リーシュマニア症(読み)リーシュマニアショウ

デジタル大辞泉 「リーシュマニア症」の意味・読み・例文・類語

リーシュマニア‐しょう〔‐シヤウ〕【リーシュマニア症】

leishmaniasis》スナバエで媒介される有鞭毛ゆうべんもう原虫であるリーシュマニアによる感染症インドブラジル・中国などに多い。皮膚糜爛びらんリンパ節腫大しゅだい発熱、貧血などが生ずる。

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内科学 第10版 「リーシュマニア症」の解説

リーシュマニア症(原虫疾患)

定義
 リーシュマニア(Leishmania)属原虫による感染症で,原因原虫と病型により,内臓リーシュマニア症(カラ・アザール)と皮膚リーシュマニア症,粘膜皮膚リーシュマニア症に大別される.
原因・病因
 リーシュマニアはトリパノソーマとともにキネトプラスト科に属する鞭毛虫である.マクロファージなど細網内皮系細胞の細胞内でファゴソーム内に寄生する.感染は吸血性媒介昆虫であるサシチョウバエが人体を刺咬する際に,感染型である前鞭毛型(promastigote)が侵入して成立する.動物の細網内皮系細胞では無鞭毛型(amastigote)として分裂・増殖し,やがて宿主細胞破壊後に無鞭毛型が新しい細胞に侵入する.また,無鞭毛型がサシチョウバエに吸血され,中腸にて増殖・細胞分化を経て,次の宿主への感染を待つ.リーシュマニア症の病因は細網内皮系への寄生・破壊,さらに,特に内臓リーシュマニア症の場合,免疫不全・悪液質を本体とする.
疫学
 感染浸淫地は世界で80カ国以上に分布し,3億5000万人が感染リスクにある.内臓リーシュマニア症(visceral leishmaniasis)はドノバン・リーシュマニア(Leishmania donovani complex)などにより,インド・バングラデシュなどに分布し,年間50万人の患者が存在する.皮膚リーシュマニア症(cutaneous leishmaniasis)は旧世界型(old world cutaneous leishmaniasis)と新世界型(new world cutaneous leishmaniasis)とに大別され,熱帯リーシュマニア(Leishmania tropica)やメキシコリーシュマニア(Leishmania mexicana)などの感染で起こり,中近東中南米などに分布し,年間150万人の患者が存在する.粘膜皮膚リーシュマニア症(mucocutaneous leishmaniasis)はブラジルリーシュマニア(Leishmania brasiliensis)などを原因とし,中南米に分布する.いずれの病型もわが国ではまれに輸入症例としてみられる.昆虫に媒介される人獣共通感染症であり,イヌ・家畜など保虫宿主(reservoir)の感染状況と媒介昆虫の生物学的性質が個別の疾患の伝播の効率,感染経路,流行,コントロールなどに大きく関与している.
臨床症状
 内臓リーシュマニア症は発熱で始まり,ついで肝脾腫,体重減少,進行すると下痢,肺炎,心雑音,下肢浮腫,黄疸,皮膚色素沈着などを示す.さらに,白血球顆粒球),赤血球,血小板の減少などの血球系の変化を示す.進行すると栄養不良,悪液質となり死亡する.合併症であるPKDL(post kala azar dermal leishmaniasis)は,初期治療が不完全な場合に数カ月~数年後に起こる皮膚病変である.旧世界皮膚リーシュマニア症は東洋瘤腫(oriental sore)ともよばれる.媒介昆虫の刺咬部位,特に顔面,上下肢など露出部に潰瘍,結節性病変が形成される.新世界型のうちL. mexicanaによるものはチクレロ潰瘍(chiclero’s ulcer)とよばれ,耳介に自然治癒性の潰瘍を形成する.一方,L. braziliensisによる病変は多発傾向が強く,自然治癒傾向は低い.粘膜皮膚リーシュマニア症では,初発病変の皮膚症状のほか,進行すると鼻中隔などの粘膜組織欠損を呈する.
診断
 内臓リーシュマニア症では骨髄や脾臓から原虫を検出する.皮膚リーシュマニア症では,皮膚病変の辺縁部から塗抹・生検材料を採取する.培養やPCRによる診断も可能である.免疫診断では,内臓リーシュマニア症では,組換え抗原を用いた血清反応が用いられる.皮膚リーシュマニア症では,低い血清抗体価や交差反応する自然抗体の存在から,血清反応は利用されない.
治療
 内臓リーシュマニア症には,5価のアンチモン剤(ペントスタン,国内未承認)を第一選択薬として用いる.用量は,1日20 mg/kg(最大800 mg),28日間を希釈後,静注または筋注する.あるいは新しい経口薬剤であるミルテフォシン(miltefosine,インパビド)を100 mg/日,分2,28日間経口投与する.パロモマイシンも用いられている.皮膚リーシュマニア症・粘膜皮膚リーシュマニア症にはペントスタンを用いる.[野崎智義]

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家庭医学館 「リーシュマニア症」の解説

りーしゅまにあしょう【リーシュマニア症 Leishmaniosis】

[どんな病気か]
 リーシュマニアという原虫(げんちゅう)の感染によっておこります。カラ・アザール(黒熱病(こくねつびょう))といわれる内臓リーシュマニア症、皮膚と粘膜(ねんまく)をおかすブラジルリーシュマニア症、皮膚をおかす熱帯リーシュマニア症があります。
 いずれも吸血昆虫、とくにサシチョウバエが媒介します。接触感染もあります。
 内臓リーシュマニア症の原虫はドノバンリーシュマニアで、中国、中近東、インド、地中海沿岸、中南米に分布しています。ブラジルリーシュマニア症は中南米に分布し、熱帯リーシュマニア症は地中海東部、インドなどに分布します。旅行中に感染する人もいますから注意が必要です。
[症状]
 内臓リーシュマニア症は約3か月の潜伏期の後、不規則な高熱で始まります。発汗や下痢(げり)が生じることも多く、1か月ぐらいすると肝臓(かんぞう)と脾臓(ひぞう)が腫(は)れ、貧血(ひんけつ)が進み、放置すると衰弱し、半年から2年で生命にかかわります。
 ブラジルリーシュマニア症の症状は、顔の組織欠損が皮膚から粘膜(ねんまく)へと拡大し、鼻翼(びよく)が欠けることもあります。ときには混合感染による呼吸障害などによって死亡することもあります。
 熱帯リーシュマニア症は皮膚に結節(けっせつ)や潰瘍(かいよう)ができるのが特徴で、おもに顔面や手足にみられます。
[検査と診断]
 内臓リーシュマニア症は骨髄(こつずい)、リンパ節、脾臓などに針を刺して採取した組織や皮膚病変部の辺縁部の組織から原虫が見つかれば診断がつきます。
 熱帯リーシュマニア症は皮膚の病変部の端から、進行したブラジルリーシュマニア症は粘膜の病変部から組織を採取して、原虫が証明されれば診断がつきます。
 なお、いずれのリーシュマニア症も血清(けっせい)診断法が行なわれています。
[治療]
 五価のアンチモンを6~10日間注射します。ただし、副作用が強いため、慎重に使用する必要があります。
 皮膚や粘膜に病変があれば、注射のほかに赤外線照射(せきがいせんしょうしゃ)、ドライアイス接触などを行ない、スチボグルコン酸ナトリウムや硫酸(りゅうさん)パロモマイシンを含んだ軟膏(なんこう)を塗布(とふ)します。
[予防]
 流行地にでかけるときには、サシチョウバエに刺されないように注意します。イヌへの感染が流行の原因になるほか、接触感染もあるので注意が必要です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リーシュマニア症」の意味・わかりやすい解説

リーシュマニア症
りーしゅまにあしょう

リーシュマニア属Leishmaniaの鞭毛(べんもう)虫が小形の吸血昆虫サシチョウバエによってヒトに媒介されておこる感染症の総称。従来、臨床症状をはじめ、分布や媒介昆虫の種類などにより分類されていたが、中南米で新種や亜種がかなり存在し、また同一種でも地域によって症状が異なる場合もあり、免疫学や生化学的手技を用いて再検討されるようになった。従来の代表的疾患は、ドノバンリーシュマニアL. donovaniによる内臓リーシュマニア症で、カラ・アザール(黒熱病)あるいはダムダム熱などともよばれる。

 このほか、皮膚リーシュマニア症ともよばれる東洋瘤腫(りゅうしゅ)があり、病原体は熱帯リーシュマニアL. tropicaで、顔面や四肢に無痛の丘疹(きゅうしん)ができ、中央部が潰瘍(かいよう)化した腫瘤となる。普通は瘢痕(はんこん)を残して自然治癒する。

 なお、リーシュマニア属は肉質鞭毛虫門動物性鞭毛虫綱キネトプラスト目トリパノソーマ科に属する原生動物(原虫)の代表的グループの一つで、アマスティゴートとプロマスティゴートの2種類の形態をもつ。アマスティゴートは従来リーシュマニア型(細胞寄生体)とよばれていたもので、直径1~3マイクロメートルの球形または卵形で、患者の脾臓(ひぞう)、肝臓、リンパ節、骨髄中にみいだされる。プロマスティゴートは従来レプトモナス型(培養型)とよばれていたもので、中間宿主であるサシチョウバエの腸管内に認められ、幅2~6マイクロメートル、長さ10~25マイクロメートルの大きさで、短西洋ナシ形から長紡錘形に至る種々の形態と鞭毛をもつ。

[松本慶蔵]

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世界大百科事典(旧版)内のリーシュマニア症の言及

【サシチョウバエ(刺蝶蠅)】より

…雌は羽化後,5~10日で産卵する。中国,中近東,アフリカ,中・南米大陸には,サシチョウバエが媒介する寄生虫病(リーシュマニア症)がある。病原体は,原生動物のリーシュマニアLeishmaniaで,内臓,皮膚,粘膜などを侵す。…

【熱帯医学】より

…フランベジアは,熱帯地方にみられる梅毒様疾患であり,大部分が直接的な体表面の接触によって感染するが,通常は性交と関係がなく,患者の大部分が小児で占められている。 原虫によるものには,マラリア,リーシュマニア症,睡眠病,シャガス病などがある。マラリアはハマダラカ,リーシュマニア症はサシチョウバエ,睡眠病はツェツェバエ,シャガス病はサシガメによって媒介される。…

※「リーシュマニア症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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