気道または肺から血液を喀出する(吐き出す)ことをいう。ごく少量から1lにも達するものまでさまざまであり,痰に血液が少量混じる程度のものは血痰という。出血部位は喉頭,気管,気管支,肺実質などさまざまであり,気管支拡張症,肺結核,各種の肺炎,肺癌,気管支炎,肺化膿症,肺梗塞(こうそく)などが,鑑別すべき疾患である。気管支拡張症は,全年齢層を通じて喀血,血痰の最も頻度の高いものである。高齢者では,肺癌の初発症状である場合が少なくない。しかし,喀血や血痰を訴える患者の半数近くは,検査によっても異常が認められず,原因不明であり,その多くは鼻腔,歯肉,咽頭,喉頭などからの一時的出血であることが多い。急性気管支炎では感冒様症状で始まり,血痰,きわめてまれに喀血を伴うことがあるが,2~3日で出血が止まり,再び出ることはない。
喀血したと思われるときには,まず鼻,咽腔など上気道からの出血でないこと,さらに消化管出血(吐血)でないことを確認することがたいせつである。喀血の血液は,通常鮮紅色で,泡をもち,咳とともに喀出され,凝固せず,アルカリ性である。これに対し吐血では,咳を伴うことはなく,黒赤色で,かつ酸性で,通常酸臭を伴い,しばしば食物残渣を含む。
喀血は見かけ上大量であっても,通常,致死的な失血に至ることはない。大量喀血の死因の多くは,衰弱した患者の気道内に血液が停留することによっておこる窒息である。このため,大量の喀血では,出血側が推定できるなら,出血側を下に,側臥位となり,患部を冷湿布する。出血は時がたてば止まるものである。止血剤,鎮静剤を投与するが,繰り返すものや,喀血が容易に止まらないものでは,喀血源の気管支に血液を供給している気管支動脈の充塡閉塞術embolizationや,手術が緊急処置として行われる。出血源の確認には気管支ファイバースコープが有効である。
執筆者:工藤 翔二
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血液の全成分が血管外に出ることを出血とよび、その部位により各種に分類される。喀血もこの分類のなかの一つで、肺や気管支から出血して吐き出されたものをいう。一方、胃や食道などの消化管から出血して吐き出されたものは吐血(とけつ)とよばれ、喀血と吐血の区別は臨床的に重要である。喀血は鮮紅色で泡を含むのに対し、吐血は暗赤色で泡はなく、食物の残渣(ざんさ)を含むことが多い。吐血は混入する胃液のため酸性反応を呈するが、喀血はアルカリ性である。また吐血の場合は、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)などの胃症状を伴うが、喀血は、咳(せき)、痰(たん)などの呼吸器症状を訴え、喀血後しばしば血痰を呈する。睡眠中におこった喀血は、飲み込まれたのち、胃から嘔吐されることもあるので注意を要する。
喀血は呼吸器疾患にしばしばみられる重要な症状で、咽喉頭(いんこうとう)から肺に至る気道のどこの病変からもおこりうる。頻度の多い場合は肺結核、あるいは肺癌(がん)に対する注意をしなければならない。そのほか、喀血を伴う疾患として次のようなものがある。激しい咳による気道の損傷、肺嚢腫(のうしゅ)、気管支拡張症、肺炎や肺ジストマ症などのような感染症、肺梗塞(こうそく)、僧帽弁狭窄(きょうさく)症による肺の出血やうっ血に伴うもの、また結節性動脈周囲炎などの肺内血管の病変、さらに出血傾向を呈する血液疾患などである。したがって喀血を認めたら、呼吸器系、心血管系、血液系を対象に詳細な検査を行って、喀血の原因を確かめなければならない。
[渡辺 裕]
原因としては
応急処置としては、
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…一般に,食道からの大出血以外は,ヘモグロビンが胃液と反応して塩酸ヘマチンとなるので,褐色の沈殿をもつコーヒー残渣様吐物となる。このため新鮮血を吐く喀血とは区別できる。原因としては,胃潰瘍,十二指腸潰瘍が最も多く,出血性胃炎,食道静脈瘤が次ぎ,胃癌でも吐血することがある。…
※「喀血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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