アンチモン(その他表記)antimony
Antimon[ドイツ]

デジタル大辞泉 「アンチモン」の意味・読み・例文・類語

アンチモン(〈ドイツ〉Antimon)

窒素族元素の一。普通は銀白色の光沢ある金属。黄色・黒色の同素体があり、非金属的性質を示す。主要鉱石は輝安鉱。単体・化合物とも有毒。活字合金半導体材料などに利用。元素記号Sb 原子番号51。原子量121.8。アンチモニー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「アンチモン」の意味・読み・例文・類語

アンチモン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Antimon ) 窒素族元素の一つ。記号 Sb 原子番号五一。原子量一二一・七六。銀白色の金属光沢をもつ半金属元素で、単体、化合物ともに有毒。主鉱石は輝安鉱。メッキ、活字合金、軸受合金、半導体、医薬品などに用いられる。アンチモニー。アンチモニウム。スチビウム。
    1. [初出の実例]「鉛に安質王を烊和す」(出典:舎密開宗(1837‐47)内)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「アンチモン」の意味・わかりやすい解説

アンチモン
antimony
Antimon[ドイツ]

周期表第VB族に属する元素。アンチモニーともいう。古代エジプトでは硫化アンチモン(輝安鉱)が医薬あるいはまゆやまつげの化粧料として用いられていたが,これをギリシア語でstibi,stimmi,ラテン語でstibiumなどと呼んでいた。元素記号はこれらに由来する。一方,アラビアではこの目の化粧料はal-ithmidと呼ばれ,これが11~12世紀にヨーロッパに伝わりantimoniumとなった。アンチモンは中世の錬金術師にとっては特別の興味をもってとりあつかわれ,成功を獲得するための最適の出発物質であると信じられた。アンチモンバターの名で塩化アンチモンも医薬品として広く使用された。17世紀にテールデJohann Thöldeによって出版されたB.ウァレンティヌスの作と伝えられる《アンチモンの凱旋車》には多くのアンチモン化合物の処方が載っている。遊離金属も古くから知られ,前4000年と推定されるカルデア人の壺の破片,バビロニア時代の青銅,ティグリス川沿岸に発見された器物などの中にアンチモン合金が見いだされている。16世紀にG.アグリコラは硫化アンチモンを還元して溶融アンチモンをつくる方法を明らかにし,一説には15世紀の人ともいわれ,17世紀初めからその著作が刊行されたB.ウァレンティヌスは金属アンチモンを用いて鏡,鐘,印刷用活字などをつくったといわれる。

 鉱物としては輝安鉱Sb2S3が最も重要で,ボリビアメキシコ,中国,ペルー等から産出される。またバレンチン鉱,方安鉱Sb2O3としても産し,ほかにヒ素,鉛,銅,銀の鉱石中にも存在する。

常温における安定型(灰色アンチモン)は光沢ある銀白色結晶。六方晶系で黒リンと同じ結晶構造をもつ。菱面体格子で,格子定数a=4.4962Å,α=97°66′。乾燥空気中でほとんど変化せず,湿った空気中では徐々に光沢を失う。はなはだもろく容易に粉砕される。熱伝導率0.042cal/cm・s・deg(0℃)で銀の約30%,導電率2.48×104mho(0~30℃)で銀の約4%と小さく,非金属性を示すが,光沢,比重は金属に類し半金属元素と考えられる。融解状態から固化するとき体積の増加がある。アンチモン蒸気を低温で凝縮させると黄色同素体が得られる。これは四面体型のSb4分子から成るものと考えられ,極低温においてのみ安定に存在する。

 空気中で熱すると青色炎をあげて燃焼し酸化アンチモン(Ⅲ)Sb2O3を生ずる。ハロゲン元素とは直接反応して三ハロゲン化物(SbF3,SbCl3,SbBr3,SbI3)あるいは五ハロゲン化物(SbF5,SbCl5など)をつくる。硫黄とともに熱すると硫化アンチモンSb2S3およびSb2S5が生成する。アルカリ金属,アルカリ土類金属,銀などとはM3SbやM3Sb2の組成をもつアンチモン化物をつくる。これらを加水分解すると毒性の強い気体スチビンstibine(SbH3)を生成する。またⅤ族の金属であるのでGaSb,(Ga,Al)SbのようなⅢ-Ⅴ化合物半導体がつくられ,近年重要性を増している。

 Sb2O3をうすい酸に溶解するとアンチモニルイオンと呼ばれるSbO⁺を生ずる。Sb陽イオンの化合物はほとんどがこのSbO⁺の化合物である。

高品位の輝安鉱を空気を断ち546℃以上に熱して硫化アンチモンを融解分離し,これを鉄Feによって還元する。

 Sb2S3+3Fe─→2Sb+3FeS

純度の低い鉱石の場合は空気中で350℃で焙焼して四酸化二アンチモンSb2O4とし,これをコークスと強熱して還元する。

 Sb2S3+5O2─→Sb2O4+3SO2

 Sb2O4+4C─→2Sb+4CO

電解精製すると純度99.8%程度となり,さらにゾーンメルティングによって半導体用の高純度のものが得られる。

単体として用いられることはないが,アンチモンを少量加えた鉛は硬鉛と呼ばれ,機械的強度を増すので,ケーブル線の被覆,蓄電池の極板,鉛管,軸受合金などに用いられている。最近では,アンチモンめっきや半導体材料としても重要である。Sb2O3はホウロウ用のうわぐすりや有機高分子材料に難燃性を付与する添加剤として利用される。Sb2S3は花火やマッチに,SbCl3は媒染剤や顔料に用いられる。d-酒石酸アンチモンカリウムK2Sb2(C4H2O62・3H2Oは水溶性アンチモン化合物として最もよく知られているもので,光学活性化合物の分割剤として学術研究用として広く用いられている。なお,アンチモンは単体,化合物ともに有毒である。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンチモン」の意味・わかりやすい解説

アンチモン
あんちもん
antimony

周期表第15族に属し、窒素族元素の一つ。古くから遊離金属として知られ、紀元前4000年ごろの壺(つぼ)の装飾として用いられた例もある。合金の形では古代の青銅器中にもみいだされている。また、古代エジプトの女性が用いた黒いアイシャドーはアンチモンの硫化物であったとされている。アンチモンの鉱石である輝安鉱のラテン語名stibiumから元素記号のSbがとられた。またアンチモンの名は、輝安鉱がほかの鉱物に伴って産することが多く、anti(反対)-monos(孤独)からantimoniumとよばれたという説と、古く僧侶(そうりょ)たちのハンセン病治療薬に金属製剤が用いられたことからギリシア語のanti(反対)-monachon(僧侶)に由来するという説がある。鉛との合金が印刷用活字に用いられ始めたのは15世紀ごろからである。

[守永健一・中原勝儼]

存在・製法

地殻中の存在度は小さいが、鉱物としてまとまって産するので採取しやすい。輝安鉱Sb2S3が鉱物としてもっとも重要である。高品位鉱では、粉砕した輝安鉱を鉄屑(てつくず)とともに黒鉛るつぼ中で熱すると鉄によって還元され、金属アンチモンが遊離する。また低品位鉱では、鉱石を焼いて酸化物にしたのち、コークスと共熱して還元する。このようにして得られる粗アンチモンは純度87~94%程度で、これに融剤を加えて融解精製するか(95%)、電解精錬により精製する(99.8%)。最近では半導体製造に用いるため、高純度のものが要求され、帯融解法で純度99.99%以上のものが得られる。アンチモン塩の水溶液に亜鉛を加えると黒色アンチモンが得られ、水素化アンチモンに-90℃で空気を通ずると黄色アンチモンが得られる。

[守永健一・中原勝儼]

性質

銀白色の金属アンチモンは半金属の性質をもつ。黄色や黒色の同素体は非金属的性質を示し、黄色アンチモン、黒色アンチモンなどとよばれる。黄色アンチモンは-90℃以上では不安定で黒色アンチモンとなる。高純度の金属塊は表面にきれいな星形の結晶模様がみられ、スターアンチモンとよばれる。常温では空気中で安定であるが、融点以上に熱すると酸化アンチモンとなる。塩素とは常温でも激しく反応して塩化物となる。塩酸には溶けないが、濃硫酸とは二酸化硫黄(いおう)と硫酸塩を生じて溶ける。濃硝酸とはアンチモン酸をつくる。

[守永健一・中原勝儼]

用途

単体としての用途はないが、鉛蓄電池の電極(数%のアンチモンを含む鉛)や活字合金(融点が低く凝固時に膨張する。鉛80%、アンチモン17%、スズ3%などの合金)として利用されている。硫化アンチモンはゴムの加硫などに、このほか色素や触媒に用いる化合物も多い。また、半導体材料として最近その需要が大きい。単体、化合物ともに有毒であり、アンチモン中毒の症状はヒ素中毒に似ている。手当てとしては早く毒物を体外に排出させ、解毒剤としてタンニンを用いるとよい。通常酸化数ⅢとⅤの化合物が存在する。見かけ上、酸化数Ⅳの化合物は酸化数ⅢとⅤの共存する化合物である。

[守永健一・中原勝儼]



アンチモン(データノート)
あんちもんでーたのーと

アンチモン
 元素記号  Sb
 原子番号  51
 原子量   121.75
 融点    630.7℃
 沸点    1635℃
 比重    6.69(測定温度20℃)
 結晶系   六方
 元素存在度 宇宙(Si106個当りの原子数)
          0.381(第59位)
       地殻 0.2ppm(第62位)
       海水(/mgL-1)0.0005

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「アンチモン」の解説

アンチモン
アンチモン
antimony

Sb.原子番号51の元素.電子配置[Kr]4d105s25p3の周期表15族元素.原子量121.760(1).質量数121(57.21(5)%)と123(42.79(5)%)の安定同位体と,104~134の30種の放射性同位体が知られる.元素記号は,古くから知られている輝安鉱Sb2S3のstibniteのラテン名stibiumから.元素名は,俗説では,中世ドイツの僧院で薬として食事にまぜたところ,死者が続出したことからとされるが,鉱物のアラビア名からとも,ギリシア語のαντιμονοζ(孤独の敵,単独で産出しないこと)からともいわれる.宇田川榕菴は天保8年(1837年)出版の「舎密開宗」で,私知彪母(スチビウム)と記載している.
地殻中の存在度0.2 ppm で乏しい元素であるが,鉱脈中には濃縮されて存在する.2006年の中国の産出量は11万t で世界の産出量の85% を占める.全埋蔵量の60% 強も中国.日本はほぼ全量を地金として中国から輸入している.硫化物から鉄で,または酸化物にかえてから炭素で還元して金属を得る.3種類の準安定相が知られるが,通常は,りょう面体構造の片状銀白色の固体.密度6.691 g cm-3.融点630.7 ℃,沸点1750 ℃.固化の際に体積が膨張するので,鋳造に適する.典型的両性元素で半金属元素.同族のヒ素より金属性が強い.標準電極電位-0.51 V(SHE中性溶液).第一イオン化エネルギー834 kJ mol-1(8.641 eV).電子親和力103.2 kJ mol-1.酸化数-3,3,5.常温の空気中では安定であるが,加熱すると容易に炎をあげて酸化物Sb2O3になり,塩素中では発火して塩化物SbCl3となる.
用途は,減摩合金,活字合金,めっき,硬鉛(鉛蓄電池の電極用)の成分などであったが,近年,織物,プラスチックなどの遅燃火剤の助剤として酸化物Sb2O3が多く用いられる.2003年の国内需要は,蓄電池用350 t(3%),遅燃火助剤用6200 t(45%)であった.超高純度のものはⅢ-Ⅴ族半導体用のⅤ(15)族元素として重要である.金属,化合物ともに有毒であるが,同族のヒ素より毒性は低い.アンチモンおよびその化合物は劇物指定.PRTR法・第一種化学物質指定.経口クラス2,作業環境クラス2.[CAS 7440-36-0]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンチモン」の意味・わかりやすい解説

アンチモン
antimony

元素記号 Sb,原子番号 51,原子量 121.760。周期表 15族に属する。安定同位体はアンチモン 121 (存在比 57.25%) および 123 (42.75%) 。単体は銀白色,金属光沢のある六方晶系の半金属結晶。延性,展性は乏しい。比重 6.684,融点 630.5℃,沸点 1380℃。塩酸,フッ酸,アルカリに不溶,王水,硝酸と酒石酸の混酸,熱濃硫酸に溶解。主要鉱石は輝安鉱。合金としての用途が広く,鉛-アンチモン,鉛-スズ-アンチモンの形で活字金に,また軸受合金,ブルタニア合金などの素材として利用される。蓄電池用極板,半導体材料,吐酒石のような医薬品としての用途もある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「アンチモン」の意味・わかりやすい解説

アンチモン

元素記号はSb。原子番号51,原子量121.760。融点630.74℃,沸点1587℃。銀白色の金属で,光沢がありもろい。塩酸,希硫酸に溶けず,濃硫酸,濃硝酸に侵される。融解したものを凝固させるとわずかに膨張するので活字合金とし,また軸受合金にも用いる。現在では,鉛蓄電池の電極用合金や,半導体など電子材料向けの用途が重要になっている。主要鉱石は輝安鉱Sb2S3で,これを焼いて酸化物とし,炭素で還元して得る。
→関連項目硬鉛

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「アンチモン」の解説

アンチモン

 原子番号51,原子量121.760,元素記号Sb.15族(旧Va族)の窒素と同族の元素.栄養学的には必須元素に加えない.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアンチモンの言及

【ウァレンティヌス】より

…生没年不詳。錬金術師,医師として有名で,初めてアンチモンを医薬品として用いたと伝えられる。錬金術に関する膨大な著作が彼に帰されているが,真偽の定かでないものが多い。…

【鉛】より

…また鉛蓄電池をはじめ,スクラップを原料とした鉛の再生も盛んに行われている。鉛精鉱には一般に鉛以外に金,銀,ビスマス,亜鉛,スズ,ヒ素,アンチモンなどが含有されるので,鉛製錬の際にはこれらも回収される。現在鉛製錬は主として溶鉱炉法で行われ,鉛精鉱を焙焼(ばいしよう)・焼結して酸化鉛鉱塊とする工程,この鉱塊をコークスで還元して粗鉛とする溶鉱炉工程,粗鉛の純度を高める精製工程の3工程から成る。…

※「アンチモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android