるには,国や地域という枠組みに固執せず,近代世界の構造までも視野に含める必要がある。
→関連項目マージナル・マン

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディアスポラ」の意味・わかりやすい解説

ディアスポラ
でぃあすぽら
Diaspora

「離散」「散在」を意味するギリシア語。おもにヘレニズム時代以降、パレスチナ以外の地に住むユダヤ人およびその共同体をさす。「離散ユダヤ人」「離散の地」の意にも用いられる。離散ユダヤ人の大部分はヘレニズム・ローマ文明の支配下に置かれ、離散の地の諸国におけるユダヤ人の経済活動は特定の職業に限定されることなく諸分野に及んでいた。彼らはユダヤ教を堅持しながら特異な共同体を組織していたため迫害を受けた。イエスの使徒パウロも離散ユダヤ人の出身であり、初代キリスト教会はディアスポラのユダヤ人とその会堂を拠点として伝道活動を行った。『旧約聖書』のもっとも重要なギリシア語訳『七十人(しちじゅうにん)訳聖書』(セプトゥアギンタ)は、アレクサンドリア周辺に住むディアスポラのためになされた翻訳である。

[高橋正男]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ディアスポラ」の解説

ディアスポラ
diaspora

「離散」の意で,主としてヘレニズム時代以後,ユダヤ人パレスチナ以外の世界に広く移住したことをさす。このディアスポラのユダヤ人を有力な母体として原始キリスト教が伝播した。

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デジタル大辞泉プラス 「ディアスポラ」の解説

ディアスポラ

オーストラリアの作家グレッグ・イーガンの長編SF(1997)。原題《Diaspora》。星雲賞海外長編部門受賞(2006)。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ディアスポラ」の解説

ディアスポラ
Diaspora

ギリシア語で「離散」の意。ユダヤ人がその故郷パレスチナ以外に散在・定住すること。また,そうした人びとや土地もさす。

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世界大百科事典(旧版)内のディアスポラの言及

【ユダヤ教】より

… ペルシア時代以来,多数のユダヤ人が,パレスティナ本国以外の世界各地に居住していた。彼らをディアスポラ(離散民)と呼ぶ。ディアスポラは,ヘレニズム・ローマ時代に大発展を遂げ,1世紀に,その人口は本国のユダヤ人の数十倍に達していた。…

※「ディアスポラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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