日本大百科全書(ニッポニカ) 「メキシコ料理」の意味・わかりやすい解説
メキシコ料理
めきしこりょうり
メキシコで発達した料理。古代文明期の料理の形に、スペイン植民地時代の影響が加わって、肉なども一部に取り入れられた形態をもつ料理である。しかし、古代文明期の料理の原形は、ほぼそのまま伝えられている。とくに、辛味のきいたソース類が広く用いられ、そのソースの主材の一つとして、香辛料とともに、トウガラシ、トマトが欠かせないものとなっている。
1521年スペインはメキシコを征服し、その後、メキシコの食品類(インゲンマメ、トマト、トウガラシなど)をヨーロッパにもたらす一方、メキシコにも家畜などをもたらした。そのおもなものとしては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどがある。それまでメキシコでは動物性食品があまり用いられていなかった。現在でも、インゲンマメとトウモロコシの料理を、トウガラシとトマトで味つけして食べている所も残っている。
スペインのメキシコ進出は、家畜類とともに、乳製品も料理に加えることとなったが、なかでもラードの使用が多くなった。また、1800年代の中ごろ、オーストリア皇帝の弟マクシミリアンがメキシコ皇帝(在位1864~67)となり、フランス、オーストリア、イタリアなどの料理の影響をメキシコ料理に与えた。その後、一部には北アメリカの影響も入ったようだが、メキシコ料理に大きな変化を与えるものではなかった。反対に、アメリカのニュー・オーリンズ(ルイジアナ州)などに、メキシコ料理の影響がかなり残っている。
[河野友美]
種類
メキシコ料理の主力は、トウモロコシ、インゲンマメ、トウガラシで、日本の主食にあたるものとして、トルティーヤtortillaがある。トルティーヤは、スペインでは卵焼きを意味するが、メキシコではマサ(トウモロコシの練り粉)でつくった円い煎餅(せんべい)状のパンのような食べ物である。乾燥したトウモロコシの粒を、石灰を入れた水に浸し、粉にして、塩を加えてよくこね、薄く伸ばして、熱した鉄板で焼き、布に包んで冷めないようにし、熱い間に豆料理などとともに食べる。近年は、トウモロコシのトルティーヤ以外に、小麦粉製のものがある。
タコスtacosはトルティーヤの応用形で、鶏肉を焼いてむしったものや、牛ひき肉などをトルティーヤでくるんだいわゆるサンドイッチで、トマトとトウガラシのソースを添える。タコスはスナック(軽食)を意味している。タコスには、ソフトとフライがある。ソフトはトルティーヤを焼き、すぐに肉やチーズを挟んだもの、フライはトルティーヤを半月形に折り、ラードでぱりぱりになるまで揚げ、中に具を詰めたものである。
エンチラーダスenchiladasはメキシコで人気のある料理で、トルティーヤに具を入れ棒状に巻き、ソースを加えてキャセロールに並べオーブンで加熱し、煮込んだものである。
タマーレスtamalesは、トウモロコシの団子に肉やソースを混ぜ、これをトウモロコシの皮に包んで蒸した粽(ちまき)風のもので、これも主要な料理として食べられている。
ソースは種類が多く、トマトやトウガラシを用いた赤いもののほか、緑色のトマトを使用したサルサベルデなどがよく使われる。
[河野友美]
食生活
メキシコの食生活は、ラテン系特有のもので、朝食は早いが、昼食は2~3時ごろで、2時間ほどの昼休みがある。夕食は遅く、軽い。テキーラなどの蒸留酒がよく飲まれる。招待は昼食(3~4時)に行われ、2~3時間の時間をかけて楽しむ。
[河野友美]
『渡辺庸生著『魅力のメキシコ料理――メキシコ料理の調理技術のすべて』(2002・旭屋出版)』