改訂新版 世界大百科事典 「ルテニア」の意味・わかりやすい解説
ルテニア
Ruthenia
ウクライナ西部とポーランド南東部にまたがる地域の歴史的名称。ルテニアとは〈赤ロシア〉の意。広義のルテニアは,ウクライナないしウクライナとベラルーシを合わせた地域で,かつてポーランドとリトアニアが領有した東方正教圏を指して用いられる。本来のルテニアは,歴史的名称のガリツィアとほぼ重なる地域で,一言でいえばドニエストル川とサン川(ビスワ川の支流)の流域地帯である。北はプリピャチ川の上流地方に達し,ポレシエ地方と接する。西はポーランド南部のマウォポルスカ地方と重なる。南はカルパチ山脈でハンガリーおよびルーマニアから隔てられる。東はポドリエ地方を含み,ボルヒニア地方および残余のウクライナと接する。現行の行政区分ではウクライナのイワノ・フランコフスク州,リボフ州,テルノポリ州,ポーランドのジェシュフ県,ルブリン県,クラクフ県にまたがる。この地域に含まれる歴史的に重要な都市はウクライナのリボフ,ガーリチ,ポーランドのプシェミシル,サノク,ヘウムなどである。
ルテニアは,12世紀にはキエフ・ロシアの分裂に乗じて有力国家ガーリチ公国を形成し,その後13世紀までガーリチ・ボルイニ公国の一部を成したが,1366年までにポーランドのカジミエシュ3世によってポーランドに併合された。その際ボルイニ地方はリトアニア領となった。ガリツィアは70-87年はハンガリーの支配下におかれ,その後再びポーランド領に戻った。18世紀末のポーランド分割の結果,ルテニアはオーストリアとロシアの領有に帰した。
なお,ルテニア人といった場合にはウクライナ人を指すが,今日では用いられない。ルテニア教会とは,ブレストの合同(1595)によってローマ教皇の権威を認めて形成された東方典礼カトリック教会を指すが,この教会には,ウクライナ,ベラルーシのみならず,リトアニア,スロバキア,ルーマニア,ハンガリーの旧正教徒も加わった。ルテニア教会の主力は現在ではアメリカ合衆国に移り,ロシア領内には教会組織はない。
執筆者:森安 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報