ムーコル症(接合菌症)

内科学 第10版 「ムーコル症(接合菌症)」の解説

ムーコル症(接合菌症)(真菌症)

概念
 ムーコル(またはムコール)目菌の真菌による感染症であり,わが国では接合菌症とほぼ同意義に扱われている.ムーコル症という名称のためムーコル属菌(Mucor spp.)による感染症と誤解されることが多いが,実はRhizopus oryzae(R. arrhizus),R. microsporus,Absidia corymbifera,Cunninghamella bertholletiae,Rhizomucor pusillusなどの種々のムーコル目菌による感染症であり,Mucor spp.によるヒト感染はその一部を占めるにすぎない.ムーコル目菌は土中水中などに広汎に生息している環境内の常在菌である.病原性は概して弱く,宿主の免疫能が著しく低下したときに日和見感染として感染するが,一度感染が成立すると治療が難しい場合が多い.
感染経路・病態・病型
 おもに胞子吸入により肺あるいは鼻から感染する.病型としては,副鼻腔から中枢神経系へ進展する鼻-脳型や肺炎を呈する肺型(図4-14-3)が多いが,ときに消化管型,皮膚型,全身播種型などがある.全身播種は肺型として発症し脳に播種するのが典型的である.また,本菌は血管内に進入し血栓形成,梗塞出血などを起こす(血管侵襲性).このため鼻-脳型では,顔面や口蓋が壊死により黒色となったり,黒い鼻汁が認められることがあり,進行すると眼球運動障害,意識障害などを起こす.また,肺型では,咳,痰のほか,血痰,喀血などがみられる場合がある.危険因子としては,白血病などにおける造血幹細胞移植,好中球減少,糖尿病性ケトアシドーシス(特に鼻-脳型),ステロイド大量投与,などがあげられる.また鉄のキレート剤であるデフェロキサミンも重大な危険因子であり,透析患者で問題となりやすい.
臨床症状・検査成績・診断
 特異的血清診断法のような本菌感染特有のものはないが,特徴として真菌症の一般的マーカーとされる(1→3)-β-d-グルカンが陰性であること,培養陽性率が低いことがあげられる.最も診断に役立つのは患部生検による病理組織検査である.本菌の特徴である,①太く,②隔壁に乏しく,③鈍角に分岐する菌糸をみることができる.鼻-脳型ではCT,MRIなどによる正確かつ迅速な病巣の把握が必要である.
治療
 通常進行は急速であり,診断確定以前に治療を始めなければならない場合が多い.治療は,①ケトアシドーシス,好中球減少などの基礎病態の改善,②可能な限りの病変部の切除,③抗真菌薬の投与,を行う.抗真菌薬としては大量のアムホテリシンBを用いることが多いが,抗菌力は十分でなく,迅速な切除が重要になる.
予後
 一般的に病変部が切除できない場合,予後は不良である.[亀井克彦]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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