翻訳|lard
ブタの脂肪組織から溶出法で採取される脂肪。豚脂ともいう。とくに腹部の脂肪層に良品質のものが多い。ちなみに、腎臓(じんぞう)周辺の脂肪組織から採取されたものは最高品質である。含油量は腹部80%程度、背部70%程度。日本ではかつてラードをほとんど生産せず、アメリカなどから輸入していたが、近年はかなりの量のラードを生産している。ほとんどのラードは湿式溶出(水蒸気溶出)で得られるが、乾式溶出で得られるものは、風味が強い。白色で風味が良好なものが、良品質である。ヨウ素価46~70。室温では柔らかい固体で、融点は28~48℃。ラードには中性ラード、リーフラード、かま製ラード、スチームラードなどがある。良品質のラードは、融点が高く、ヨウ素価が低い。主要成分脂肪酸はオレイン酸で含有量は40%。ほかにパルミチン酸30%程度、ステアリン酸10%程度、リノール酸7%程度を含む。なお、コレステロールを含有している。過剰に食すれば、心臓関係のアテローム性動脈硬化症を発生しやすい。ラードはヘット(牛脂)に比し柔らかいから、食用脂肪としていっそう適切である。マーガリン、硬化油に用いられる。ラードを冷凍し、粒状にして圧搾すれば、食用に供するラードステアリンとラード油とを得る。
食用に供しないラードはグリースとよばれる。しかしすべてのグリースがブタの脂肪とは限らない。グリースということばは、粘りがあれば他の非食用脂肪のときにも使用される。グリースは、色により白、黄、茶グリースといわれる。非食用ラードは、せっけんに用いられる。また、ラード油は高度の潤滑効果を有し、切削油として広く用いられる。しかしやや変質しやすい。
[福住一雄]
JAS(ジャス)(日本農林規格)ではラードを豚脂100%の純製ラードと、精製した豚脂に他の油脂(牛脂、パーム油など)を調合した調製ラードに分類し、規格化している。固型脂肪としては、牛脂に比べ、口中での融点が低く、食べたときに滑らかさや特有のフレーバーがあるため、調理用としてよい油脂である。とくに中国料理では揚げ物や炒(いた)め物、菓子類に欠かせない油脂で、脂肪の多い部位の豚肉を加熱して、自家製のものもよく用いられる。用途は、家庭での調理用以外に業務用の揚げ油(ドーナツ、フライ、とんかつ、コロッケなど)として使われ、加工食品ではマーガリンやショートニングの原料や即席ラーメン、カレールウなどに用いられる。製パン・製菓用の油脂としては、品質の一定したショートニングのほうが多く用いられている。
[河野友美]
豚の脂肪組織をレンダリング法(〈ヘット〉の項目参照)によって溶出,ろ過したもの。豚脂ともいう。欧米では良質のものをレンダリングし,そのまま未精製で食用に供しており,それをラードといっているが,日本では豚脂とラードは同じものとして通用している。ラードは原料の脂肪組織の豚体における部位によって融点やヨウ素価が異なる。内臓の蓄積脂肪は一般に硬く融点は35~40℃,ヨウ素価は低く57~60である。とくに腎臓周囲の脂肪は硬く高級品でリーフラードleaf lardといわれる。背中や腹壁の皮下組織からとった脂肪は軟らかく融点は27~30℃で,ヨウ素価は67~70程度である。ラードの脂肪酸組成はパルミチン酸20~28%,ステアリン酸5~14%,オレイン酸41~51%,リノール酸2~15%,リノレン酸1%以下である。日本で市販されているラードは大部分精製(脱酸,脱色,脱臭)されたものであって,豚脂100%の〈純製ラード〉と,豚脂を主体として,これに他の油脂(牛脂,パーム油)を調合した〈調製ラード〉に分けられる。ラードはショートニングが発明される以前から調理用,製パン・製菓用に利用されていたが,天然油脂として(1)クリーミング性に欠ける,(2)グレーン(粒状組織)が出やすい,(3)安定性が少ない,(4)採取する豚体の部位,飼料の種類,季節によりラードの硬さが変動するなどの欠点がある。これらの理由によってラードはしだいにショートニングにとって代わられた。ラードは現在フライ用としてとんかつ,コロッケ,ハンバーグ,ドーナツ,チャーハンなどの中華料理用,即席ラーメン,その他パン生地ねり込み用,パイ生地折込み用に用いられ,マーガリン,ショートニングの製造原料でもある。工業用としては圧搾法によってラードステアリンとラードオイルに分別し,後者は圧延油,焼入油に用いられる。
執筆者:森田 重広
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